爪先立ちで誇張する。

シーラ

第1話




「俺はいつだって、先を見通して行動できるんだ。先見の明がある優れた男ってヤツ。」


学食で一人、ゆっくりランチを食べていると。同期の彼が近寄ってきて、私の隣の席に勝手に腰掛けてきた。


「なあ?お前もわかってるだろ?」


「何が?」


彼との付き合いは大学に入学してから。2年間も側で勉学を共にしていると、彼は随分と見栄を張る性格だなと思う場面をよく見る。


家庭教師のバイト先で、とても優秀だから時給が高くなったと自慢して回ったせいで。サークルの飲み会で、同期達から大先生とおだてられて全員に奢らされる羽目になり。それから暫くは、彼のお弁当がもやし炒めとおにぎりだけだったのを私は見逃していない。


教授から一番に目をかけられているんだと、周囲に自慢をしているけれど。蓋を開けてみれば、程の良い雑用係としてタバコの買い出しや不倫相手とのアリバイ工作に利用されていた。そのお陰で、教授の妻から共犯者として訴えられかけていたと同期から笑い話として聞かされている。


「俺はさ、ここに留まっているような男ではないんだ。これから大学を休学して、アメリカにいって一旗あげてくる。」


「どうやって?」


「俺は人を見る目を培ってきた。向こうで金持ちの付き人になって、おこぼれに与って世界中を見て回って、更に人について学び。それを活かして人材コンサルタント業を始める。年商は目標三億円だ。」


「壮大な計画だね。頑張って。」


夢を思うのは自由だし、私には実害が無いので素直に応援の言葉だけを伝えておく。すると、彼はそれはそれは嬉しそうに笑った。


「ありがとう!君はいつも嘘が無く話してくれるね。きっと、将来は良い男性に見初められ幸せになれるだろう。」


「それも、貴方が先の見通しができるからわかるの?」


「そうだよ。」


彼は唐突に席を立つ。何も食べなかったので、私に宣言だけしに来たようだ。本当にアメリカに行くのなら、お別れは言っておこう。


「元気でね。いつか会社のホームページが出来たら教えて。」


「ああ。元気でな。」


彼は後ろ手に手を降りながら去って行ったけれど、食堂の出入り口で盛大に転けた。15センチシークレットシューズを履いているので、足を上手く上げきれられなかったのだろう。

私は5センチヒールで何とか歩けているのに、それの倍以上の高さ。それでも履き続けているのには尊敬する。


そんな彼が税関で取り囲まれるのは、数日後の出来事であった。

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