第1話 七つの大罪《怠惰》の悪役貴族!

! お坊っちゃまの大切なウサギちゃんの絵皿を誤って割ってしまいました! どうかお許しください!」


「ウサギちゃんの絵皿・・・・・・それはウサギちゃん2匹バージョンか? それともウサギちゃん3匹バージョンか? ・・・・・・どっちだ?」


「・・・・・・ウサギ2匹バージョンでございます!」


「そうか、そうか。3匹バージョンではなかったか! よかった! よかった!」


「はい! では、許していただけるのですね?」


「許す? 許すわけがないだろう! 俺のお気に入りのウサギちゃんの絵皿を割った時点で、ウサギちゃん2匹バージョンであろうとウサギちゃん3匹バージョンであろうと貴様は地下の牢獄行きに決まっているだろうが! グヘヘヘヘッ!」




 ――史上最低の宝の持ち腐れ男。




 それが俺が転生してしまったベルベッチア・ラーグの二つ名だった。


 生前、陰キャぼっち高校生ゲーマーの俺がハマりにハマってやり込んでいた超大作恋愛冒険アクションRPG『サーザント英雄伝』に出てくる、主人公達を持ち上げるためだけに存在する噛ませ犬の怠惰で愚かな悪役貴族で、全方位から嫌われている一番のクソキャラ。


 魔眼と聖眼という2つのチート級

能力スキルを持ちながら、尋常ならざる怠惰さのせいでその価値に死ぬまで気づかず、さらには使用人の中で唯一心を許していた見目麗みめうるわしい女家庭教師に闇落ちさせられ、殺人狂となる哀れな男。


 それなりに普通に努力し、闇落ちさえしなければ、8ほぼ全ての魔術や剣技を書物等で少し学べば一瞬で身につけられるなどの能力スキルを宿す魔眼と、相手に真実を語らせることができるなどの能力スキルを宿す聖眼の力で、このゲームの本編の第一部である5人の主人公と5人のヒロインが集まるあの学園編でも十分無双できただろうに。


 だが、原作ゲーム『サーザント英雄伝』では結局全く努力せず、さらには闇落ちして殺人狂となってしまうベルベッチア・ラーグは、露見した数多あまたの悪事により、5人の主人公の誰かに断罪されて殺されてしまう運命なのだ。


 そして、この恐ろしいほどの怠惰さは、ベルベッチア・ラーグが七つの大罪のひとつである《怠惰アケディア 》の罪を体現することを運命づけられた生まれながらの怠惰者たいだしゃゆえのことなのだが(理由は不明)、なぜかこの『サーザント英雄伝』には残りの六つの罪に関連したキャラクターが登場しないのだ。


 七つの大罪という言葉をせっかく出したのなら、《傲慢スペルビア》 、《嫉妬インヴィディア》 、《憤怒イラ 》 、《強欲アヴェリティア》 、《暴食グラ 》、《色欲ルクスリア 》の残りの六つの罪に関連したキャラクターも登場させた方がもっと物語が盛り上がると思うのだが。


 もしかしたら、その六人はシークレットキャラで、何かの課題をクリアしたら現れる仕様になっているのだろうか?


 そうだったら激アツなんだけど・・・・・・。



 


