れん@魔法
前回のあらすじ!
チートステータスを持つ宝石型のゲームアバターになってしまったれんちゃんは、妹のだんちゃんに憑依し、底辺高校に通うことになった。まじめなれんちゃんは底辺高の特有の雰囲気に戸惑っていたが、底辺校の生徒からは好意的に受け入れられ、告白をされるに至る。そして、れんちゃんは男子トイレの壁を破壊したことをきっかけに、底辺校に受け入れられるのだった。
―――――
告白事件から一週間。
私ことれんちゃんは、未だにだんちゃんボディで底辺高へ登校していた。イベントをひとつ乗り越えたからといって、根本的原因が解決したわけではないのだ。
今頃、原因になったお父さんはお母さんに○されてる頃かな?
なんて考えながら、ようやくなじみ始めた校舎へ入り、友達と挨拶を交わし――
「姉御! おはようございます!」
「姉御! 昨日は隣の学校のヤツ絞めてきました!」
じゃなく、一方的に不良さん達から敬礼された。
おかしい。
この間の告白事件は、割ときれいに終わったはずなのに。
〈いや、結末はきれいでも、過程はそうでもなかったからね?〉
トイレの火災報知器殴って壊したし。
などと頭の中のだんちゃんが突っ込んでいるが、私はそれどころじゃない。
(どうしよう、このままじゃ、だんちゃんが不良さんの姉御さんになっちゃう!?)
〈大丈夫よ、ほっとけば飽きてそのうち元に戻るから〉
そうはいっても、もう一週間経っている。
お姉ちゃんとしてはこのまま定着するんじゃないかと不安だ。
私は不良さんが引いてくれた椅子に座りながら、作戦を考え始めた。
(うーん、とりあえず、見た目で勝負ってことで。
儚い系に切り替えて、か弱い女の子だってことをアピールした方がいいかな?)
〈やめなさい! お嬢様で清楚系になった次の日に告白ラッシュで襲われたこと、忘れてないでしょうね?〉
メイク道具を出そうとしたら、だんちゃんに却下されてしまった。
言われてみればそんな気がする。
下手に見た目を変えて、姉御が姫になったりしたら大変だ。
(じゃあ、わざと喧嘩で負けてみるとか?)
〈だから、やめなさいって!
だいたい、お姉ちゃんが誰かに喧嘩売るとか無理でしょ!〉
それはそうだ。
不良さんの常識も分からないのに、
(じゃあじゃあ、最後の手段! 魔法を使う!)
〈はあ? 魔法って何よ?〉
(ほら、今の私ってゲームのアバターになってるじゃない?
この間はパラメータどおりの力が出たっぽいし、魔法も使えるかなって)
とりあえず、どんな魔法が使えるか、攻略サイトで調べてみよう。私はスマホを取り出すと、事件のきっかけとなったゲームのタイトルで検索してみた。
★0.5点の評価とともに、攻略サイトが表示される。
〈っていうか、攻略サイトがあるってことは、他にこのゲームやってる人がいるってことよね? 他にも、私とお姉ちゃんみたいになった人がいるってこと?〉
(うーん、でも、ネットじゃそういう事件報告されてないみたいだし、きっと、原因はゲームじゃなくて、パソコンの方だったじゃないかな? ほら、あのパソコン、私の誕生日にお父さんが作ったやつだし)
〈……納得しそうになった自分が嫌だわ〉
だんちゃんと脳内で会話しながら、攻略サイトで魔法一覧のページに飛ぶ。
自由度が売りなゲームだけあって、いろんな魔法が並んでいる。
定番の「炎の魔法:ファイアボム」や「水の魔法:ウォータースプラッシュ」に加え、「マスコット召喚プログラム」「ゆけ! ○○!」「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」といった正体不明なもの、「体力回復魔法」や「なんか早くなるアレ」といった投げやりなものまである。
〈もうちょっと名前は何とかならなかったの?〉
(きっと、初めはちゃんと考えてたんだけど、途中でギャグ路線に走って、そのあとで力尽きちゃったんだよ)
フリーゲームではよくあることだ。
気にしてはいけない。
そんなことより、今は実践だ。
(とりあえず、「炎の魔法:ファイアボム」!)
〈ちょっと、それ関係なくない?〉
(え? だんちゃん、攻撃魔法とか、使ってみたくない?)
〈そりゃ、興味なくはないけど……〉
だんちゃんが盛大に葛藤しているのを感じる。
きっと、止めようと思ったけど、なんか分かってしまったのだろう。
もちろん、オタクの私に葛藤なんてない。
指先に炎を出す感じで気合を入れて――
(あれ? 出ない?)
