5‐③
袋から汁が滴るが、そんなものに気を留めぬ程、自分の集中がここにあることに気が付いた。
要点は2人が異性にならないことにあるが、何が何でもというわけではなく、両者が納得のいく帰着でなければならないのだ。
幼少の脆くある関係を、以降にトラウマとなる可能性すらある破壊を、自分の裁量によって行うには躊躇が及ぶ。
つまりは2人が互いの興味を抱かないよう、流れを誘導するだけが俺のとれる最善であり、それが唯一とれる行動であった。
子供たちは「じゃあ」といったのち、三者三様につらつら意見を述べる。
和葉は「折角だから3人で遊ぼう」と提案する。
叶芽は「お前らとは遊びたくない」と頑なに突き放す。
アリスは「またそんなこと言って」と趣旨に沿ってない窘めを残す。
この3人の内の誰かに委ねる流れを見出さなければならないが、俺が遂行すべきことに適した、まあ悪く言えば利用できる人物を1人見つけた。
「でも、確かにそういう物言いは感心しないな叶芽君。2人ともに友達だろう?」
中々キョドった口振りではあったが、効果はてきめんだった。突然の裏切りに叶芽君は愕然とする。
2人の仲をたがわせる上で、必ずしも物理的なものである必要はない。子供心に無理やり引き合わせることで叶芽君の心象を悪くしていくのだ。
いくら一緒に遊んでいるといえ、それが嫌々であればフラストレーションは溜まる一方、距離は縮まることはないだろう。これが当たり触りなく穏便に済ます解決法だ。
そんな様子に女子2人は目を輝かせているが、しかしやはり彼は反抗に出る。
「遊びたくない、遊ばない。女子たちと遊ぶのなんて変じゃん」
男目線で何となくの正論味は感じる。感じるが、だが、俺本人の主張なんて予測はたやすい。いくらでも言いくるめてやろう。
「だからそんなこと言うなよって。それに友達は多いに越したことはないだろう?」
詭弁である。この2人と遊びたくないことと友人の多さに関係はない。
「別にこいつらと仲良くなくていいし!」
「でもそれで将来的に気の合う人がいなくなった場合、ここで仲いい友達がいることで交友関係に困ることはないと思うぞ」
詭弁である。確定もしていない将来に不安を巡らすなどは時間の無駄である。
「こいつら以外の友達と遊べばいいじゃん!」
「でもお前、この2人以外に友達いなくね?」
「グゥフッッ!!?」
詭弁である。議論における本人への直接攻撃はNG行動。結論など出ず、相手を不快にさせるだけの愉悦だ。
過去転生した俺は詭弁だけで小学生相手に無双する。
プルプルと震えたまま餓鬼の戯言を吐きだすが、その戯言を見かねたらしい和葉は、何故か自分の事かのように勝ち誇ったアリスちゃんへと何らかを耳打つ。
俺はその時、彼女らが何をしているかに気が付かなかった。
「今、反対意見をしてるのはお前だけだぜ? そろそろ観念しろよ」
「うっ、ぐぐぐぐぐ……」
(ふふふ、どうだどうだ、そのまま嫌々で遊ぼうもんなら、アリスちゃんへの好感度なんて溜まらんだろう。このままとどめを……)
「木内さん、あとは私に任せて!」
「……!? え、和葉……?」
「私たちの話だもん。ほら、アリスちゃんが言いたいことあるって」
不味いことになった。幼い感情なんて繊細なもんだ。下手な一手は心を動かしかねない。
しかし、そんな一瞬になど抑えることはできず、睨んでいるのか、照れているのか、ほくそ笑んでいるのか、顔面をぐちゃぐちゃにした彼女が爆弾を投下した。
「き、木内君……、も、ももも……元はと言えばぁ、あたしのせいだし……その、もう言わないから……、……一緒に遊ぼ」
いつか見た幼心の起伏、所謂ツンデレだが、あの時との違いとしては俺は失恋した直後だということだ。
「……! うん……、じゃあいい……遊ぶ」
やられた。不快感はそもそも彼女に向けたもののために、それらが払拭したとあらば、俺の弁論という名の屁理屈は意味がなくなったと言える。
2人は近づき、傍目にもいい雰囲気で仲直りの握手を交わす。笑顔の隠しきれていないアリスちゃんに、叶芽君もはにかんでしまう。
(俺の前で、俺の姿で、和葉意外といちゃつくんじゃねえぇ……!!!)
何も理解していない目配せと立った親指がちらちらするが、この胃から液体が逆流する感覚は、この時代に来てもはや慣れてしまったかもしれない。
「それで、その……、ごめん……なんだけど、いつもは一緒に遊んでたのに、なんで今日はあんな感じだったの……?」
どうやらアリスちゃんは少ししかめながら問いかけたようだが、嫌らしげな表情を浮かべるも、俺と和葉には聞こえないよう彼女の耳元で囁ていた。
(くそっ、なんだ!? 何の話をしてんだ!!?)
「ちょっ! 近っ……!!」
「あんま人に聞かれたくないからさ……、お前だけに教えるけど、秘密にしててほしいんだけど」
「……!! ……わかったわ。秘密にする」
「うん。つってもあんま長い話でもないんだけど」
「な……何……?」
「和葉に告白して振られた」
「…………は?」
「だから和葉と遊びたくなかったんだけど、それをお前のせいにしちゃって……ん?」
出し抜けに現れた2人だけの空間を憂うが、もう可能となる行動が俺にはなかった。
「ねぇねぇ、ちょっと2人近くない? チューとかしちゃう?」
「和葉、俺はそういう下世話はダメだと思うな」
「ひえっこわ、もうしない……」
両手で口を紡ぎ、寄せた眉のしわを見た時、突然に平手打ちの甲高い音があたりに響いた。
「!!?」「!?」「……!!?」
「ばかあああああぁああぁ!!!! もう知らない!!!!!」
謎の捨て台詞ととも、反対方向へと走り抜けていったが、彼女を除く俺たちは呆然としかできなかった。
「お前……なにしたの?」
「……わかんない」
頬に手を当て、目を点にして、その規格外の無粋さには正直なところ安堵がある。
(結果的にはよかったのか……? これは仲違いできてるのか?)
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