第6話 サーシャン・ラーグはヤバい妹①
わが妹、サーシャン・ラーグは魔術の天才である。
その証拠に、一流の魔術士が生涯かけて一つ身に付けられれば奇跡とも言われているオリジナルの上位魔術を9歳ですでに4つも習得している。
とは言っても、俺にはこの金色の瞳(魔眼)があるから、書物さえ読めば現在296あると言われている既存の上位魔術なら全てをその気になれば1年くらいで習得することも可能なはずなので、この恐ろしい天才を見ても劣等感はあまり感じない。
恐らくは前世の記憶を取り戻す前の俺も、どういうわけか(もしかしたらガチで愚かすぎてそのすごさが理解できなかっただけかもしれないが)今の俺と同じように劣等感など感じず普通に接していたのだろう。
そのことがこの妹にとってはレアなことであったらしく、両親や他のきょうだいよりも俺に懐いているのだった。
髪は父から受け継いだ美しい金髪で、瞳もやはり父から受け継いだ宝石のようにきれいな
まあ、めちゃくちゃな美少女だった。
だが、そんなわが妹サーシャン・ラーグには欠点もあって、
「おい! クソメイド! さっさとサーシャのベルベお兄様から離れなさい! こんな夜中までベルベお兄様の部屋に入り浸っているなんて、まったく汚らわしいったらありゃしないわ! ・・・・・・ああ、わかっているだろうけど上位魔術のことは他言無用だからね! 誰にも言うなよ! 言ったら即殺すからな! クソメイド!」
というような、めちゃくちゃ感じの悪いしゃべり方を下の者にはするのだ。
「はい! もちろん上位魔術のことは秘密に致します! サーシャン様! それに今すぐ退出いたしますので!」
そう言って女家庭教師アナシア・ダッシェンウルフ(新人メイドのローズ・ローベンツ)が俺の側から離れようとしたので、俺はこう言ったのだ。
「よいのだぞ、別にそんなに急いで退出しなくても」
「・・・・・・ですが」
「お兄様! たった一人のかわいい妹と二人きりになりたくないのですか?」
「なりたくないね」
「キャーッ! たまらない! ベルベお兄様のツンデレ最高ですわ!」
「ツンデレって、デレたことなんてないだろ?」
「このサーシャがいつかデレさせてみせます!」
「そんな未来の希望的観測で人をツンデレ認定するな! 愚かな妹!」
「キャーッ! このサーザント王国一の最高の魔術の天才、サーシャン・ラーグのことを愚かな妹呼ばわり! たまりませんわ! その傍若無人ぶり! お父様が聞いたらきっと卒倒してしまわれますわ!」
「父様の前で言うわけがないだろう?」
「では、最近のベルベお兄様はこのサーシャに甘えておられるのですね!」
「・・・・・・どっからそんな発想が出てくるんだ?」
「グヘヘヘヘのベルベお兄様も愉快で楽しかったですけど、今のツンデレな・・・・・・いえ、今のところは激ツンのベルベお兄様の方がサーシャはもっと好きですから安心してくださいね!」
グヘヘヘヘとこの妹の前でも愚かに笑っていたのかと思ったら、我ながらゾッとしてしまった。
だから俺は少々強引にこの話題を切り上げたのだった。
「・・・・・・いいから、新しい上位魔術を習得したんだろ? 見せてみろよ!」
すると、わが妹、サーシャン・ラーグは天使のような満面の笑みを浮かべてこう言ったのである。
「いいですよ! ベルベお兄様がそんなに見たいのならお見せいたしましょう! このサーシャの最新作を!」
上位魔術とは、火属性、水属性、氷属性、雷属性、風属性、地属性、樹属性、闇属性(闇属性魔術を使える人間はほとんどいない)の8属性魔術のうちの最低でも2つをある程度習得した者しか使うことができない合成魔術である。
つまり、二つ以上の属性魔術を合成して新たな魔術を作り上げるわけだ。
もちろん、さっきも少し話したように、全く新しい未知の魔術を作り上げることなど滅多にできない。
大抵の者の言う上位魔術とは、すでに先人がそのレシピを書き残している既知の組み合わせであることが常なのだが、わが妹はそんなものを上位魔術とは呼ばない。
すでに話したように、わが妹が習得している4つの上位魔術は全て彼女のオリジナルなのだ。
そして、もちろんこれからわが妹が披露する上位魔術も彼女のオリジナルであることはほぼ間違いなかった。
「やはり、席を外してくれ、ローズ。わが妹がこれから見せてくれる上位魔術は控えめに言っても国家レベルのトップシークレットだからな」
「はい! ベルベッチア様の仰せのままに!」
そう言って出ていく推しキャラのいろいろ魅力的な後ろ姿を呑気に最後まで見送っていたこの時の俺は、この後まさかあんなことになるなんて夢にも思っていなかったのだ。
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