第4話
なんとか無事に学校から帰宅し、晩飯を食べている。いつもと違う味付けで美味しい。
きっと作ったのは凛子であろう。
「凛子さん、君は一体何者なんだ?なにか、スポーツでもやってるの?」昼間の教室の窓に現れたと思ったら、飛び降りても怪我一つしていない。まるで猫のようであった。あの光景を思い出して、改めて彼女が只者ではないとの疑問が湧いた。たとえどんなスポーツをやっていても、あんな事は不可能であろう。
「凛子ちゃんは忍者なんだって」母さんが脳天気に答える。洗濯物をたたんでいる。それを凛子も手伝っている。
「えっ、忍者?」母さんの言っている意味が全く解らず俺は聞き返す。
「知らなかったの?もう凛子ちゃんの事なら何でも知ってるのかと思ってたわ」なんだかイヤラシイ笑い顔を母さんは見せた。
「知らないよ!そんなの」本当に初耳であった。なぜか、少し恥ずかしくて顔が赤くなっている事を自覚する。
「はい、お母様が仰る通り、私の一族は忍の家系なのです。私の父と母も忍者です」何故か、少し照れたような顔が可愛い。
「いや、忍者って時代劇に出てくるあれでしょう。本当にそんなもの今も実在するの?」俺の周りに忍者なんていなかった仕事をしている人は今まで居なかったので、信じられなかった。たまに、テレビで現代忍術って人が出てくるが、昔の忍術とは違うものだと思っている。
「私達は、子供の頃から忍びの技を体に叩き込まれてきました。それに剣術と格闘術も会得しておりますので、ご安心ください」彼女は、少し胸を張って拳で叩いた。
「ご安心って…、えっと、あれ?私達って誰の事?」少し気になったので聞いてみた。
「申し訳ございません。私には、兄と妹がおりまして、間宮の家督は兄が継ぐ事になりましたので、私は京介様…、いえ、京介君の所に晴れて嫁いで来る事ができたのです」少し前のめり気味に主張してきた。どうやら、彼女が家督を継ぐ可能性もあったようだ。
「それ、冗談じゃなくて…、本当の話なの?」まるで違う世界の話のような気がして頭に入ってこない。
「では、信じて頂けないようですので、簡単な術をお見せします。」そう言って、彼女は胸の前で印を結んだ。その途端、俺の目の前から、凛子の姿が消えた。
「えっ!」俺は何かに化かされたように目を擦った。何度見ても彼女の姿はなかった。
「こちらです」声を聞いて振り返ると凛子の姿があった。まるでずっとそこに居たかのように、綺麗な正座をして微笑んでいる。
母さんが凄い凄いと言いながら、パチパチと拍手している。その様子から見て、もう既に色々と技を披露してもらっているのであろうと推測できた。
「よく理解は出来ないけど、凄い事は解った。本当に凛子さんは忍者なんだ。でも、凛子さん。学校では出来るだけ忍者の技は使わないようにしよう」こんな物を皆に見せたら、注目の的になってしまう。
「なぜ、ですか?」彼女は理解出来ないようである。
「いや、そうでなくても凛子さんは、色々と皆の注目を浴びてるし、余り奇抜な事はしないほうが今後も学校でも生活しやすいと思うんだ。それから、学校では俺と凛子さんは、親戚、遠い、いとこって事で通して欲しいんだ」すでに大塚達にはそれで説明済みだ。
「どうして皆さんに、私が京介様…、君の許嫁であることを言ってはいけないのですか!?」なんだか、凄く不服のようである。
「この通り、お願いだ。俺は学業に集中したいんだ。それにそのほうが凛子さんにとっても良いだろう」もちろん嘘である。時間をかけて、彼女の気持ちを変えて、綾瀬先輩との交際を成就するのが、俺の当面の目標である。
「私は、婚約者である事を皆さんに知って頂いたほうが嬉しいのですが、解りました…京介様…、君の言うとおりにします」少し不服のようである。計算した物ではないであろうが、唇を少し尖らせているのが、また可愛い。
「別に皆に話しても良いじゃない、どうせ結婚するんだから皆に公表したほうが楽じゃないの」無責任に母さんが口を挟んでくる。
「お母様!」凛子は嬉しそうに母さんの手を取る。
「無責任な事を言うなよ!まだ、俺達は高二なんだぜ!結婚なんてまだ早いよ!」精一杯反抗する。
「なに、あんた凛子ちゃん好きじゃないの?こんなに可愛いのに、嫌いなの?」答えにくい問いかけをしてくる。凛子は俺と母さんの顔を交互に見ている。その顔はなぜか不安そうである。神の審判を待つ信者のような顔である。
「いや、嫌いではないけれど…」凛子は可愛いし、きっと性格もいい。嫌いになる理由はなかった。花のつぼみが開くように彼女の顔が笑顔に変わった。
「京介様…、いえ君!ありがとうございます」なんだか微笑んでいるのだが泣き出しそうな顔であった。
「なんで泣くの!?とにかく、学校ではいとこって設定でお願いします!」両手を合わせた。
「解りました。学校では忍術は使いません。それと京介様…、君とは、遠い、いとこ同士という事にします」完全には納得していないような顔であったが彼女は渋々ではあるが承諾してくれた。
とりあえずの問題はクリア出来た事にしておこう。
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