第2話 不安のヒント
次の日、カズキのクラスでは発表会が予定されていた。カズキの役割は、自分たちのグループが作った「未来の街」の模型を説明すること。普段は元気で活発なカズキだが、人前で話すのはちょっと苦手だ。
「失敗したらどうしよう…みんなに笑われたら?」
そんな不安が頭の中でぐるぐるして、カズキは落ち着かなかった。練習しているときも、ついセリフを間違えたり、声が震えたりしてしまう。
「どうしよう…僕には無理かもしれない。」
放課後の帰り道、カズキはため息をつきながら歩いていた。
家に帰ると、カズキは昨日拾った魔法石をポケットから取り出し、机の上に置いた。石をじっと見つめていると、またふわっと温かい感触がして、優しい声が聞こえてきた。
「カズキくん、今日はどうしたの? 少し元気がないみたいだね。」
カズキはうなだれながら石に話しかけた。「明日、クラスの発表会があるんだけど、失敗しそうで怖いんだ。どうしたらいいか分からないよ…」
魔法石はしばらく黙っていたが、やがて静かな声で言った。「不安には『準備する』と『忘れる』という魔法のことばが効くんだよ。」
「準備する」と「忘れる」?
カズキは首をかしげた。「どういう意味?」
魔法石は説明を始めた。「『準備する』は、やるべきことを小さく分けて、それをひとつずつ練習すること。たとえば、いきなり全部を完璧にやろうとするんじゃなくて、まずは最初の一言だけを練習してみるんだ。」
カズキは少し考え込んだ。「それなら…できるかもしれない。」
「そして『忘れる』は、失敗しても大丈夫だと信じること。失敗を恐れると、不安がどんどん大きくなっちゃう。でも、『もし失敗しても次がある』って思えば、心が軽くなるんだよ。」
その晩、カズキは早速魔法石のアドバイスを試してみることにした。まずは、自分のセリフを短い部分に分けて、最初の一文だけを練習する。
「これは僕たちが考えた未来の街の模型です。」
カズキは鏡の前でその一文を繰り返し練習した。何度も何度も声に出しているうちに、少しずつ言葉がスムーズに出てくるようになった。
「よし、次の部分も練習してみよう!」
少し自信がついたカズキは、次のセリフも練習していった。最初は不安でいっぱいだったが、小さな一歩を繰り返すたびに、心が軽くなっていくのを感じた。
寝る前、カズキは布団の中で目を閉じながら、もうひとつの魔法のことばを唱えてみた。
「失敗しても大丈夫。次がある!」
最初はなかなか信じられなかったが、何度も繰り返すうちに、失敗を恐れる気持ちが少しずつ薄れていくのを感じた。そして、こう思うようになった。
「たとえ失敗しても、みんなに笑われても、それはそれでいいかも。次にもっと上手にやればいいんだ。」
その考えが浮かぶと、不安で硬くなっていた体が少しだけリラックスした。
ついに発表会の朝がやってきた。カズキは少し緊張しながらも、魔法石の言葉を思い出して深呼吸をした。
「僕は準備した。だから大丈夫。失敗しても次がある。」
いよいよカズキのグループの順番が来た。模型の前に立つと、カズキは少し手が震えているのを感じた。でも、自分に言い聞かせた。
「準備したことをやるだけ。大丈夫、僕ならできる。」
最初の一言を口にした瞬間、カズキの緊張は少し和らいだ。次のセリフも、そしてその次も、練習した通りに話すことができた。途中で一瞬つっかえそうになったけれど、深呼吸をして、もう一度話し始めた。
発表が終わると、教室が拍手で包まれた。友達も「よくやったな!」と声をかけてくれた。
カズキはほっと胸をなでおろしながら、ポケットの中の魔法石をそっと握りしめた。そして心の中でつぶやいた。
「ありがとう、魔法石。君のおかげで、不安に負けずに頑張れたよ。」
その日の帰り道、魔法石がカズキに語りかけた。「どうだった、今日の発表?」
カズキは少し照れくさそうに笑いながら答えた。「最初はすごく怖かったけど、準備と忘れるをやったおかげで、ちゃんとできたよ。」
魔法石は優しく言った。「それはカズキくん自身の力だよ。不安は誰にでもあるけれど、それを乗り越える力もみんな持っているんだ。カズキくんはそれを見つけたんだね。」
カズキは大きくうなずいた。「これからも頑張るよ。次はもっと上手になりたいから!」
不安を乗り越えたカズキの心には、新しい自信が芽生えていた。そして、次の挑戦を楽しみにする気持ちが広がっていた。
カズキの冒険はまだまだ続く。魔法石が教えてくれる新しいことばとともに、これからどんな未来が待っているのだろう?
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