第4話 まわりに流されないカズキ

 金曜日の昼休み、教室の一角では男子たちが集まって何やら盛り上がっていた。カズキも自然とその輪に引き寄せられた。


 「この新しいゲーム、マジですごいよ!」「みんなで協力プレイできるんだって!」

 ケンジがスマホでゲームの画像を見せると、クラスメイトたちは口々に興奮した声を上げた。ゲームの名前は「ギャラクシーバトラーズ」。派手な宇宙船やキャラクターが戦う、まさに今話題のゲームだった。


 「これ、絶対買うよな!」

 タカヒロが言うと、周りの子たちも次々と「もちろん!」「今週末にはゲットする!」と答えた。


 しかし、カズキは少し困った顔をしていた。確かにそのゲームは面白そうだし、みんなで遊べるのは楽しそうだ。でも、そのゲームを買うには、これまでためてきたお小遣いを全部使い切らなければならなかった。


 「カズキも買うよね?」

 ケンジが聞いてきた。みんなの視線が一斉にカズキに向く。カズキは内心焦りながらも、「えっと…まだ分からないな」と答えた。




 その日の帰り道、カズキは一人で考え込んでいた。

 「ゲームは確かに欲しいけど、全部お小遣いを使っちゃったら他のことに使えなくなるしな…」


 カズキにはもう一つ欲しいものがあった。それは、前から目をつけていたサッカーのボールだ。友達と遊ぶときに使いたいと思っていたし、ずっと大切にしたいと思えるものだった。


 「どうしよう…みんなが買うなら、僕も買わなきゃ仲間外れになっちゃうかな…」

 カズキの心の中には、不安と迷いが渦巻いていた。




 その夜、カズキは机に向かいながら、ポケットに入れていた魔法石を取り出した。光を放ちながら、魔法石が語りかけてきた。

 「カズキくん、今日は何か悩んでいるみたいだね。」


 カズキはため息をついて答えた。

 「友達が新しいゲームをみんなで買うって言ってるんだ。でも、それを買うにはお小遣いを全部使っちゃうし、他に欲しいものもあるんだよ。でも…僕だけ買わないと、仲間外れになるかもって思うと怖くて。」


 魔法石は少し考え込むように光をゆらめかせた後、こう言った。

 「カズキくん、大切なのは『自分で選ぶ』ことだよ。他の人に合わせる必要はないんだ。君が本当に大事だと思うものを選ぶのが、一番後悔しない道なんだよ。」


 「でも、みんなが持ってるものを僕だけ持ってないと、なんか変に思われるかもしれない…」

カズキは不安そうに呟いた。


 魔法石は優しく続けた。

 「そんなときは『自分の道を歩く』という魔法のことばを唱えてみて。自分にとって何が本当に大切かを思い出せるはずだよ。」




 次の日の朝、カズキは学校に行く前に鏡を見ながら、小さな声で唱えてみた。

 「自分の道を歩く、自分の道を歩く…」


 その言葉を繰り返すうちに、少しだけ心が落ち着いてきた気がした。魔法石の言葉を思い出しながら、自分が何を本当に欲しいのかを考える時間を持つことにした。


 学校に着くと、また友達がゲームの話で盛り上がっていた。

 「早く買いたいなー!」「俺は今夜お母さんに頼むつもり!」

 そんな中、ケンジがまたカズキに聞いてきた。

 「で、カズキはどうする? 買うの?」


 カズキは一瞬迷った。でも深呼吸をしてから、心の中で「自分の道を歩く」と唱えた。そして、できるだけ明るい声で答えた。

 「僕はまだ考えてる。お小遣い全部使うのはちょっともったいない気がして。」


 ケンジは少し驚いた顔をしたけれど、「そうか。まあ、それもアリだよな。」と軽く返してくれた。周りの子たちも、それ以上は何も言わなかった。




 家に帰ったカズキは、もう一度じっくりと考えた。新しいゲームは確かに面白そうだし、みんなで遊ぶのも楽しいかもしれない。でも、自分が本当に欲しいものは、サッカーのボールだということに気づいた。


 「やっぱり、ボールを買おう。ゲームはまた今度でもいいし、別の楽しみ方もあるはずだ。」

カズキは自分の選択に自信を持つことができた。




 数日後、カズキが友達と公園でサッカーをしていると、ケンジがやってきた。

 「カズキ、そのボール新しいやつ?」

 「うん! この間買ったんだ。すごく蹴りやすいよ!」


 ケンジは笑いながら言った。

 「いいなー! 俺も買おうかな。」

 その言葉を聞いて、カズキは少し驚いた。自分が選んだものが友達にも影響を与えていることに気づいたのだ。




 その日の夜、カズキは魔法石を握りしめて感謝の気持ちを伝えた。

 「魔法石、ありがとう。君の言葉で、自分で選ぶことの大切さが分かったよ。」


 魔法石は温かく光りながら答えた。

 「カズキくん、自分の道を歩くっていうのは簡単じゃないけれど、それが君を本当の意味で強くしてくれるんだよ。」


 カズキはその言葉を胸に刻みながら、これからも自分の選択を大切にしていこうと決意した。

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