第7話 チャレンジの翼

 昼休みが終わり、次の授業が体育だと告げられると、カズキの心はざわざわし始めた。体育館に入ると、そこには跳び箱がいくつも並べられていた。体育の先生が生徒たちを集め、声を張り上げた。


 「今日は跳び箱の練習だぞ!みんなでしっかりチャレンジしていこう!」


 その言葉を聞いたカズキは、思わず顔をしかめた。跳び箱が苦手だったからだ。何度も挑戦して失敗した記憶がよみがえる。「また転んだりしたら、みんなに笑われるかもしれない…」と考えると、カズキはやる気を失ってしまった。




 練習が始まり、順番が回ってくるたびに、カズキの胸はドキドキした。他の子たちが軽々と跳んでいく姿を見ながら、どうして自分はこんなに苦手なんだろうと思った。


 「カズキ、次は君の番だよ。」先生の声が体育館に響いた。カズキは渋々跳び箱の前に立ったが、どうしても怖くて足が動かなかった。


 そのとき、ポケットの中の魔法石がほのかに暖かくなり、カズキの心に優しい声が響いた。


 「カズキくん、聞こえる?『やってみよう』ということばを唱えてごらん。そのことばは君に勇気をくれる。そして、チャレンジするたびに君の心の翼が広がるんだ。」


「やってみよう…?」カズキはその言葉を頭の中で繰り返した。少しだけ不安が和らいだ気がした。「失敗してもいいから、まずはやってみよう!」と心の中で決意し、小さく深呼吸をした。




 カズキは両手を床について構えた。足が震えるのを感じたけれど、「やってみよう」とつぶやきながら跳び箱に向かって助走を始めた。結果は、飛び越えることができずに跳び箱にぶつかってしまった。


 体育館に一瞬、静けさが訪れたが、先生が明るい声で言った。「いいぞ、カズキ!最初の一歩を踏み出したね。次はもっと上手くいくよ!」


 周りの友達も「ドンマイ!」「次がんばれ!」と声をかけてくれた。失敗はしたけれど、カズキの中にほんの少し自信が芽生えた。「もう一回、やってみよう!」と思えたのだ。




 何度も挑戦しているうちに、カズキは少しずつ跳び箱の動きを覚えていった。腕の力の使い方、足の踏み込み方、タイミング。先生がアドバイスをくれるたびに、それを取り入れながらチャレンジを続けた。


 最後の練習で、カズキは跳び箱の前に立ち、自分に言い聞かせた。「やってみよう。今度こそ!」助走をつけて跳んだカズキの体は、ついに跳び箱の上を越えていた。


 「やった!」着地と同時に、体育館が歓声に包まれた。カズキは友達や先生からの拍手を受けながら、胸がいっぱいになった。




 家に帰ったカズキは、魔法石を取り出し、そっと語りかけた。「ありがとう、魔法石。『やってみよう』のことばのおかげで、僕、跳び箱が飛べるようになったよ!」


 魔法石は優しい光を放ちながら答えた。「素晴らしいよ、カズキくん。勇気を出して挑戦するたびに、君の翼はどんどん広がっていくんだ。次もきっと、もっと大きなチャレンジが待っているよ。」


 カズキは魔法石の言葉を胸に刻み、次のチャレンジを楽しみにしながら眠りについた。

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