5‐②
買い物袋を両手に引っさげていること以外は、先日の揺らぎやこの騒音も、そしてこの道で微妙な表情をあらわにしていることにも変わりはなかった。
二転三転はしていない。ただ、問題の先送りによる拡大があまりに急速すぎるのだ。
今の俺の脳内にはあのブロンド髪がなびいているが、彼女に対する好意だとかそんなものは一切ない。
(今の現状は維持できたとして、和葉への俺の矢印がなくなりつつある中、もしアリスちゃんが俺に告白でもしようもんなら……)
そしてもし、そのまま元の時代に帰還できたとして、俺の恋愛関係が歪んでいるままなのだとしたら。
(俺の相手はしののめに……)
この暑い夏場にて全身が冷えていく。胸の辺りがむかむかしていく。毛根が死滅していくのを感じる。
和葉への感情というのも勿論なのだが、それはいったん置いておくにしても、東雲だけはありえない。本当にありえない。
(まずいよなぁ……。心底まずいんだよなぁ)
俺は東雲さんをうざい女子程度にしか見ていない。……今なお変わらず。
そりゃあそうだ。小学生の頃から俺にだけ悪態三昧、中学生の頃になっても俺にだけマウント三昧、さらには20半ばであろうとその性格は不変であり。
35にもなって子供時代の好き嫌いを人間関係に持ってくるつもりはないが、それでも嫌いなもんは嫌いだ。
(嫌な三角関係だな。……ん? この場合は四角になるのか? 35の俺を入れたら……)
俺━━叶芽君
↑ ↙ ↑
和葉⇔アリス
こういう感じの……。
(知りたくなかったわ、こんな事実。……この図に35歳いるの際立ちすぎだろ)
吐き気さえも催すほど危惧するままに、河原をまたぐ橋に通りかかった。と、ここでもデジャヴを感じさせられる組み合わせが揉めている様子。
(うわっ、間の悪いこと……)
「あ! 木内さんだ!! 今帰り?」
「おっさん……こいつどうにかしてくれよ!」
「おー……、どうした? なんか揉めてるのか、まあ揉めてるよな……。えっと……、アリスちゃんはどうしたんだ」
あまりに早い解散への疑問に和葉が答える。
「あのあとね、一緒に遊んでたら……」
『…………』
『ん、どうしたの? への口しちゃって』
『えっ!? い、いや……、なんでも……』
『ん? ……あっ! もしかして、叶芽君に帰ってほしくなかったとか』
『はぁっっ!!?!? そんな訳……っ! なんであいつなんか!』
『そうなの? アリスちゃん叶芽君とも遊びたいのかなーって』
『うっ……、う~……ん……』
『どうする? 呼んでくる?』
『……むっ……………………う…………ん…………、いや! あたしはどうでもいいけど!! 和葉ちゃんがどうしてもって言うな……』
『うん、じゃあ呼んできまーす』
『あたしはどうでもいいから!! どうでもいいからね!!!』
「って感じでね、アリスちゃんが何かどよ~んってしてたから、理由聞いたら叶芽君が帰っちゃったのが嫌だったんだって」
(うわ全部ばらされてる……)
共感はできないが同情はしつつ、しかし案の定、納得のいかない彼はかみつく。
「知るかそんなの! 第一、あいつが来んなっつったんだろ」
(まあ、そりゃそうだな)
吠える相手を間違えていること以外はこのうえなく正論だと思ったが一方、和葉からしてみると、ただ駄々をこねられているだけに見えたであろう。
「いいじゃん、別に。アリスちゃん叶芽君と遊んでたらいつもより楽しそうだもん。木内さんも仲良しの方がいいよね」
「えっ……! 俺!? …………あー……、やぁ……別に…………、無理はしなくていいんじゃないかとは……思う、と言いますか……」
「ええー! なんでそんなこと言うの!?」
大人としては失格だが、ここでそんな余裕をみせられることなどなく。エゴと言われようが関係ない。
「ほら見ろ。それにどちらかと言えば俺は、あんまお前と……」
「? お前と?」
「いや……なんもない」
(……? しかしどうしたもんか、こいつがどうであれ、アリスちゃんは機会さえあればいつでも仕掛けられる状況だぞ)
前回の失態がずっと重くのしかかるなら一層、この3段階目となる芽は摘んでおくに越したことはない。
「叶芽君もこうであるならさ、2人で遊んでた方がいいんじゃないかなぁ……ってう」
「そうだそうだ」
「むう、なんか息合ってるし……」
(よしよし、このまま押して2人の仲を隔てていければ、心配には預から……)
「あ゛ぁぁーー!!! こんなとこにいだぁぁ……、1時間もほったらかさないでよ!」
「!!?」
話の中心核である彼女が息も絶えたえに走り寄って来た。
「げっ、東雲……来んのかよ」
「うわあ! 木内君!!」
このままでは関係が迷宮入りしてしまう。
俺は2人の間を取り持つようにぶち壊さなければならないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます