第11話 ヒロインの自覚!
「・・・・・・私は女だ。ほら、この通り胸もちゃんとある」
他の者にはギリギリ聞こえない声でそう囁くと、ノア・ハジャルツ第一
「・・・・・・ドキドキしてる? 男の子に初めて触られたんだから、そりゃドキドキもするさ」
俺は無理やり、自分の手をその胸から離して小さな声でこう言った。
「・・・・・・なぜこんな重大な秘密を俺に?」
原作ゲームではノア・ハジャルツ第一皇子(実は5人いるヒロインの一人でノア
それなのに、本編よりずっと前に、それも悪役貴族の俺に打ち明けるだなんてどう考えてもおかしすぎる。
「なぜって・・・・・・そうだなぁ。ベルベッチア、君が私を初めて負かした男の子だからかな?」
そうやって笑うノア・ハジャルツ第一皇子は、どっからどう見てもかわいい女の子にしか見えなかった。
ひょっとして俺は推しキャラの一番最初の男になれたのか!
そう思うと俺はずっとすましてはいたが、本当は飛び上がりたいくらいうれしい気分になってしまっていた。
「魔術書簡の個人アドレス交換しようよ。ベルベッチア、君とはいい友達になれそうだ。・・・・・・ほんとは友達と書いてライバルなんだけどね」
そう言って、ノア・ハジャルツ第一皇子はペロッと舌を出してみせた。
友達と書いてライバル?
まだこの子にヒロインの自覚はないみたいだ。
◇
「ベルベッチア! 大変なお手柄だったみたいね! こんなことなら、あたくしも観に行けばよかったわ! 決闘場なんて女の行くところじゃないって思ってたけど、これからは頻繁に通おうかしら!」
俺と同じ紫色のロングヘアを片方だけ耳にかけた、茶色い瞳の少し気の強そうな美人といった感じの顔立ちの母、リッサ・ラーグ
「いや、本当にお前にも見せてやりたかったよ! ベルベが剣からわざと手を離して、その剣の行方に相手の意識が一瞬向いたその隙に
これだけでわかると思うが、ラーグ侯爵家当主、グレゴリード・ラーグ侯爵は俺に滅法甘い(家族団らんの場で俺の話題になると一人称が私からパパに変わるほどに!)。
それは自分の妻であるリッサ・ラーグ侯爵夫人に幻術をかけられているからだ。
もし、グレゴリード・ラーグ侯爵が俺が自分の実の息子でないと知れば、俺は彼に殺されるかもしれない。
殺されなくてもこの家から追放されるのは間違いないだろう。
母がそれを恐れて彼にだけめちゃくちゃ強い幻術をかけてしまったがために、グレゴリード・ラーグ侯爵は俺にだけ激甘なのだった。
しかし、やはり母に幻術をかけられている俺のきょうだい達もそれが変だとは思っていないようなのだ。
だから、シュリップ・ラーグも自分の父が俺にだけ激甘なのには一切触れずにこう言ったのだった。
「あんなズルをしていいんなら、僕だって勝てましたよ! 魔術だってベルベッチアより僕の方がうまく使えるし!」
すると、ここでサーシャン・ラーグがわずかに笑ったのが俺にもわかった。
「なんだ? サーシャ! 何か言いたいことがあるならちゃんと口に出して言ったらどうだい? そんな、さも意味ありげな嫌らしい笑みを浮かべたりしないで!」
それに対して、わが妹、サーシャン・ラーグはこう答えた。
「いやですわ、シュリップお兄様! サーシャは笑ってなんていません! 元々こういうお顔なのです! それに文句があるならどうぞ母上に苦情を言ってくださいませ!」
そのシュリップ・ラーグの一番触れられたくない領域に思いきり切り込むような一言に、さすがにみんな絶句していると、ここであの時決闘場にはいなかった俺と一番歳の近い最後の一人の兄、セルスナ・ラーグが口を開いたのだった。
「そうですね、確かにシュリップ兄さんの魔術の腕は相当なものです! でも、シュリップ兄さんは挑みもしなかったんでしょう? それならまだ真っ先に挑んだだけ、グラハム兄様の方が立派ですよ!」
しかし、そう言われてもグラハム・ラーグはあの時の自分をまだ恥じているのか、下を向いたままだった。
シュリップ・ラーグはそんな自分の兄のことをチラリとだけと見てから、こう言い返したのだ。
「・・・・・・その場にいなかったくせに、偉そうなことを言うなよ! 確かに最初に戦いを挑んだグラハム兄様が立派なのは認めるけど、とにかくベルベッチアのあの作戦は卑怯だ! あんなのが許されるなら僕だって戦いを挑んでいたさ!」
すると、ここで俺と一番歳の近い兄、セルスナ・ラーグはこう言ったのである。
「でも、シュリップ兄さんは闇属性魔術を使えないでしょう?」
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