〈……まあ、出ないのが普通よ〉
しかし、何も起こらない。
だんちゃんからは安心したような、でもどこか残念そうな声が返ってくる。
(おかしいな? MP切れかな?
ゲームじゃ「無限無制限理不尽」に設定したのに)
〈だから出ないのが普通だって。攻撃力だけで満足して――〉
「おい! 裏山が燃えてるぞ!」
「おお、すげー!」
代わりに、後ろの不良さんが騒ぎ始めた。
窓の外を見てみると、そこには、山から火柱が。
嫌な予感がした私とだんちゃん。
〈ちょっと、アレ、魔法のせいじゃないでしょうね!?〉
(え、ええっと! じゃあ、「水の魔法:ウォータースプラッシュ」!)
もしあの山火事が魔法によるものなら、これで消せるはず。
などと考えていたが、甘かった。
なんと、山の向こうから突如発生したゲリラ豪雨がこっちに迫って来たのだ。
それはもう、雨が水の幕みたいになっているくらいの、強力なヤツが。
「おい! ゲリラ豪雨がこっち来るぞ!」
「うわ、なんか早くね!?」
「やべー、坂が滝みたいになってる!」
「あ、マンホール吹っ飛んだ!」
山火事は消えたが、今度は街が洗い流されそうだ。
不良さんたちも盛り上がっている。
だんちゃんが焦った声を上げた。
〈ちょっと!! 何とかしなさい!!〉
(ええっと、ちょっと待って、こういう時こそ慎重に)
だんちゃんが焦ってくれたおかげで逆に冷静になった私は、スマホをスクロールしていく。
適当に風の魔法で吹き飛ばそうとして、ゲリラ豪雨が台風に進化したりしたら大変だ。
それに、天気の要素があるゲームでは、たいてい天気を操る魔法もあるはず。
果たして、「面倒な天気をリセットする魔法」なるものがあった。
使うと、ゲリラ豪雨は何事もなかったかのように止まる。
(あ、よく見ると、「火を消す魔法」もあるね。
難しいなぁ。やっぱり練習が必要だね?)
〈むしろ練習するのが難しいと思うんだけど?〉
だんちゃんはそんなことを言っているが、せっかく魔法が使えるのに諦めるのはもったいない。
何かないかとスマホをスクロールしていると、「イベントで変わっちゃった呼び名をリセットする魔法」というのを見つけた。
コメント欄には、「ゲーム内でのイベントで変わった呼び名を元に戻す魔法。例えば、店で品物を盗むと呼び名が『どろぼう!』になるが、それを元に戻すことが出来る」と書かれている。
(これなんて使えそうじゃない?)
〈大丈夫なんでしょうね?〉
(まあまあ、ほら、「もう一度唱えた場合はイベントで変わった後の名前に戻る」って書いてあるし、もし失敗しても大丈夫だよ)
不安そうなだんちゃんをなだめながら、再び魔法を使ってみる。
特に変化はない。
とりあえず、後ろの不良さんに話しかけてみた。
「あの」
「はい? どうしました姫?」
姫って言われた。
驚愕する私とだんちゃん。
どうしてこうなった。
「ええっと、なんで姫呼びになったのかなって」
「え? 告白されまくってたからじゃね?」
どうやら、姉御じゃないと姫って呼ばれる運命だったらしい。
これは困った。
さっきの魔法をもう一度唱えて元に戻そうにも、姉御呼びになるだけ。
つまり、私たちは姫呼びか、姉御呼びか、究極の選択を迫られたことになる。
が、そこへさっちゃんが登校してきた。
「おはよー、だんちゃん」
「おはよ。さっちゃんはだんちゃん呼びなんだね。よかった」
普通に呼ばれ安心する私。
考えてみれば、「姉御」ってのも、一部の不良さんがそう呼んでいるだけだ。
さっちゃんには魔法も効かないのだろう。
ひとり納得する私だったが、さっちゃんは不思議そうに聞き返してきた。
「え? だんちゃんはだんちゃんでしょ? なんかあったの?」
「んー? 不良さんに『姫』って呼ばれて、ちょっとどうしようかなって」
「ああ、それね。
うーん、私は姫でもいい気がするけどな」
さっちゃんはじーと私を見ていたが、思いついたように手をたたいた。
「そうだ。
だんちゃん、ちょっと今日の放課後、時間もらっていい?」
―――――☆
放課後。
私はさっちゃんに部室へと連れていかれていた。
何の話かと思ったら、部活の勧誘だったらしい。
(さっちゃん、部活してたんだ)
〈そういえば、たまに放課後誘っても、部活あるとか言ってたわね。
何の部活かは「ひみつ~」とか言って、教えてくれなかったけど、まあ、こりゃ秘密にするか。〉
部室の扉には「オタク文化研究科」とある。
私としては何も恥じるところはない立派な部だと思うのだが、ギャルなだんちゃん的には秘密にするのも納得な部活なのだろう。
さっちゃんが扉を開くと、そこにはアニメやマンガやゲームで溢れかえった、素晴らしい空間が広がっていた。
「おお、すごい! 学校の中にこんな部屋があっていいの?」
「いいんじゃない? 教室とそんな変わんないし」
思わず歓声を上げてしまったが、冷静に考えるとさっちゃんの言う通り。みんな平気で授業中も関係なくアニメやマンガやゲームで遊んでいた。そういえば、教室の隅っこにはゲーム機やモニターが堂々と置いてあった気もする。
この間、野球ボールが当たって不良さん達がケンカしてたっけ。
そんなことを考えていると、さっちゃんからマンガが差し出された。
「とりあえず、入門編ってことで、これ読んでみよっか?」
「え? もうそれ全部読んじゃったから大丈夫だよ?
