第4章:秘密の花園

 七緒の指導の下、結は初めてのフラワーアレンジメントに挑戦した。不慣れな手つきながらも、七緒の優しい声に導かれ、少しずつ形になっていく。


「そうそう、その感じです。でも、茎はもう少し斜めに切ると……」


 七緒が後ろから結の手を包み込むように添えた。二人の息遣いが重なり、結は心臓が爆発しそうな気分だった。


「七緒さん……」


 振り返った結の目と、七緒の潤んだ瞳が重なった。


「結さん、私……」


 七緒の声が震えている。結は思わず、その小さな肩を抱き寄せていた。


「私も……」


 言葉は必要なかった。自然な流れで、二人の唇が重なる。柔らかく、甘い接吻。まるで春の風のように優しく、花びらのように繊細な。


「ずっと、結さんのことを……」


 キスの後、七緒は結の胸に顔を埋めた。


「私もよ。七緒さんと出会ってから、私の世界は色づき始めたの」


 結は七緒の髪を優しく撫でながら言った。


「本当ですか?」


「ええ。あなたは私の中で、最も大切な香りになったわ」


 その言葉に、七緒は更に深く結の胸に顔を埋めた。


「結さんって、素敵な言葉を紡ぐのが上手ですね」


「七緒さんが、私からそんな言葉を引き出すのよ」


 二人は互いを見つめ合い、また優しくキスを交わした。窓の外では、夕暮れが近づいていた。


「もう、こんな時間」


 結が時計を見て呟いた。


「帰っちゃうんですか?」


 七緒の声には、寂しさが滲んでいた。


「ええ、でも……また会えるわよね?」


「もちろんです。毎日でも」


 別れ際、玄関で二人は長い抱擁を交わした。七緒の体から漂う花の香りが、結の心に深く刻み込まれていく。


「おやすみなさい」


「おやすみ……結さん」


 帰り道、結の頭の中は七緒のことでいっぱいだった。唇の感触、髪の香り、小さな体の温もり。全てが鮮明に残っている。


 そして、ふいに香水のアイデアが浮かんだ。今まで探していた「何か」が、はっきりと見えてきた気がした。

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