陸の孤島に告ぐ。
吉野 真衣
陸の孤島に告ぐ。
陸の孤島に想いをはせる。それぐらいは出来ているからあとは忘れていくだけだった。そろそろ記憶も消えかけている。だから自信がついてきて活動的になっていた矢先だった。街から人が消えていた。
「おそらくこれが最後だろう。だから私は躊躇なく……」
彼女の名前は萌(はじめ)という。遅咲きのフォトグラファーと言えば聞こえはいい。遅れてきた写真家と言えば喜ぶような体質だからどうにも変態の部類に入る。友人は多い。寂れた街を写真に収めていたら、一箇所だけ空間が歪んでいる場所を見つけた。距離を取りながら触れる。ふわふわとした感触。危険だとは思わなかった。
おそらくこの街のスイートスポットだった。路上生活等で過ごすのに最適なのだ。空気感が丁度よい。暖房が効いているように暖かい。空を見上げれば――。
「空が遠い。地上が無力に見える」
一瞬でお気に入りの場所になった。しかし人の気配はなかった。
これからこの街がゲームのようにビルが建ち人が住み、店が立ち並び子供が遊ぶ。人間の想像だけで実現できるにまで至るには力が必要だろう。陸の孤島はそれが実現しなかった彼女が諦めた場所だった。
陸の孤島に告ぐ。 吉野 真衣 @yoshinomai1202
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