第5話 幸せのかけら

 土曜日の朝、カズキはリビングで宿題をしているときに、ポケットから魔法石を取り出した。魔法石は明るく光りながらカズキに話しかけてきた。

 「カズキくん、今日は新しい挑戦をしてみない?」


 「挑戦?」

 カズキは宿題の鉛筆を置き、不思議そうに魔法石を見つめた。


 「そう、自分だけの『幸せのことば』を作る挑戦だよ!」

 魔法石の声はどこか楽しそうだった。


 「幸せのことばって?」

 カズキは首をかしげる。


 「それはね、君が自分を元気づけたり、楽しい気持ちになれる魔法のことばのことだよ。つらいときや嫌な気持ちになったとき、それを思い出すと心が軽くなるんだ。」

 魔法石はやさしく説明してくれた。




 カズキは少し考え込んだ。「でも、僕の幸せってなんだろう…」


 魔法石は光を揺らしながら答えた。

 「幸せはね、小さなことの中にも隠れているんだよ。毎日あった楽しいことや、心が温かくなった瞬間を思い出してみて。」


 カズキは宿題を脇に置き、昨日のことを思い返してみた。

 昨日、公園で友達とサッカーをしたときの笑顔。お母さんが作ってくれた好きなカレーライスの味。そして、お父さんと一緒にテレビを見て笑い合ったこと。


 「そういえば、こういうとき、僕すごく幸せな気持ちになるかも。」

 カズキは少し照れくさそうに言った。




 「いいね、その気持ちを言葉にしてみよう!」

 魔法石は嬉しそうに促した。


 カズキは鉛筆を手に取り、ノートの端に何度も書き直しながら考えた。そして、少し悩んだ末に、ついに自分の「幸せのことば」を決めた。

 それは――「いつも笑顔でがんばる!」


 「どうかな?」

 カズキが魔法石に聞くと、魔法石は優しく光りながら答えた。

 「とても素敵だよ! そのことばには、君の前向きな気持ちと、笑顔でいる強さが込められているね。」


 カズキは嬉しそうに笑った。「よし、これからはこのことばを唱えてみるよ!」




 その日の午後、カズキは友達とサッカーをしていた。ゲーム中、シュートを外してしまい、悔しい気持ちでいっぱいになった。

 「なんで入らなかったんだ…」

 その場で立ち尽くしそうになったカズキだったが、ふと魔法石のことを思い出した。


 「いつも笑顔でがんばる…」

 心の中でそのことばを唱えると、悔しさが少しずつ和らいでいった。代わりに、「次はもっと上手くできるようにがんばろう!」という気持ちが湧いてきた。


 その後も、何度か失敗はあったけれど、カズキは笑顔でゲームを続けることができた。試合が終わるころには、悔しい気持ちよりも楽しかった気持ちのほうが勝っていた。




 次の日の学校では、クラスメイトのタカヒロと軽い口論になってしまった。お互いに少しイライラして、険悪な雰囲気に。

 カズキはその場を離れて深呼吸し、心の中でまた「いつも笑顔でがんばる」と唱えた。


 すると、不思議なことに、さっきまでのイライラが少しだけ薄れていった。そして、自分からタカヒロに「さっきはごめん」と素直に謝ることができた。タカヒロも「僕も悪かった」と言ってくれ、二人はすぐに仲直りした。




 その週の金曜日、担任の先生が授業中に「みんなの『元気になれる魔法のことば』を考えてみよう!」と話題を出した。カズキは少し驚いたが、迷わず手を挙げた。


 「僕の魔法のことばは『いつも笑顔でがんばる』です!」

 クラス全員が注目する中、カズキは自信を持って言った。


 「どうしてそのことばにしたの?」

 先生の質問に、カズキは少し考えてから答えた。


 「失敗したり、嫌なことがあったりしても、このことばを思い出すと、前向きな気持ちになれるんです。僕が作ったけど、みんなにも使ってほしいなと思います。」


 クラスメイトたちはその言葉に感心し、拍手を送った。その瞬間、カズキは心が温かくなるのを感じた。




 その夜、カズキは魔法石を手に取りながら言った。

 「魔法石、僕の幸せのことば、みんなにも伝えられたよ。ありがとう!」


 魔法石は優しく光りながら答えた。

 「カズキくん、それは君の心の中にあったものなんだ。君がそれに気づけて、広げられるようになったことが、本当に素晴らしいことだよ。」


 カズキは笑顔で頷いた。「これからも、もっとたくさんの幸せのかけらを見つけていきたいな。」


 その夜、カズキは「いつも笑顔でがんばる」ということばを胸に、ぐっすりと眠りについた。彼の夢の中には、たくさんの幸せのかけらがキラキラと輝いていた。

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