そっちの同人誌の方が……」
〈ちょっと! なに素で返してるの!?
私はそんなの読まないんだからね!〉
頭の中のだんちゃんから抗議の声が上がる。
しまった、と思う前に、さっちゃんが声を上げた。
「え? だんちゃんって、もしかして、隠れオタ!? これはうれしい誤算だわ!」
「え? そんなことないよ?」
びっくりしてまたも素で返してしまった。
別に私は隠していない。
すくなくとも、妹のだんちゃんにオタクと呼ばれたりするくらいには。
が、さっちゃんはむしろ盛り上がり始めた。
「大丈夫! 隠れオタじゃなくても、見た目オタっぽさがなければいいから!」
「ええっと、さっちゃん?
盛り上がってくれるのは嬉しいんだけど、そろそろ部活の勧誘なり、ここに連れてきた理由なり説明して欲しいなー、とか……」
「ああ、ごめんごめん。
ほら、ここってオタ研なんだけど、部員もみんな不良だからさ、ちょっとオタ研って雰囲気がないのよね。どっちかって言うと、授業中みたいにダラダラ遊ぶ感じ? でもほら、やっぱり、オタ研といえば、オタクがいて、オタクで遊ぶ姫がいて、オタクに優しいギャルがいないとダメじゃない?
だんちゃんは姫ポジになってもらえないかなって」
何か盛大にオタクが誤解されている気がする。
というか、そんな危険な状態に陥った部は同人誌の中にしか存在しない。
私の知っているオタ研は、好きな作品について語ったり、好きな作品の絵を書いたり、二次創作で遊んだり、時にはオリジナルも作ったりして和気あいあいと遊ぶ部活なのだ。
〈お姉ちゃんこそ、何か美化しすぎじゃない? クラスに馴染めなかった社会不適合者が暗い部室に引きこもってるって言った方がいいんじゃないの?〉
(だんちゃん、今、いろんなトコに喧嘩売ったよ?)
世間一般のイメージに毒され過ぎなだんちゃんに憤っていると、さっちゃんが心配そうに声をかけてきた。
「ええっと、だんちゃん、怒ってる?」
「え? そんなことないよ?
でもオタサーの姫はちょっと……」
「うーん、やっぱそうなるかぁ。今のだんちゃんって、どっちかって言うと部室っていうより、自分の部屋に引きこもってそうだし……」
さっちゃんまで酷い。
引きこもりに引きこもりって言うなんて、事実陳列罪だ。
などと、引きこもりらしく心の中で抗議の声を上げていると、部室の扉が開いた。
入ってきたのは、部員らしき不良さんたち。
別のクラスの生徒だろうか。
見たことのない顔ばかりだ。
「うぃーす、サボりに来ッ!?」
「さっちゃん、ゲーム借りていッ!?」
「今日の晩飯かけて対せッ!?」
そして、入って来たかと思うと、次々と私を見て固まる。
そんな不良さんたちに、さっちゃんがドヤ顔で紹介を始めた。
「どうだ見たか!
授業と掃除サボるためだけにしか部室に来ない似非オタクども!
この娘が!
新しく入った!
