第11話 応援の声
運動会が間近に迫り、クラスは毎日リレーの練習に励んでいた。カズキの学校では運動会が一大イベントであり、リレーはその目玉種目の一つだった。クラスメイトたちは勝利を目指して一生懸命練習していたが、その中で少し元気のない様子を見せている子がいた。
それは、ミホだった。
ミホは小柄で、運動があまり得意ではないと自覚していた。そのため、リレーの練習中に足が遅いことを気にして、何度も後ろを振り返りながら走っていた。やがて練習が終わるころ、ミホはぽつりと「みんなに迷惑をかけちゃう…」とつぶやき、涙ぐんでしまった。
そんな彼女の姿を見て、カズキは心配になった。いつも明るく元気なミホがこんなに落ち込むなんて珍しいことだった。
カズキは放課後、自分の机の中から魔法石を取り出した。暖かい光を放つその石を握りしめると、静かに尋ねた。
「どうしたらミホを元気づけられるかな?」
すると、魔法石は優しく語りかけてきた。
「『君ならできる』という言葉は、相手の心に自信の種を植えるよ。どんな小さな種でも、信じる気持ちがあれば、それは大きな力になるんだよ。」
カズキはその言葉を心に刻み、次の日の練習中にミホに近づいた。そして、ミホに笑顔でこう言った。
「ミホ、君なら絶対に大丈夫だよ。僕たちみんなで応援するから、一緒に頑張ろう!」
ミホは少し驚いたような表情を浮かべたが、やがて「ありがとう」と小さくつぶやき、カズキに向かって笑顔を見せた。その瞬間、カズキは魔法石の言葉が確かにミホに届いたことを感じた。
リレー当日。グラウンドには緊張感と期待が漂い、応援席からは保護者やクラスメイトたちの声が響いていた。カズキのクラスは出場順の最後で、ミホがアンカーを務めることになっていた。
ミホは出番が近づくにつれ、手をぎゅっと握りしめて緊張している様子だった。それを見たカズキは、そっと彼女の隣に座り、微笑んだ。
「大丈夫。みんながミホを応援してるからね。君ならきっとできるよ。」
カズキのその言葉に、ミホは少しだけ肩の力を抜くことができた。そして、小さく「ありがとう」と言いながら深呼吸をした。
レースが始まり、各クラスの選手たちが全力で走り抜ける中、ついにアンカーの番が来た。バトンを受け取ったミホは最初こそ少し慎重に走り出したが、応援席やクラスメイトの「ミホ、がんばれ!」という大きな声援を聞いて、次第にスピードを上げていった。
「いける、いける!」「最後まで頑張れ!」
その声は、まるで風に乗ってミホの背中を押しているようだった。ミホの表情は真剣そのもので、懸命にゴールを目指して走り抜けた。そして、ついにクラス全員の期待を背負ったミホは笑顔でフィニッシュラインを超えた。
レースが終わり、クラスのみんなが駆け寄ると、ミホは少し息を切らしながらも満面の笑みを浮かべていた。
「みんな、ありがとう!私、最後まで頑張れたよ!」
その瞬間、カズキは胸がいっぱいになった。ミホが自分の力でやり遂げたこと、そしてその背中を押したのがクラス全員の応援の声だったことを強く感じた。
その日の帰り道、カズキは魔法石を取り出し、そっと語りかけた。
「ありがとう、魔法石。君の言葉がミホを元気にしてくれたよ。」
魔法石は静かに光りながら、こう答えた。
「みんなの心がひとつになると、それが本当の魔法になるんだよ。」
カズキはその言葉に深くうなずきながら、魔法の力は特別なものではなく、誰もが持つ優しい気持ちや応援する声なのだと改めて実感した。
こうして、クラスは一層絆を深め、運動会の後も笑顔が絶えない毎日を送るようになった。
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