第8話 ありがとうの魔法
カズキは目を覚ますと、朝の光が部屋に差し込んでいた。布団から起き上がり、リビングに行くと、お母さんが台所で忙しそうにお弁当を作っていた。ジュージューとフライパンの音が聞こえ、お母さんの背中が何かを一生懸命準備しているのが見える。
カズキは椅子に座ってぼんやりとその様子を眺めていた。ふと、机の上に置かれた自分のお弁当箱が目に入った。ご飯の上にはきれいな形のふりかけアートが描かれている。卵焼きやウインナー、野菜が彩りよく詰められていて、思わず「わあ、すごい!」と声に出してしまった。
学校に向かう途中、カズキは友達と話しながらお弁当のことを思い出した。「毎朝、お母さんはこんなに丁寧にお弁当を作ってくれるんだな…」と感じた瞬間、胸の中がじんわりと温かくなった。
昼休み、お弁当を広げたカズキは、お母さんが作った料理をじっくり味わいながら食べた。一口一口が美味しくて、「お母さんが頑張って作ってくれたからこんなに美味しいんだ」と改めて思った。
「これって、お母さんにありがとうって言ったほうがいいのかな?」と心の中で考えたが、少し恥ずかしさも感じた。普段は「ありがとう」と口にすることが少なかったからだ。
その夜、家に帰ったカズキは魔法石を取り出し、そっと話しかけた。
「ねえ、魔法石。今日、お弁当を食べてたらお母さんに感謝したくなったんだけど、どうやって伝えたらいいかわからないんだ。」
魔法石は優しい声で答えた。「感謝のことばには特別な力があるよ。『ありがとう』とシンプルに言葉にするだけで、相手の心も温かくなるんだ。そしてその言葉は、君自身ももっと幸せにしてくれるんだよ。」
「でも、なんだか恥ずかしい気がするんだ…」カズキは正直な気持ちを打ち明けた。
魔法石は少し笑いながら言った。「感謝のことばは魔法みたいなものだから、言ってみると、その恥ずかしさが消えていくよ。試してごらん?」
次の日の朝、カズキはいつものように朝食を食べながら、お母さんがまたお弁当を作ってくれているのを見ていた。今日こそ、感謝の気持ちを伝えようと決めていたが、いざとなると緊張してしまった。
学校でお弁当を食べるとき、カズキは昨日以上に「ありがとう」と伝えたくなった。お母さんの作った卵焼きが甘くてふわふわで、野菜もきれいに飾られている。それを口に運びながら、「これを毎朝作るのって大変だろうな」と考えた。
家に帰ったカズキは、お母さんが洗い物をしているところへ近づいた。そして、勇気を出して言った。
「お母さん、今日のお弁当、すごく美味しかった!ありがとう!」
お母さんは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかな笑顔になった。
「どういたしまして。そう言ってもらえると作り甲斐があるわ。」
その言葉を聞いて、カズキは心がじんわりと温かくなるのを感じた。魔法石の言っていたことは本当だった。感謝の言葉には、自分も相手も幸せにする力があるんだ。
その夜、カズキは再び魔法石に語りかけた。「魔法石、ありがとうって言ったら、本当にお母さんが笑顔になってくれたよ。それに、僕もすごくいい気分になった!」
魔法石は穏やかな声で言った。「それが感謝の魔法の力だよ。これからも、何かしてもらったときや嬉しい気持ちになったときは、どんどん『ありがとう』を伝えてみてね。」
カズキは魔法石の言葉にうなずきながら、「これからもっとたくさんの人にありがとうって言おう」と心に決めた。
カズキの「ありがとうの魔法」は、それからもいろいろな場面で活躍することになる。友達や先生、家族に感謝の気持ちを伝えるたびに、周りが明るく、そして温かくなっていくのを感じた。
「感謝のことばって、本当にすごい魔法なんだな。」
そう思いながら、カズキは眠りについた。
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