第3話 スライム、戦い方を模索する
「お前は、今からオヂスラって呼ぶことにするわ」
突然の先輩の一言に、俺は目を丸くした。
「なんですか、それ?」
「いや、お前の模様だよ、模様!見ろよ、その疲れたおっさんみたいな模様。中年の哀愁漂いまくりだろ。オヂスラで決まりだ!」
模様……?自分の姿なんてまだよくわかってなかった俺は、先輩が丸い体を曲げて鏡の様に映し出してくれた自分の姿を覗き込んだ。そして驚愕した。
「なんだこれ……身体に、疲れ果てたおっさんみたいな模様が……」
「そうだよ。すげえだろ?こんな初めて見たわ」
先輩はケラケラと笑っている。俺には全然笑えない。なんでスライムの体にこんな模様があるんだよ。
「我ながらナイスなネーミングセンスだな。」
この先輩、適当すぎる。
そんなくだらない会話をしていると、入り口の方から足音が聞こえてきた。冒険者が再び洞窟に入ってきたのだ。
「おい、オヂスラ!来たぞ、出番だ!」
「ちょっと待ってくださいよ!全然休めてないんですけど!」
「そんなの関係ねぇ!ほら、行くぞ!」
全く容赦のない先輩の言葉に従い、俺は仕方なく戦闘準備に入った。
姿を現したのは二人組の冒険者。剣士と弓使いらしい。装備からして初心者ではなさそうだ。
「雑魚スライムが2匹か。楽勝だな!」
剣士が嘲笑しながら剣を構える。それを聞いて、先輩スライムがニヤリとした(ように見えた)。
「よっしゃ、俺が行くぜ!」
先輩は勢いよく突っ込んでいった……が、その直後、剣士の一振りであっさりと切り裂かれ、床に崩れた。
「早っ!」
その場で泡となって消え去る先輩。え?足止めがどうとか言ってなかったか?
復活システムがあるとはいえ、あまりの潔さに呆然とする俺。
しかし、ぼんやりしている暇はない。次は俺が狙われる番だ。
「命大事に、命大事に!」
俺は慌てて後退しながら必死に考える。
先輩のさっきの話では、冒険者を相手にまともに戦っても勝ち目はない。
だからと言って、逃げ回るだけではいずれ追い詰められる。完全に八方塞がりだ。
どうにかして切り抜ける方法はないのか?そうだ、前世で愛読していたネット小説の知識を試してみよう。弱小キャラが工夫を凝らして勝利する方法……思い出せ、俺!
まずは、地面に粘液をばら撒いてみる。剣士が勢いよく踏み込んできた瞬間、その足元が滑り、バランスを崩した。
「よし、第一の作戦は成功だ!」
次に、俺は跳躍して剣士の頭上へ飛び乗る。そして、スライムの体を広げて口と鼻を覆うように張り付いた。
「ぐっ……息が……!」
剣士が苦しそうにもがいている間に、弓使いが弓を引いてこちらを狙ってくる。しかし、顔を覆うスライムを攻撃すると、剣士にまで致命傷を与えてしまう為、攻撃をためらっている様だ。
剣士は喉をかきむしり、やがて顔が青くなって、痙攣し出した頃、俺は剣士の頭から飛び降た。
まずは1人、でもまだ1人残ってる!
弓使いの標準を絞らせない様に俺は動き回った。しかし、相手も歴戦の弓使い、身体に何本か矢が突き刺さる。
運がいいのか、無駄な足掻きでも効果があったのかは分からないが、俺はまだ致命傷は避けられていた。
しかし、ジリジリと確実に追い詰められていった。
そのとき、近くの地面に奇妙な仕掛けが見えた。
「ん?あれ、罠か?」
俺は咄嗟に自ら仕掛けの上に足を踏み入れ、罠を発動させた。瞬間、槍が飛び出して弓矢使いを背後から襲う。
「ぐわっ!」
予想外に上手くいったことに、俺は内心ガッツポーズを決めたが、なんとか勝ちを拾っただけだと言うこともわかっていた。
二人の冒険者が行動不能になり、俺はその場を立ち去った。
――
バックヤードに戻ると、先輩スライムが復活して俺を迎えた。
「おい、オヂスラ。どうだった?」
「なんとかなりましたけど……運が良かっただけです。」
俺は深いため息をついた。正直、こんな戦い方でこれからもやっていける気がしない。しかし、不思議と戦うことへの恐怖心は少しずつ薄れていた。
手応えは少しではあるがあった。ならば、俺も全力でやるしかない。
ふと自分の体を見てみると、模様が不規則に動いていることに気づいた。怒りや恐怖、驚き……どうやら感情に連動しているらしい。
「お前、その顔ほんと面白いな!今の死にそうなおっさん顔、最高!」
「うるせえよ!」
先輩に茶化されながらも、俺はこの模様が冒険者を混乱させる武器になるかもしれないと考えていた。
俺はまだ弱い。それでも、この体と頭を使って、少しずつ戦い方を見つけていくしかない――。
――つづく――
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