だんちゃんよ!」
「〈まだ入ったなんて言ってないよ!?〉」
私の声とだんちゃんの心の声が重なる。
が、そんな声など聞こえていないかのごとく、不良さんのうちの一人が駆け寄ってきた。
「姫! どんなアニメが好きっすか!?」
姫って言われた。
本日二度目のショックを受ける私だったが、それを他の不良さんの叫びがかき消した。
「は? 姫はさっちゃんだろ?」
「あ? さっちゃんはオタクに優しいギャル役だろ!」
「でもオタクに優しいギャルは姫の後に入ってくるもんだろ!」
「いやでも雰囲気的に姫とギャルだし!」
そして喧嘩を始めた。
オタクのレスバなどという生易しいものではなく、つかみ合い殴り合い、金属バットが出てきて……
「ちょっとさっちゃん、止めなくて大丈夫!?」
「大丈夫よ、いつもの事なんだから」
椅子を引っ張り出して、平然とマンガのページをめくるさっちゃん。
そうか、いつもの事なのか。なら安心だ。
私も適当に時間を潰そうと、部室を見まわす。
マンガは有名どころから同人誌まで、ゲーム機も最新からレトロまで全部そろっている。が、どれも話題になったものや、それなりに売れたものばかり。私としては目新しいものはない。
何かないかと視線をさまよわせているうちに、パソコンが目に留まった。
もしかしたら、まだ見ぬ名作が埋もれているかもしれない。
「さっちゃん、このパソコン、使っていい?」
「いいよー。パスワードは英語の小文字でpasswordだから」
素晴らしいセキュリティ意識のこもったパソコンを起動する。
※このような推測されやすいパスワードの設定はおやめください!
ディスクトップには大量のショートカット。
どれもフリーゲームのタイトルだ。
私がたんちゃんボディに乗り移ったきっかけのゲームもある。
気になった私は、とりあえずそのゲームを立ち上げてみた。
何事もなくロゴが表示され、スタート画面の後、「続きから」を選ぶ。
(ええっと、主人公のアバターは、あ、アニメの主人公だね。
確か、「異世界転生したオレ、勇者パーティから追放されるも超強い師匠に拾われて超がんばって超魔王を倒して超ハーレムを作る」だったかな?)
〈ちょっといろいろ盛りすぎじゃない?〉
(そう? 割とこんなもんだよ?)
だんちゃんの感想を受け流しながら、ゲームを進める。
他の人のデータなのでセーブはできないが、適当にキャラを動かしてるだけでも楽しいものだ。
(おお、アニメアバターにするとストーリーもアニメっぽくなるのね?
そういえば攻略サイトに分かりやすいタイトルのアニメのアバターにすると、AIが似たストーリー作ってくれるって書いてあったっけ? 私がやった時は、キャラクリで「魔王の後に大魔王がいたり、大魔王の後に魔神がいたりなどという複雑な設定は投げ捨てています」とか言われたのにいい加減だよね?)
〈ああうん、とりあえず、盛大に技術を無駄使いしてることだけは分かったわ〉
(オタク文化は無駄技術の集積で進化したんだよ、だんちゃん)
〈うわ、ウザッ……〉
オタク文化研究会部員らしく、適当にうなずくだんちゃんにご高説をたれながら、そしてだんちゃんにウザがられながら、ゲームを進めていく。
ちょうど、勇者パーティが魔王を倒して、でも大魔王に倒されそうになっているところみたいだ。
主人公が颯爽と現れ、通常攻撃一発で大魔王を撲殺。
すると、その後に出てきた超魔王が命乞いを始めた。
【待て、話し合おう!】
選択肢
話を聞く
⇒有無を言わさず攻撃!
【この野蛮人どもめ!
そも、こちらからは会談の申し入れをしたはずだ!
それをそこの自称勇者がやってきて暴れたというのに!】
選択肢
やっぱり話を聞く
⇒有無を言わさず攻撃!
【わ、吾輩をここで倒しても、人間どもはそこの勇者が私を倒したと思うだけだぞ】
選択肢
やっぱり話を聞く
有無を言わさず攻撃!
⇒姫を呼び出す
【オレは「姫を呼び出す魔法」を唱えた!】
【姫が現れた!】
【オレは超魔王を殴った】
【超魔王は死んでしまった】
【姫「まあ、アナタが本物の勇者様でしたのね!」】
【姫がハーレムに加わった!】
次いで表示される、おそらくAIが描いたであろう、主人公がドヤ顔で姫を抱きしめるCG。
〈ウッザ……〉
(だんちゃん、人のやってるゲームを批判するのはマナー違反だよ?)
ちょっと気持ちは分かるけど。
そう思ったとたん、主人公のドヤ顔に金属バットが突き刺さった。
どうやら後ろの不良さんの喧嘩がヒートアップしたらしい。
〈ナイスッ!〉
(ナイス! じゃないよ! どうするのパソコン壊して!)
文句を言おうと不良さんの方へ向き直る私。
そこには、
「まあ、ここはどこでしょう?
さっきまで、本物の勇者様がいた気がしましたが?」
ゲームから出てきたような、お姫様が、いた。
次回予告!
れんちゃんはオタサーの姫脱出を目指しお姫様や不良たちと一緒に山登りすることに。このままオタサーの姫脱却なるか?
※ 次回は、1/5(日)投稿予定です。
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