第10話 みんなの魔法
「明日は『自分の好きなことを発表する時間』があります。」
担任の先生がそう言ったとき、教室中がざわめいた。子どもたちは思い思いに「何を話そうか」と考え、友達と話し合い始めた。
カズキも席に戻ると考え込んだ。最近、自分が助けられている「ことばの魔法石」のことを発表したい気持ちはあったが、みんなが信じてくれるか不安だった。
「魔法石なんて変だと思われるかもしれない。みんなに笑われたらどうしよう…。」
その夜、カズキは布団の中で魔法石を手に取り、小さな声で相談した。
「魔法石、どうしよう? このことを話したいけど、勇気が出ないんだ。」
魔法石の声はいつも通り優しく響いた。「カズキくん、大切なものは共有すると、もっと素敵なことが起こるんだよ。」
「でも、笑われたらどうするの?」
「それでもいいんだ。君が大切に思うものを伝えることで、きっと誰かの心に届くはずだよ。今日の魔法のことばは、『大切なものは共有しよう』だ。」
カズキは深呼吸をして、魔法石の言葉を心に刻んだ。「わかった、やってみるよ。」
翌日、発表の時間がやってきた。最初の子どもが自分の好きな本を紹介し、次の子はペットの犬の写真を見せながら話した。クラスのみんなが興味津々で耳を傾けているのを見て、カズキは少し緊張した。
「次はカズキくん、お願いします。」
先生の声で呼ばれ、カズキはゆっくりと前に出た。
「僕が発表したいのは、最近出会った『ことばの魔法石』のことです。」
クラス中が静まり返り、カズキの言葉に耳を傾けた。カズキは少し緊張しながらも、これまで魔法石に助けてもらったエピソードを話し始めた。
「 例えば、イライラしたときには『僕は冷静、僕は平和』って唱えるんだ。そうすると、気持ちが落ち着いて冷静に考えられるようになるんだよ。」
「それから、悲しいときは『涙で虹を描く』っていう魔法のことば。金魚が亡くなったとき、このことばで楽しい思い出を思い出せたんだ。」
カズキが一つ一つ丁寧に説明すると、クラスのみんなの表情が変わっていった。最初は驚きや疑問の表情を浮かべていた子たちも、次第に興味を持ち始めた。
発表が終わると、クラスメイトのユリが手を挙げた。
「カズキくん、その魔法のことばってどうやって作るの?」
カズキは少し考えてから答えた。「自分が困っているときに、こんな言葉があったら助かるかもって思うことばを考えるんだ。僕の場合は魔法石が教えてくれるけど、自分で考えることもできると思うよ。」
すると、他の子どもたちも次々と手を挙げて質問をし始めた。
「僕も作ってみたい!」「どんなときでも使える魔法のことばってあるの?」「それって本当に魔法なの?」
カズキは一生懸命に答えた。
「本当の魔法じゃないけど、心の中が温かくなるから、僕にとっては魔法みたいなんだ。」
その日の放課後、数人の友達がカズキのところにやってきた。
「カズキ、僕も魔法のことばを作ってみたよ!」
タケルが教えてくれた言葉は、「失敗しても次がある!」だった。彼は発表会で緊張した経験を話しながら、そのことばが勇気をくれると思ったという。
ユリは「私は『大丈夫、大丈夫』って言うのが好き。なんだか安心できるんだ。」と笑った。
他の友達も自分なりの魔法のことばを考え始め、教室は「ありがとう」「一歩ずつ」「明日はもっと良くなる」など、優しい言葉で満たされていった。
その光景を見たカズキは、心がぽかぽかと温かくなるのを感じた。「僕が大切にしていたものを話したことで、みんながそれぞれの魔法のことばを作り始めたんだ。」
その夜、家に帰ってから魔法石に報告した。
「魔法石、みんなが魔法のことばを作ってくれたよ! 僕、発表してよかった!」
魔法石は静かに答えた。「カズキくん、大切なものを共有することで、君の魔法がもっと広がったね。これからもみんなで優しい魔法を広げていこう。」
カズキは大きくうなずいた。「うん、これからも僕の魔法をみんなと共有していくよ。」
この日を境に、クラスは一段と優しい空気に包まれるようになった。そしてカズキの「ことばの魔法石」は、いつしかクラスのみんなにとっても特別な存在になっていった。
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