だん@オタサーの姫

前回のあらすじ!

(本文冒頭をご参照ください)

―――――


 ゲームのアバターになったお姉ちゃんは魔法の実験しているとさっちゃんに捕まり、オタ部に入部させられたが、そこへやって来た不良が喧嘩を始めた。底辺高にすっかり染まったお姉ちゃんは当たり前のように部室のパソコンでゲームを始める。突如、破壊されるパソコン。振り返ると、そこにはお姫様の格好をした不審者がいた。


 私ことだんちゃんは、まるで怪文書がごとき現実に頭を抱えていた。


 が、そんな私を差し置いて、現実は進む。


「ええっと、そこのアナタ?

 ここはどこでしょうか?」

「はイ!? ここはオタ部の部室です?」


 適当に目についた不良Aに声をかけるお姫様。

 不良らしからぬビビりっぷりで返す不良A。


「オタブ、というのはどこの国でしょう? それに、ブシツとは?」

「っと、その前に、お姫様はどこの国のお姫様ッスか?」

「あら、これは失礼しました。

 ワタクシ、リヤゲナ国のトーキテ姫と申します」

「い、」

「い?」

「異世界転生キター!」


 が、不良Aはすぐに歓声を上げた。


「やべぇ! 本物の姫だ!」

「あれ? 異世界転生って俺らが行く方じゃね?」

「んなこたいいんだよ!」


 周りの不良B、不良Cも一緒になって盛り上がる。

 今度はお姫様の方が混乱を始めた。


「あ、あの?」


「失礼しました! 姫!」

「ここは姫様のいる世界とは別の世界でして!」

「姫は何かの理由でこの世界に飛ばされたと思われます!」


 お姫様に嬉々として話しかけまくる不良ども。

 お前ら、最初ビビってたのはどうした?


(まあまあ、だんちゃん、とりあえず、私たちが原因っぽいことはとりあえず誤魔化せてるからいいんじゃない?)

〈お姉ちゃんこそ、スマホで撮ってないで、さっさとナントカしなさいよ〉


 何か正論を言っている空気を出すお姉ちゃんだが、手にスマホを握っていては何の説得力もない。まったく、さっちゃんにバレたらどうするんだ。


(え? でも、ほら、さっちゃんも写真撮ってるし)


 さっちゃんの方へ目を向けるお姉ちゃん。

 そこには、目を輝かせながら、スマホでお姫様を撮りまくるさっちゃんが。

 しまった、さっちゃんもオタだった。

 こうなったら、私が何とかするしかない。

 お姉ちゃんを動かすべく、頭の中で話しかける。


〈で? どうすんの?

 さっき「私たちが原因」とか言ってたけど、私は知らないからね?

 なんでお姫様のカッコした不審者が出てきたのか、心当たりあるの?〉

(うーん、多分、さっきゲームの中で「姫を呼び出す魔法」を使ったから、間違って何かに反応しちゃったんじゃないかな?)

〈何かってなに?〉

(さあ? お父さんじゃないから、私には分からないよ。でも、姫を呼び出す選択肢を選んだのが、何か魔法のトリガーになっちゃったんじゃないかな?)

〈お姉ちゃん、これからゲームするの禁止ね?〉

(ええ!? な、なぜ!?)


 何か抗議の声を上げているが、XXXから危険物を遠ざけるのは当然の判断だ。ゲームが危険物になってしまったのはお父さんのせいなので、文句があるならそっちに言ってほしい。


〈とにかく、何とかしなさいよ?

