エテコー団
それからリリカたちは、寂れた村の入り口に到着した。そこで彼女たちを待ち受けていたのは、いかにも怪しげな三人組だ。その中心に立つモノクルをした男が、リリカに声をかける。
「曲乃リリカ、その指輪をよこすのであぁる!」
突然のことに、ヒロトは怪訝な顔をする。
「なぁリリカ。こいつらは、お前の知り合いか?」
そんな質問が出たのも無理はない。すでにリリカの破天荒な立ちふるまいを知っている彼からすれば、妙な輩を見てそう考えるのは自然なことだ。
しかしリリカは言う。
「知らねぇな。誰だ、アンタら」
何やら眼前の三人組は、彼女にとっても赤の他人らしい。そこで三人は、自己紹介を始める。
「生まれは貧しい未来は眩しい!」
モノクルの男が、声を張り上げた。その後に続くのは、イヤリングの女だ。
「明日を信じて今日もゆく!」
唖然とするリリカたちには構わず、三人目の金歯の男も声を張る。
「三人揃えば負け知らず!」
少なからず、彼らは真剣だ。それだけはリリカたちにも伝わっている。されど、彼女たちは妙に冷めた面構えをしていた。そんな二人にめげず、三人組は自己紹介を続行する。
「ワガハイはミルシー」
「アタクシはキクヒュア」
「オイラ、ユウセイ!」
そして、彼らは声を揃える。
「我らエテコー団、ただいま参上!」
この時、ミルシーたちは妙なポーズを取っていた。その場を吹き抜けるのは、冷たい風だ。そこでリリカは、ヒロトに問う。
「なぁ、ヒロト。オレは今、人間に向けても問題のねぇ目をしているか?」
「荒らされたゴミ捨て場を見るような目だな」
「そうか。アンタはクソの流れてねぇ便器を二度見したような顔をしてるよ」
少なくとも、この二人がミルシーたちに好印象を抱いている様子はない。これには、エテコー団も立腹だ。
「キミたち! いくらなんでも、失礼すぎるのであぁる!」
そう叫んだミルシーに続き、キクヒュアとユウセイも言う。
「キーッ! 何がゴミ捨て場ですの! 何が流し忘れた便器ですの! エテコー団を侮らない方がよろしくてよ!」
「そうだ、オイラたちが力を合わせれば、オミャーらなんて!」
無論、見知らぬ三人組に何を言われたところで、リリカたちの対応は変わらない。
「で、オレたちはいつまで茶番に付き合わされるんだ? 霊媒師は忙しいんだよ」
「あぁ、俺らにはお前たちに構っている暇なんかないんだ」
言うまでもなく、彼女たちはエテコー団を見下している様子だった。ミルシーは青筋を立て、指示を出す。
「ユウセイ! こやつらを一旦黙らせるのであぁる!」
その命令に応じ、ユウセイは指を鳴らした。直後、リリカとヒロトは口を閉ざされ、声を発せなくなった。ユウセイは金歯を光らせつつ、不敵な笑みを浮かべる。
「奇遇だな。オイラたちも、霊媒師なんだ! リーダー! キクヒュア! オイラたちの強さを、見せつける時だよ!」
どうやら、戦いは避けられないようだ。
キクヒュアが髪をかきあげるや否や、リリカとヒロトは両耳を塞ぎながら苦しみ始めた。彼女の魔術は、何か聴覚に作用するものなのだろう。リリカたちが薄目を開ければ、無数に分裂したエテコー団の姿が飛び込んでくる。おそらくこれは、ミルシーの魔術の効果だろう。
リリカは機関銃を生み出し、それを周囲に乱射した。しかし銃弾は、敵の姿を模した幻影をすり抜けてしまう。一方で、ヒロトも体術と爆炎を駆使していくが、やはり彼にも分身と本体の区別がつかない。そして何よりも厄介なのは、ただでさえ連携の取れない二人が、ユウセイの魔術によって喋れなくなっていることだ。
二人の身に、次々と幻影が殴りかかる。どの対象から己の身を守るべきなのか、見た目では区別がつかない。突破口を見出さなければ、リリカたちに勝算はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます