第3話
唯唯、疲れた…。
空手部の朝練が終わり教室に移動する。
来週末に予定されている空手の組手県大会に向けて練習がハードになっている。今朝も2分間の組手を10ラウンド完遂してきた。
今回は、俺と綾瀬先輩が代表で選ばれていた。ダブル地区代表で、校内の期待も大きいようである。
「調子は良いみたいね!二人で頑張りましょうね!」綾瀬先輩がウインクする。そのチャーミング(死語)な仕草に俺はときめいてしまう。
「先輩!試合が終わったら…!」
「解ってるわ!でも不甲斐ない試合をしたら約束は無しだからね!」彼女は大きく手を振りながら階段を駆け上がっていった。学年で教室の階数が異なっているのだ。
綾瀬先輩と俺は試合が終わったら水族館デートの約束をしていた。二人分のプレミアムデート限定チケットはすでに購入済みなのだ。
「おはよう京介!」大塚美穂の声。
彼女は、数少ない同じ中学校からの進学組であった。俺は、空手の強豪校である、この県立西高等学校を選択した。大塚は俺よりもずっと成績が良く、もっとレベルの高い高校も狙えただろうに、何故かこの学校を選んだ。入学式に顔を見て正直驚いてしまった。
「だから誤解されるから、俺の名前を呼び捨てにするなよ!」彼女のこの呼び方のせいで少なからず、二人が付き合っていると誤解する奴らもいる。
「そう思うヤツには、そう思わしておけばいいじゃない」大塚は俺の背中を思いっきり叩いた。
「痛い!叩くなよ!」彼女に叩かれた背中がヒリヒリする。
ちなみに大塚は剣道の有段者で、雑誌などでも取り上げられる位の猛者である。色々な高校からも引く手数多だったようなのに、重ねて西高に入学して来たのかは謎である。
お陰で万年負け組であった剣道部も活気づいているそうであった。
「おい!見ろよ!!あの子!!」何だか教室の窓際の男子生徒達が騒いでいる。
「制服が違うけれど、転校生かな?しかしメッチャクチャ可愛いぞ!」
「えっ、どこどこ!?」何故か先頭を切って大塚が窓から体を乗り出した。「本当-…、何者なの…、可愛いすぎるわ」何となくだけれど俺は予感めいた物が頭を駆け抜けた。
「あっ…」教室の窓から見下ろした眼下には、母さんと、白のセーラー服を着用した間宮凛子の姿があった。ポニーテールのようにまとめた髪がとても清楚で輝いているように見えた。刹那、間宮凛子は俺に気がついたようで、少し笑顔で軽く手を振った。男子生徒達の間でざわめきが起きた。
「手を降ったぞ!俺に!」
「いや、俺だ!」「違う、俺だ!」不毛な争いが勃発している。
「あれ、あの一って京介のお母さんじゃなかったっけ?」流石に中学生からの付き合いのせいか大塚は俺の母さんの事も覚えているようであった。
「あっ、いや」俺は動揺を隠せなかった。
「なに!お前、あの美少女さんを知っているのか!?」先ほどまで間宮凛子にメロメロになっていた男子達が俺に詰め寄ってきた。
「あれは…俺の、いや、何でもない!」俺は男子生徒達の間をすり抜けて自分の席に逃げた。しかし、男子生徒達は引き下がらない。
「お前、仲間だろう!俺達にも、あの美少女を紹介しろ!!」
「紹介しろって…!俺もまだ良く知らないんだよ!」昨晩合ったばかりなので、名前くらいしか知らないのだ。
「まだ、まだって何!」何故か大塚が興奮している。まるで闘牛場の牛のような剣幕で詰め寄ってきた。
「いや、あの、遠い親戚…、みたいな…」いつの間にか胸ぐらを摑まれている。大塚から視線を逸らしながら答えた。
「ふーん、そうなんだ。それなら、そうと言いなさいよ」いや、言うタイミングはなかったぞ。
俺は間宮凛子が同じクラスにならない事を神さまに祈った。
「京介君」唐突に名前を呼ばれて声の主を探す。
「えっ」俺は目を疑った。教室の窓の辺りに逆光を浴びた間宮凛子の姿。透けたセーラー服で、彼女のボディラインが見える。100点満点だ。
「明日から、私も京介君と一緒にこちらで勉学を学ばせていただけるそうです。それでは、夕飯をお母様と準備しますので、早めにご帰宅ください」一歩的に話をすると、後ろを振り向きもせずに背面から落ちていった。
「おい、ここは三階だぞ!!」慌てて窓から下を見下ろすと、すでに彼女は校庭に着地し何も無かったかのように愛らしく手を振ってから、母さんの元に走っていった。
「何なんだ、あの子!」
「京介に聞こ…」そこまで言って男子生徒の一人は言葉を止めた。
俺は、大塚に胸ぐらを摑まれ睨みつけられていた。
「京介、あの子は誰!?」
「いや、だから遠い親戚って…」同じ弁解を繰り返す。
「それにしては、彼女のあんたを見る目が、何だかんだこう…」説明出来ないようだが、大塚の目は殺意に満ちているように見えた。
「夕飯を作るって言ってたぞ!一緒に暮らしてるのか!」要らんことを覚えたいる男子生徒が口走った。
「そうよ!どういうことなの!?」さらに襟首を持ち上げられた。
「凛子さんの、お父さんの仕事の都合で、彼女はしばらくウチに住む事になったんだ!女の子なんだから、夕飯の手伝いくらいするだろう!」
「じゃあ、本当に親戚の子なのね?」大塚は手を離した。
「だから、そう言っているだろ」乱れた制服を整えながら、嘘をつく。
「良かった!結婚相手か何かかと思っちゃった」胸をおさえながら、安堵のため息をついた。
「良かった?」その言葉の意味は理解出来なかった。
「あっ、いや、何でもないわ!」大塚は、何故か顔を真っ赤にして両手で顔を覆いながら教室を飛び出して行った。コンタクトレンズでもズレたのか。
「なんなんだ、アイツ」で、振り替えれば、男子生徒達の群れ。
「京介!あの美少女の事を教えろ!」ゾンビに襲われる気持が少し解ったような気がした。
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