 何とかできそうなの、お姉ちゃんくらいなんだから〉

(うーん、でも、せっかく盛り上がってるところだし……)


 しかし、お姉ちゃんは不良A~Cの方へ目を向けて、


「まあ、なんてこと。私は別の世界に来てしまったのですね?」

「大丈夫です姫!」

「お任せください!」

「俺たちが! 姫の世界に送り返して見せます!」


(うん、せっかくだし、もうちょっと、付き合ってあげよう)


 何か、作戦よからぬことを思いついたようだ。



 ―――――☆



「はーい、じゃあ、これからオタ部第一回フィードワークを始めます!」


「うおおおお!」

「待ってました!」

「だんちゃんせんせー!」

「だんちゃーん! がんばってー!」

「ええっと、頑張ってくださいませ?」


 学校の裏山の登山口。

 引率の先生に扮したお姉ちゃんが、不良どもとさっちゃん、そしてお姫様から声援を受けていた。


 お姉ちゃんが考えた作戦はこうだ。

 お姫様を適当に異世界につながってそうな場所に連れてって「姫を送り返す魔法」を使おう!

 作戦というほど立派なものではない気がするが、それがいいのだ。

 奇をてらった作戦など失敗するに決まっている。

 奇策など、しょせんは王道が取れない場合の次善の策。

 王道に勝る奇策なし。

 むしろ、こんな常識的な行動をお姉ちゃんが取れるのに驚愕した。


(だんちゃん、なんか失礼なこと考えてない?)

〈そんなことないよ?

 それより、異世界とつながってそうな場所って裏山?〉

(まあまあ、それはこれから皆に説明するトコだから)


 ウキウキでオタ部の面々に目を向けるお姉ちゃん。

 どうやらオタク特有の変なスイッチが入ってしまったらしい。


「ええっと、まずはお姫様がここに来た理由ですが!

 私はさっきの山火事とゲリラ豪雨が怪しいと思います!

 ゲームのイベントでも、山の上の神社で火柱的な何かと水の柱っぽい何かの演出と一緒に勇者(笑)が転生するところから始まりました!」

「おお! それっぽい!」「さすが! 分かってる!」「だんちゃんせんせー!」

「うんうん、スカウトした甲斐があったわ!」

「あ、あの、今、勇者の後で嘲笑が聞こえたような?」


 盛り上がるオタ部と首をかしげるお姫様。

 お姫様はいいにしても、お姉ちゃんが底辺高のノリに染まっていく気がするが、これは止めるべきなのだろうか。


「と、いうわけで!

 これから裏山に登って、怪しい儀式をやってみようと思います! 略して『街の中じゃ恥ずかしいから山の上でコスプレしてみたらきれいな風景のおかげで意外にバズるんじゃないか作戦』!

 目指すは、裏山にある神社!」

「おお、すげぇ!」「オタ部っぽい!」「だんちゃんせんせー!」

「そういえば、ゲームやったりマンガ読んだりばっかで、コスプレとかやったことなかったわね。イベント用に衣装は作ったけど、結局、みんな寝坊して行けなかったし」

「あ、あの、こすぷれ? いべんと? とはなんでしょう?」


 いや、止めるべきではないのだろう。

 というか、止めたくても止める方法がわからない。

 なにせ、相手はノリと勢いで進み始めた不良どもだ。

 お姫様は諦めてください。


「じゃ、しゅっぱーつ!」

「「「「おー!」」」」

「あ、あの、皆さま? この格好で山に入るのでしょうか?」


 学生服にコスプレ衣装が詰まったリュックを背負う怪しい一団に、疑問の声を上げるお姫様。

 大丈夫、裏山って言っても、きちんと整備されてて、先生も定期的に巡回してるから。そうしないと、うちみたいな底辺高の不良が勝手に入った挙句、焚火をしたりタ○コを吸ったり野球をしたり、とにかく非常識な行為で近隣の皆様に迷惑をかける。

 もちろん、そんな当たり前なことは誰も口にしない。

 お姫様の常識的疑問には誰も答えぬまま、裏山を登っていく一同。

 山火事の跡と思しき焼け跡や、ゲリラ豪雨の痕跡が土砂となって残ったりしているが、それも道路の隅へと片付けられている。

 きっと管理者の方が頑張って治してくれたのだろう。

 まったく、近隣の皆様の努力には頭が下がるばかりだ。

 お姫様も初めは首をかしげていたが、きちんと舗装され、落石注意だの、猛獣注意だの、落書き禁止だの、楽器演奏禁止だの、不良出没注意だの、不良A参上だの、様々な看板が並ぶ道にすっかり安心したようだ。

