ことばの魔法

まさか からだ

第1話 イライラの消しゴム

 小学4年生のカズキは元気いっぱいの男の子だ。でも、ちょっと困った癖がある。それは、些細なことでイライラしてしまうこと。例えば、ゲームで負けたり、友達がからかったりすると、顔を真っ赤にして「もうやだ!」と怒ってしまうのだ。


 そんなある日の午後、学校が終わって家に帰る途中で、カズキは道端にキラリと光る不思議な石を見つけた。それは、普通の石とはちょっと違う。小さな手のひらにちょうど収まる大きさで、表面には何か文字が彫られている。


 カズキは興味津々でその石を拾い上げた。よく見ると、石にはこう書かれていた。


 「イライラの消しゴム」


 「イライラの…消しゴム?」

 思わずつぶやいたカズキは、なんだかその石がただの石じゃないような気がして、そのままポケットにしまい込んだ。




 家に帰ったカズキは、自分の部屋で改めてその石を眺めた。すると、不思議なことが起きた。石がふわっと温かくなり、優しい声が聞こえてきたのだ。


 「こんにちは、カズキくん。」


 「だ、誰だ!?」カズキは驚いて周りを見回したが、誰もいない。声は石の中から聞こえているようだった。


 「僕は『ことばの魔法石』。カズキくんのイライラを消すお手伝いをするために来たんだ。」


 カズキは目を丸くして石を見つめた。「イライラを消す? そんなことできるの?」


 魔法石は静かに答えた。「できるよ。ただし、カズキくん自身が魔法のことばを使わないとね。」


 「魔法のことば? それって何?」


 「それはね、深呼吸しながら、『僕は冷静、僕は平和』って唱えるんだ。」


 カズキは半信半疑だったが、ちょっとワクワクしてきた。「本当にそれでイライラが消えるの?」


 魔法石はニコリと笑うような声で答えた。「試してみたらわかるよ。」




 その日の夜、カズキは宿題をしていた。すると、お母さんが部屋に入ってきて、ちょっと厳しい声で言った。


 「カズキ、机の上が散らかりすぎよ。何度も言ってるのに、どうして片付けないの?」


 カズキは一瞬ムッとして言い返そうとした。「だって…!」でも、そこでふと思い出したのは、ポケットに入れた魔法石のこと。


 (そうだ、あの魔法のことば…試してみようかな。)


 カズキは小さく深呼吸をして、心の中でゆっくり唱えてみた。

 「僕は冷静、僕は平和。」


 すると、不思議なことが起きた。さっきまで体の中でメラメラ燃えていたような怒りが、まるでスッと消えていくような感じがした。代わりに、「お母さん、どうしてそんなに怒ってるんだろう?」と冷静に考える余裕が生まれた。


 「…わかったよ。ちゃんと片付けるから。」

 カズキはそう答えると、机の上を片付け始めた。


 お母さんは少し驚いた顔をしていたが、すぐににっこり笑って「ありがとう」と言ってくれた。




 次の日、学校でまた魔法石の力を試すチャンスがやってきた。昼休みに友達とサッカーをしていたカズキは、シュートを決めようとしてボールを蹴ったが、大きく外してしまった。すると、チームの友達が笑いながらこう言った。


 「カズキ、へたくそだな!」


 一瞬カズキの顔がカッと赤くなりかけたが、昨日のことを思い出して、ポケットの中の魔法石にそっと触れた。そして、心の中で唱えた。


 「僕は冷静、僕は平和。」


 すると、また怒りがふっと消えていくのを感じた。そして、カズキは笑いながらこう返した。


 「まあ、次は絶対入れるから見ててよ!」


 友達も笑って「頑張れよ!」と答えた。それ以上、誰もカズキをからかうことはなかった。




 帰り道、カズキは魔法石に話しかけた。「あの魔法のことば、本当にすごいね。どうしてこんなに効くの?」


 魔法石は優しく答えた。「それはね、カズキくんが心を落ち着けようと努力しているからだよ。魔法のことばはきっかけに過ぎないんだ。本当に怒りを消しているのは、カズキくん自身の力なんだよ。」


 カズキは少し驚いた。「僕自身の力…?」


 「そうだよ。怒りをコントロールする力は誰にでもあるんだ。カズキくんはもうその力を見つけたんだね。」




 それからカズキは、イライラしたときに魔法石のことを思い出すようになった。そして、「僕は冷静、僕は平和」という魔法のことばを唱えるたびに、少しずつ怒りを上手にコントロールできるようになっていった。


 学校でも、家でも、前よりずっと笑顔が増えたカズキ。魔法石はポケットの中で静かに輝き続けている。カズキはこう思った。


 「魔法石が教えてくれたのは、自分を変える力なんだ。」


 カズキの冒険はまだまだ続く。次はどんなことを学ぶのだろう?

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