第5話 驚きの黒幕!
原作ゲーム『サーザント英雄伝』では、女家庭教師アナシア・ダッシェンウルフをこの城に差し向けた黒幕の名は明らかにされていなかった。
だから、アナシア・ダッシェンウルフからその名前を聞いた時はさすがに驚いた。
「・・・・・・ミーゼンツ
念のため銀色の聖眼で確かめてみたのだが、答えは同じだった。
カッサム・ミーゼンツ侯爵と言えば、ハジャルツ帝国の皇帝ハジャルツ2世の右腕と呼ばれている筆頭参謀官だ。
そして、サーザント王国とハジャルツ帝国との国境で日夜睨み合っているのが、俺たちラーグ侯爵家とそのミーゼンツ侯爵家なのである。
てっきり同じサーザント王国の敵対貴族か何かの差し金だと思っていたのだが、もっとずっと厄介な話だった。
だが、原作ゲーム『サーザント英雄伝』では世界に8体いるとされている魔王(軍)との戦いがメインで、サーザント王国とハジャルツ帝国の戦いは描かれていなかったはずだ。
「・・・・・・もし母の暗殺が成功していたら大事になっていたぞ! ハジャルツ帝国はサーザント王国と戦争がしたいのか?」
俺が聖眼を使わずに(まだ魔力量が少ないのであまり連続して使うことができないのだ)問うと、アナシア・ダッシェンウルフはこう答えた。
「いえ、そうではありません。ただベルベッチア様も知っての通り、ミーゼンツ侯爵家とラーグ侯爵家には昔から浅からぬ因縁があって、100年前の戦争では当時のミーゼンツ侯爵家の当主がラーグ侯爵家の者によって殺されています」
「その100年前の恨みを今日俺の母を殺すことで晴らそうとしたというのか?」
「・・・・・・はい」
100年前の恨み?
にわかには信じがたい話だ。
少し休憩したら、また聖眼で同じ質問をしなければいけないだろうが、答えは同じかもしれない。
きっと本当のことをこの女は知らされていないのだ。
少なくとも、俺を真剣に見つめるその燃えるように紅い瞳の輝きに嘘はないように思われた。
そんなことを考えていた俺に、アナシア・ダッシェンウルフはこう提案してきたのだ。
「この暗殺が失敗し、わたくしが寝返ったとむこうが知ればそれこそ大事になります。・・・・・・ですので、アナシア・ダッシェンウルフは自決したことにして、これからはわたくしは名を変え、変身魔術で姿も変えてベルベッチア様に生涯尽くさせていただきます。・・・・・・ベルベッチア様! わたくしに新しい名をお与えください!」
「変身魔術で四六時中、姿を変えると言うのか? そんなことが本当に可能なのか? 半日も経たないうちに魔力が尽きてしまうだろうに!」
「大丈夫でございます! わたくしは幼い頃から魔力の総量が人よりかなり多い特異体質だったのでご心配には及びません!」
◇
女家庭教師アナシア・ダッシェンウルフは、ローズ・ローベンツと名を変えて、女家庭教師ではなく、新人メイドとしてラーグ侯爵家に雇われることとなった。
アナシア・ダッシェンウルフの変身魔術の腕は凄まじく、皆には水色のストレートヘアで痩身の胸のほとんどない、そばかすだらけのつまらない女に見えているらしい(他の使用人に確認した)のだが、俺には変わらず燃えるように赤いロングウェービーヘアに紅い瞳の超がつくほどの美人で細身のモデル体型とは不釣り合いな豊満すぎる胸を持つ、あのアナシア・ダッシェンウルフにしか見えないのだ。
「お
俺は女家庭教師アナシア・ダッシェンウルフから魔法全史と世界地理学を学んでいた。
俺は魔術や剣技について具体的に書かれている書物を読むのは得意なのだが、それ以外の本を読むのはひどく苦手だった。
それでも、気に入ってる女に読み聞かせをしてもらうとすぐに頭に入ってくるので、女家庭教師からメイドになっても、継続して彼女から学ぶことにした。
周りの使用人達は、無類の面食いで知られていたらしい俺がパッとしない見た目の新人メイドばかりを自室に呼びたがることを不審に思っているようだったが、俺は別に気にしていなかった。
なぜなら、俺にだけそのパッとしない女が絶世の美女に見えているのだから。
俺はその日も、女家庭教師アナシア・ダッシェンウルフ(新人メイドのローズ・ローベンツ)の膝枕を堪能しながら、その豊満すぎる胸を下から眺めていた。
「・・・・・・ベルベッチア様」
「・・・・・・なんだ?」
「やはり、この講義の仕方はどうかと思うのですが・・・・・・」
「嫌なのか?」
「いえ、むしろお慕いしているベルベッチア様にわたくしの膝枕を使っていただいてこれ以上ないほどの幸せを感じているのですが・・・・・・」
「なんだ? はっきり言え!」
「ベルベッチア様の教育によくないのではないかと」
「なぜだ?」
「・・・・・・ベルベッチア様はまだ10歳であられるのに・・・・・・わたくしのような・・・・・・いやらしい体をした女をあまり近くで見るのはよくないのでないかと思うのです」
「どこがいやらしい体なのだ? 俺はアナシアの体はとても美しいと思うぞ! 美しいものを見ることは教育上なにも悪くはない! 考えすぎだ!」
「はい・・・・・・ベルベッチア様がそうおっしゃるのならそうなのでしょう。・・・・・・わたくしも、もう少し自分の体に自信を持とうと思います」
「そうだな。もう少し自信を持ってもいいかもしれんな! アナシアは顔も体も心もとても美しい女だ。俺が保証してやる!」
「ああ、ベルベッチア様! もったいないお言葉ありがとうございます!」
「では、講義を続けてくれ!」
「はい、ベルベッチア様!」
そうやって、俺がいつものスタイルで女家庭教師アナシア・ダッシェンウルフ(新人メイドのローズ・ローベンツ)の講義を受けていると、いきなりノックもなしに誰かが入ってくる気配がした。
俺はその気配を感じた時点で、アナシアの細いのに絶妙な柔らかさを持った魅惑の太ももから、泣く泣く自分の頭を離脱させた。
なぜなら、こんな夜中にノックもせずに俺の部屋に入ってくる人間を俺はたった一人しか知らなかったからだ。
「ベルベお兄様! このミーシャ、若干9歳にして、また新しい上位魔術を習得いたしましたのよ! ぜひ一番最初にご覧になってくださいませ!」
前世では妹のいる男っていろいろ最高だろうなと思ってたけど、いろいろ苦労も絶えないんだなって今は思う。
まあ、総合すればやっぱり最高なんだけど!
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