 和気あいあいと、不良どもと話しながら歩いている。


「姫! お疲れでは?」

「ありがとう。

 でも、大丈夫ですわ。ワタクシ、こう見えてもそれなりに鍛えてますの」

「もしかして、城から抜け出して冒険とか?」

「それでモンスターに襲われたんでしょ?」

「勇者(笑)が助けに来るまでがセットね」

「み、皆様、なぜそんなことを知ってますの!?」


 うん、完全にオタサーの姫だ。

 ちょっと姫の意味が違う気もするが、そんなことはどうでもいい。

 少なくとも、これで私が姫などと呼ばれることもなくなるだろう。

 なにせ、「本物」を目にしたのだから。


「はーい、じゃ、並んでー?」


 何事もなくたどり着いた、裏山にある神社。

 お姉ちゃんが部室から無断で持ち出したコスプレに着替え、一緒に記念撮影。

 あとは、お姉ちゃんが「姫を送り返す魔法」を使うだけだ。


「姫! 短い間でしたけど、楽しかったッス!」

「いつでも遊びに来てください!」

「今度は俺たちが行きます!」

「ええ、皆さま! お待ちしていますわ!」


 なにか感動している不良どもとお姫様。

 それを無言でスマホで撮りまくるさっちゃん。

 お姉ちゃんもスマホを掲げ、


(よし、じゃあ、さっそく「異世界とつなぐ魔法」で――)

〈ちょっと待った! 「姫を送り返す魔法」じゃなかったの?〉


 慌てて止める私。


(え? だって、よく見るとスマホには「異世界とつなぐ魔法」って書いてあるし)

〈書いてあるし、じゃないわよ!?

 それ、使って大丈夫なんでしょうね?〉

(大丈夫だよ。コメント欄にも「文字通り異世界とつなぐ魔法。AIが作った異世界召喚系統のストーリで、現実世界帰還エンド後に姫が勇者を異世界へ送り返したりするのに使う」って書いてあるし)

(その最後の送り返し「たりする」っていうのがすごく怪しいんだけど!?)

〈えー? でも、他にお姫様を戻す魔法なんてないし、もう使っちゃったし?〉


 お姫様の後ろに浮かぶ魔法陣!

 お姫様が振り向くと、右側に火柱っぽい何かが、左側に水の柱っぽい何かが吹きて、その真ん中の魔法陣が扉のように真ん中から割れ、


「っ!? ここは!?」

「なに? 元の世界に戻った!?」


 なんと、ゲームで見た超魔王と勇者(笑)が出てきた。

 呆然とする二人だったが、やはり貫禄というべきか、先に動いたのは超魔王。


「ふ、ふははは!

 やはりこんな野蛮人どもなどより天は私を助けた!

 さあ、この姫を助けたければ改めて会談をっ!?」


「ふっざけんなテメェ!」「ぶっ○す!」「○ね!」


 そんな超魔王に、一斉に襲い掛かる不良A~C(コスプレ済)。

 寄ってたかって殴る蹴るの暴行を加える。

 まったく、モザイクものの光景だ。

 ※どのようなコスプレをしているかはお好きにご想像ください。


(うんうん、やっぱりきれいに終わりそうな感動のエンディングを邪魔されるとみんな怒るよね?)

〈いや、あれはただ単に暴れたかっただけだと思う〉


 ちなみに、さっちゃんは相変わらずスマホで撮りまくっている。

 平常運転だ。

 これぞまさに底辺高。


「うわあああ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「あ”? 謝んなら初めからすんなや!」

「このヘタレ野郎め!」

「こいつで気合入れてやるよおらぁ!」


 標準装備の金属バッドを取り出す不良C。

 まずいと思ったのか、勇者(笑)が止めに入った。


「あ、あの、もうその辺で」

「あア”? やんのかコラッ!」

「ご、ごめんなさい、何でもないです」


 コスプレを破り捨てながら威嚇する不良A

 ビビりまくる勇者(笑)。

 まあ、誰だって異世界から帰った途端、不良に絡まれれば普通はこうなる。

 (笑)だからって気にする必要ない。


(だんちゃん、普通はこんなこと起こらないよ?)


