第12話 笑顔のつながり
ある日の昼休み、カズキは廊下を歩いていると、教室の隅で掃除当番のヨシオが一人で窓を拭いている姿を見つけた。
ヨシオはクラスでも目立たない存在で、いつも物静かにしているタイプだった。周りの子どもたちが友達と遊んだり、おしゃべりを楽しんだりしている中、彼は誰にも頼らず、黙々と窓を拭いていた。
その姿を見て、カズキは何となく胸がちくりと痛んだ。
「一人で掃除をするのは大変そうだな。何か手伝えたらいいのに。」そう思い、近づいて声をかけた。
「ヨシオ、手伝おうか?」
しかし、ヨシオは首を振り、「大丈夫」と短く答えただけで、また作業に戻ってしまった。その態度にカズキは少し戸惑った。助けたい気持ちはあるのに、どうやってヨシオの心に近づけばいいのかわからなかった。
その夜、家に帰ったカズキは机の上に置いてあった魔法石をそっと手に取った。そして、ヨシオとのやり取りを思い出しながら、石に尋ねた。
「どうやったらヨシオを手伝えるかな?僕が何か声をかけても、あまり話してくれなかったんだ。」
魔法石は優しく光りながら、こう答えた。
「笑顔で話しかけると、相手の心が少し軽くなるよ。笑顔には不思議な力があるんだ。それは、誰かを元気にしたり、安心させたりする力だよ。」
その言葉を聞いて、カズキはハッとした。もしかしたら、自分の声かけが少し硬かったのかもしれない。次はもっとリラックスして、笑顔で話しかけてみようと心に決めた。
次の日、昼休みになるとカズキはまたヨシオの様子を見に行った。案の定、ヨシオは再び一人で掃除をしていた。カズキは大きく深呼吸をしてから、できるだけ明るい声で話しかけた。
「ヨシオ、一緒にやったほうが楽しいよ!」
その言葉とともに、カズキはヨシオに向かってにっこりと笑いかけた。ヨシオは驚いたような表情を浮かべたが、しばらくしてから小さく頷いた。
「じゃあ、よろしく。」
ヨシオがそう答えた瞬間、カズキは嬉しくなり、早速雑巾を手に取ってヨシオと一緒に窓を拭き始めた。
二人で作業をするうちに、カズキは気づいたことをヨシオに話しかけるようにした。
「ヨシオって掃除が得意なんだね。窓、ピカピカになってるよ!」
ヨシオは少し恥ずかしそうにしながらも、「こうやって拭くとキレイになるんだよ」と具体的なコツを教えてくれた。
「へぇ、そんなやり方があるんだ!ヨシオ、すごいね!」
カズキが感心すると、ヨシオはほんの少しだけ笑顔を見せた。その笑顔を見たカズキは、ますます嬉しくなった。
やがて二人の間には自然と会話が生まれ、軽い冗談を言い合う場面もあった。
「この窓、カズキの顔が映るくらいキレイになったよ。」
「えっ、僕の顔ってそんなに変かな?」
二人の笑い声が教室に響き、周りで遊んでいたクラスメイトたちも興味を持って集まってきた。
「ヨシオ、すごいじゃん!」「キレイにするコツ教えてよ!」
気づけば、ヨシオを中心にクラスメイトたちが集まり、教室中が明るい雰囲気に包まれていた。
その日の放課後、カズキは魔法石を取り出して語りかけた。
「魔法石、ありがとう。ヨシオが笑顔になったよ。君の言葉のおかげだね。」
魔法石は優しく輝きながら、静かに答えた。
「カズキがヨシオに笑顔を届けたんだよ。その笑顔はヨシオだけじゃなく、周りのみんなにも伝わった。笑顔は心と心をつなぐ魔法なんだ。」
その言葉に、カズキはしみじみと頷いた。笑顔の力を実感し、それが人と人とのつながりを深めることを理解したのだった。
こうして、ヨシオは少しずつクラスメイトと話すようになり、笑顔を見せる機会も増えた。カズキは自分の笑顔がヨシオの心に届いたことを誇らしく思い、これからも誰かを笑顔にするために頑張ろうと心に誓った。
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