第14話 挑戦の力

 ある朝、教室に入ると、黒板に大きな文字で「書道コンクールのお知らせ」と書かれていた。

担任の先生がにこやかに言った。

 「みんなで書道コンクールに挑戦してみましょう!テーマは『未来への一歩』です。それぞれが感じる未来を表現してくださいね。」


 教室内はにぎやかな反応で満ちていた。

 「楽しそう!」

 「どんな文字を書こうかな?」

 一方で、カズキは机に座ったまま、少し不安そうな表情を浮かべていた。


 「僕、書道が苦手なんだよな…。下手だって思われたらどうしよう。」


 そんな心のつぶやきが頭の中をぐるぐると巡り、やる前から気持ちが重くなってしまった。




 家に帰ったカズキは、早速魔法石に相談することにした。

 「魔法石、僕、書道が本当に苦手なんだ。文字が汚いって思われるのが怖いよ…。どうしたらいいかな?」


 魔法石はいつものように柔らかな光を放ちながら答えた。

 「カズキ、何事も『挑戦するだけで価値がある』ってことを覚えていてね。上手い下手よりも、自分の気持ちを込めることが大切なんだよ。」


 その言葉にカズキは少しだけ気持ちが軽くなった。

 「挑戦することが大事…。それなら僕にもできるかもしれない。」




 次の日、書道の授業でいよいよ練習が始まった。

 カズキは筆を手に取り、テーマに沿った言葉を考える。

 「未来への一歩…。僕にとっての未来ってなんだろう?」


 悩んだ末、彼は「挑戦」という言葉を書くことにした。

 「苦手なことにも挑戦する。それが僕の未来なんだ。」


 カズキは慎重に筆を動かした。しかし、うまくいかず、何度も書き直しを繰り返した。

 途中、隣の席のユウタがさらさらと力強い文字を書いているのを見て、少し気後れした。

 「やっぱり僕には無理かも…。こんな字じゃ恥ずかしいよ。」


 そのとき、魔法石の言葉がふと頭に浮かんだ。

 「挑戦するだけで価値がある。」


 その言葉を思い出したカズキは、肩の力を抜き、心を込めて一文字一文字を書くことに集中した。

 「上手じゃなくてもいい。僕らしい挑戦をしよう。」




 完成した作品を見たカズキは、少しだけ満足感を覚えた。

 それは技術的に完璧ではなかったが、彼自身の気持ちがそのまま表れた文字だった。


 「これでいいんだ。これが僕の挑戦の証なんだ。」


 提出の日、カズキは少し緊張しながら作品を持って行った。クラスメイトたちの作品を見ると、それぞれに個性があって素晴らしいものばかりだった。

 「僕のは見劣りするかもしれないけど、それでも頑張ったんだ。」




 コンクールの日、全校生徒の前で優秀作品が発表された。

 カズキの名前は呼ばれなかったが、それでも悔しさは感じなかった。


 その日の放課後、担任の先生がカズキを呼び止めた。

 「カズキくん、あなたの作品、とても心に響いたよ。特に『挑戦』という言葉が力強く、未来への意志を感じさせる素晴らしい文字だったね。」


 その言葉にカズキは驚き、そして嬉しさがこみ上げてきた。

 「僕の文字が誰かに伝わったんだ!」




 家に帰り、魔法石を手に取ったカズキは笑顔で語りかけた。

 「魔法石、ありがとう!君のおかげで、挑戦することの大切さを知ることができたよ。」


 魔法石は静かに輝きながら答えた。

 「その挑戦が次の一歩を作るんだよ、カズキ。君は一つ、未来に近づいたね。」


 カズキは大きく頷いた。

 「これからも、苦手なことにも挑戦していこうって思う。そうやって僕だけの未来を作るんだ。」


 その日の夜、カズキは机に向かい、新しい挑戦の計画を立てていた。

 彼の胸の中には、挑戦の力が静かに、しかし確実に燃え続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る