 バカな。お姉ちゃんに突っ込まれただと?

 ショックを受けていると、遠くから声が聞こえてきた。


「おや、先生、見回りですか?」

「ええ、神主さん。

 うちのバカどもがせっかく片付けた山を荒らしていないかと心配で」

「ははは、それはもっともな疑問ですな」


 どうやら、先生が見回りに来たらしい。


「ヤベ、センコーだ!」

「証拠隠滅するべ?」

「おら、とっととそっから帰れ!」


 哀れ、超魔王と勇者(笑)は異世界に蹴り出されてしまった。


「さあ、姫もこちらへ!」

「変なのが出てきましたがシメておきましたので!」

「もう大丈夫です!」


 が、姫はそんな不良どもに顔を赤くして、


「あの超魔王を倒すなんて……!

 皆さんが伝説の勇者様なんですね!?

 ぜひ、我が国へいらして!

 そしてワタクシと婚約を!」


 逆に手を取ろうとした。

 しかし、


「え? オレら彼女いるし」

「そういうのはちょっと」

「ほら、もうすぐ先生来るし?」


 素で拒絶された。

 固まる姫。


(バカな。お姫様の誘いを断っただと?)


 ショックを受けるお姉ちゃん。

 諦めろ。

 不良は意外にリア充が多いのだ。

 その辺のオタクとは別の生命体なのだ。

 リアルの暴力の前では、姫も超魔王も勇者(笑)も無力なのだ。


「そ、そんな、私はどうすれば……?」

「あーうん、先生が来たから、とりあえず帰って?

 ほら、こいつらもさっき『今度は俺たちが行きます!』とか言ってたから」


 お姫様もショックを受けているようだが、完全に逃げる準備に入ったさっちゃんがそっけなく背を押す。


「きっと、きっとですわよ?

 でないと、私の方が会いにまいりますからね!?」

「ああうん、その時は私がカレシ紹介したげるから」


 適当なことを言いながら、姫を魔法陣の間に放り出すさっちゃん。

 姫が消えると同時に魔法陣が閉じて消えた。

 それとほぼ同時だっただろうか?


「な に や っ と る か 貴 様 ら ぁ !」


 先生の叫び声が聞こえて、私たちはいっせいに駆けだした!



 ―――――☆



 後日。

 学校のホームルームは、先生の説教から始まった。


「えー、この間、裏山で山火事とゲリラ豪雨があったが、危険なのでしばらくは近寄らないように。特に、その日のうちにもう我が校の生徒が出没したと通報が――」


(あ、通報されたんだ)

〈そりゃ、するでしょ? 公共の憩いの場に不良がいたんだから〉


 それはそうか、とうなずくお姉ちゃん。

 順当に底辺高に染まり始めたようで何よりだ。


「ねえねえ、だんちゃん、知ってる?」


 そんな中、さっちゃんが話しかけてくる。

 先生のお説教の途中でも、生徒同士でおしゃべりするのも、底辺高ではよくあることだ。

 底辺高の雰囲気に慣れたお姉ちゃんも、平気で返す。


「知らなーい」

「今日、転校生が来るらしいよ?」

「え? この時期に? 珍しいね?」

「そうだよねー、退学なら普通だけど」


 うなずくお姉ちゃんだが、私の方は嫌な予感が――


「えー、では、話を変えて、転校生を紹介する!

 リヤゲナ国から留学してきた、トーキテさんだ!」

「皆様! よろしくお願いしますわ!」


次回予告!

 れんちゃんは不良にあこがれ留学してきたお姫様と合コンに挑むことに。TBSの中、爆弾処理に徹するれんちゃんの横で、お姫様は芸を披露する!

※ 次回は、1/6(月)投稿予定です。

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