 美しい紫の髪に、ほんの少しだけ尖った両耳、そして金色(魔眼/右目)と銀色(聖眼/左目)のオッドアイ。


 そして、白シャツ×カメオトップのループタイにワインレッドのチョッキを重ね、下は黒の半ズボンに白タイツ、ピカピカの黒い革靴。


 原作ゲームでよく知っているはずのこの姿を毎日全身が映る大きな鏡で見てきたというのに、なぜ前世の記憶がなかなか甦らなかったのだろうか。



「俺のお気に入りのウサギちゃんの絵皿を割った貴様は地下の牢獄行き決定だ! グヘヘヘヘッ!」


「べルベお坊っちゃま! 地下牢行きだけはご勘弁ください! それ以外の罰なら何でも受けますから!」


「オオッ! 言ったな! グッヘヘ・・・・・・じゃあ、何をしてもらおうかな? ええっと・・・・・・じゃあ、まずはその頭をツンツルテンに剃り上げて・・・・・・」


「ツンツルテン? それだけは、それだけはご勘弁を!」


「ならん! 貴様は今日からツンツルテンメイドだ! 来年まで髪を伸ばすことは許さん! グヘヘヘヘッ!」


 とまで言ったところで、俺はやっと陰キャぼっち高校生、与志原よしはら 真平太しんぺいただった頃の前世の冴えない記憶を取り戻したのだった。


 そして、それと同時に俺は、自分が悪役貴族ベルベッチア・ラーグであるということと数分前までの出来事以外のこの世界でのそれまでの記憶をほとんど失ってしまったのだ。



 グヘヘヘヘ?


 これって絶対闇落ちした後だよな?


 闇落ちしてない人間がそんな笑い方をするはずがない!


 絶対、すでにもう何人か殺っちゃってるよな?


 このグヘヘヘヘという笑い方が幼い頃のベルベッチア・ラーグの悪癖あくへきだったことをすっかり忘れていた俺はそう思って、前世の記憶を取り戻したと同時に、自分は近い将来身に覚えのない罪で主人公達に断罪され殺されてしまうのだと思いっきり絶望し、地獄に叩き落とされたのだった。


 しかし、その直後、視界にの姿が映ったことで俺は一瞬でその地獄から生還を果たしたのである。


 あの燃えるような赤い髪のがまだ生きているということは、どうにか間に合ったということか!



 ここ、ラーグ侯爵城こうしゃくじょうで行われる俺の10歳の誕生日パーティーで、俺の母である、ラーグ侯爵夫人は午後9時きっかりに殺されてしまうのだ。


 そう、彼女こそがこの死にとり憑かれた一族、ラーグ侯爵家のなのだ。


 そして、その事件によって俺、ベルベッチア・ラーグは闇落ちしてしまう。


 母を殺したのは俺の誕生日パーティーの参加者の一人に化けていた魔物で、その魔物をこの城に招き入れたのは俺の家庭教師である、、アナシア・ダッシェンウルフ(その後、自決)。


 この二つの哀しい事実を知った俺は殺人狂へと闇落ちしてしまうのだった。


 それは原作ゲームでは決して変えることのできない、公式サイトや攻略本には、ラーグ侯爵夫人殺人事件(ベルベッチア・ラーグが5人の主人公の誰かに断罪されて殺されると闇落ちしたきっかけであるこの事件をまとめた美麗なムービーが毎回流れる)とだけ記された本編以前に起こった決定事項なのだった。



「・・・・・・これは確認なのだが、俺の10歳の誕生日パーティーはいつ行われる? グヘヘヘヘッ!」


 いきなり愚かな性格が劇的に改善したら絶対怪しまれると思い、最後にグヘヘヘヘをつけてにそう質問すると、こんな答えが返ってきた。


「ベルベお坊っちゃまの10歳の誕生日パーティーは7から行われる予定でございます」


 よしっ!


 マジでギリギリセーフだった!


 とにかく前世の記憶と原作ゲーム知識を思い出したのだから、もうこの新生ベルベッチア・ラーグには《怠惰アケディア 》の罪なんて関係ない!


 愚かな性格は怪しまれないようにまだ当分残しておいた方が良さそうだが、怠惰な悪役貴族はもう卒業だ!


 これからはこの大好きなゲーム世界で本気でエグいぐらいに努力して、まずはこの最初の破滅フラグをバッキバキにへし折ってやる!



 ――ラーグ侯爵夫人殺人事件発生まで、あと49時間58分32秒。



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第1話を最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


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( 〃▽〃)

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