第9話 勇気の火
夏休みの終わり、カズキの住む町内でキャンプが行われることになった。日が暮れると、子どもたちが楽しみにしていた肝試しが始まるという話が広がり、カズキも最初はワクワクしていた。
しかし、いざ夜になると、辺りは真っ暗になり、木々の間から聞こえる風の音が不気味に響いていた。カズキは肝試しのコースを見渡しながら、小さな声でつぶやいた。
「暗いし、怖そうだな…。」
カズキの友達のタケルは、そんな彼をからかうように言った。「怖がってるの? カズキ、へっちゃらだと思ってた!」
「そ、そんなことないよ!」カズキは強がってみたものの、内心は不安でいっぱいだった。
出発前、カズキは手のひらの中に魔法石をそっと忍ばせた。そして、石に小さな声で話しかけた。
「ねえ、魔法石。暗闇が怖いとき、どうすればいいの?」
魔法石の温かい声が耳元に響いた。「暗闇が怖いのは、何があるかわからないから。でもね、『僕は光を持っている』と唱えてみて。その光は君の心の中にあって、恐れを照らしてくれるんだ。」
「心の中の光?」カズキは首をかしげた。
「そうだよ。その光は君の勇気そのもの。君がその光を信じれば、暗闇でも進めるんだよ。」
カズキはその言葉を胸に刻み、タケルや他の友達と肝試しのスタート地点に立った。懐中電灯の明かりがわずかに周りを照らしていたが、コースの先は黒い闇に包まれている。カズキは小さな声で「僕は光を持っている」と呟いてみた。魔法石の言葉を信じたいという気持ちが湧き上がった。
「さあ、行こうぜ!」タケルが前を歩き始めた。
カズキは深呼吸をしてタケルの後を追ったが、足元の草や木の影が動くたびにドキッとした。友達と話していたつもりが、ふと気づくと周りが静まり返っていた。
「タケル…? みんなどこ?」カズキは辺りを見回したが、誰の姿も見えない。どうやら道に迷ってしまったようだった。
恐怖が胸を締め付けるようだったが、魔法石の言葉が心の中に響いた。「僕は光を持っている。」
「そうだ、僕には光があるんだ!」カズキは自分に言い聞かせるように呟き、再び「僕は光を持っている」と唱えた。すると、不思議と胸の中が温かくなり、心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。
そのとき、遠くから友達の声が聞こえてきた。「カズキ、こっちだよ!」
「タケル!」カズキは声の方向に向かって走り出した。足元が暗くても怖くなかった。心の中に灯った「勇気の火」が自分を支えてくれているようだった。
友達と再会したカズキは、再びみんなと手をつないで進むことにした。
「カズキ、迷子になってたのに全然怖がってないじゃん。すごいな!」タケルが笑いながら言った。
カズキは少し照れくさそうに答えた。「実は心の中に光があったから、大丈夫だったんだ。」
「心の中の光?」タケルは不思議そうな顔をした。
「うん、僕の勇気が光みたいに暗闇を照らしてくれるんだよ。」
タケルは少し驚いた表情を見せたが、「なんかそれ、かっこいいな!」と笑った。
肝試しのゴール地点に到着すると、そこには大きな焚き火が用意されていた。炎の温かい光がカズキたちを包み込み、みんなの顔が明るく照らされていた。
カズキは焚き火を見つめながら、魔法石に小さな声で話しかけた。
「魔法石、ありがとう。君の言葉のおかげで、怖い気持ちを乗り越えられたよ。」
魔法石の声がふわりと響いた。「その光を持っていれば、どんな暗闇でも進めるよ。カズキの心の中の勇気は、これからも君を守ってくれる。」
カズキは胸に手を当て、その温かさを感じながらうなずいた。肝試しを終えたことで、自分が少しだけ強くなれたような気がした。
その夜、キャンプ場のテントで眠りにつく前、カズキは友達に向かって言った。
「暗闇って怖いけど、心の中に光があれば大丈夫なんだね。」
友達たちも同意してうなずいた。カズキはこれからも、どんな困難にも自分の「勇気の火」を信じて進んでいけると感じていた。
そして、夜空の星々がテント越しにキラキラと輝いていた。カズキの心も、その星空のように輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます