第1話 史上最低の宝の持ち腐れ男!

! お坊っちゃまの大切なウサギちゃんの絵皿を誤って割ってしまいました! どうかお許しください!」


「ウサギちゃんの絵皿・・・・・・それはウサギちゃん2匹バージョンか? それともウサギちゃん3匹バージョンか? ・・・・・・どっちだ?」


「・・・・・・ウサギ2匹バージョンでございます!」


「そうか、そうか。3匹バージョンではなかったか! よかった! よかった!」


「はい! では、許していただけるのですね?」


「許す? 許すわけがないだろう! 俺のお気に入りのウサギちゃんの絵皿を割った時点で、ウサギちゃん2匹バージョンであろうとウサギちゃん3匹バージョンであろうと貴様は地下の牢獄行きに決まっているだろうが! グヘヘヘヘッ!」




 ――史上最低の宝の持ち腐れ男。




 それが俺が転生してしまったベルベッチア・ラーグの二つ名だった。


 生前(死んだかどうかはよく憶えていないから不明)、陰キャぼっちゲーム廃人(※クラスメイトの椎野しいのつぐみ談)の俺がハマりにハマってやり込んでいた超人気学園恋愛アクションRPG『サーザント英雄伝』に出てくる悪役貴族で、全方位から嫌われている一番のクソキャラだ。


 魔眼と聖眼という2つのチートスキルを持ちながら、尋常ならざる怠惰さと、愚かさのせいでその価値に死ぬまで気づかず、さらには使用人の中で唯一心を許していた見目麗みめうるわしい女家庭教師に闇落ちさせられ、殺人狂となる哀れな男。


 それなりに普通に努力し、闇落ちさえしなければ、ほぼ全ての魔術や剣技を書物を一読すれば身につけられる(などの)魔眼と、相手に真実を語らせることができる(などの)聖眼で、5人の主人公と5人のヒロインが集まるあの学園でも十分無双できただろうに。


 実際、嫌われてはいるものの一部のファンからはベルベッチア・ラーグ最強説が真しやかに囁かれていたし、何を隠そうこの俺もとゲームのプレイ中に何度も考えたことがあったくらいだった。


 だが、原作ゲーム『サーザント英雄伝』では毎回全く努力せず、さらには闇落ちして殺人狂となってしまうベルベッチア・ラーグは、露見した数多あまたの罪により、5人の主人公の誰かに必ず断罪されて殺されてしまう運命なのだ。


 

 美しい紫の髪に、ほんの少しだけ尖った両耳、そして金色(魔眼)と銀色(聖眼)のオッドアイ。


 ゲームでよく知っているはずのこの姿を毎日鏡で見てきたというのに、なぜ前世の記憶がなかなか甦らなかったのだろうか。



「俺のお気に入りのウサギちゃんの絵皿を割った貴様は地下の牢獄行き決定だ! グヘヘヘヘッ!」


「べルベお坊っちゃま! 地下牢行きだけはご勘弁ください! それ以外の罰なら何でも受けますから!」


「オオッ! 言ったな! グッヘヘ・・・・・・じゃあ、何をしてもらおうかな? ええっと・・・・・・じゃあ、まずはその頭をツンツルテンに剃り上げて・・・・・・」


「ツンツルテン? それだけは、それだけはご勘弁を!」


「ならん! 貴様は今日からツンツルテンメイドだ! 来年まで髪を伸ばすことは許さん! グヘヘヘヘッ!」


 とまで言ったところで、俺はやっと前世の陰キャぼっち高校生だった頃の冴えない記憶を取り戻したのだった。


 そして、それと同時に自分が悪役貴族、ベルベッチア・ラーグであるということ以外のこの世界での記憶を俺は失ってしまったのだ。



 グヘヘヘヘ?


 これって絶対闇落ちした後だよな?


 闇落ちしてない人間がそんな笑い方をするはずがない!


 そう思って前世の記憶を取り戻したと同時に、俺は身に覚えのない罪で主人公達に殺されてしまうのだと思いっきり絶望し、地獄に叩き落とされたのだった。


 しかし、その直後、俺の視界にが映ったことで俺は一瞬でその地獄から生還を果たしたのだ。


 がまだ生きているということは、どうにか間に合ったということか!



 ここ、ラーグ侯爵城こうしゃくじょうで行われる俺の10歳の誕生日パーティーで、俺の母である、ラーグ侯爵夫人は殺されてしまうのだ。


 そう、彼女こそが死にとり憑かれた一族、ラーグ侯爵家のなのだった。


 その事件によって俺は闇落ちしてしまう。


 母を殺したのは俺の誕生日パーティーの参加者の一人に化けていた魔物で、その魔物をこの城に招き入れたのは俺の家庭教師である、、アナシア・ダッシェンウルフ(その後、自決)。


 この二つの哀しい事実を知った俺は殺人狂へと闇落ちしてしまうのだった。


 それは原作ゲームでは決して変えることのできない、公式サイトや攻略本には、ラーグ侯爵夫人殺人事件とだけ記された(ベルベッチア・ラーグが5人の主人公の誰かに断罪されて殺されると闇落ちしたきっかけであるその事件をまとめた美麗なムービーが毎回流れる)本編以前に起こった決定事項だった。



「・・・・・・これは確認なのだが、俺の10歳の誕生日パーティーはいつ行われる? グヘヘヘヘッ!」


 俺がいきなり性格が変わったら怪しまれると思い、思わず最後にグヘヘヘヘをつけて(もちろんその直後に大失敗してしまったと悔やんだ!)、にそう質問すると、こんな答えが返ってきた。


「お坊っちゃまの10歳の誕生日パーティーは明日の夜7時から行われる予定でございます」


 マジでいろんな意味でギリギリセーフだった!

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