新人と先輩

 翌日、霊媒師ギルドの寮の一室にて、リリカは指輪を見つめていた。そして彼女は、あの歌を口ずさむ。

「空がなぜ青いのかを知りたがっていた僕は今、人がなぜ生きるのかを知りたがっている。星がなぜ光るのかを知りたがっていた僕は今、命が産まれる意味を知りたがっている」

 彼女自身の破天荒な性格に反し、その口から紡がれる歌声は穏やかでか細かった。その時、部屋の扉が何者かによってノックされた。

「……なんだ?」

 扉を開き、リリカは訪問者の顔を目の当たりにする。彼女の目の前にいるのは、ゴンゾウとヒロトだ。

「霊獣討伐の依頼だ。今回も、君たちを一緒に向かわせようと思う」

 ゴンゾウはそう言ったが、ヒロトはいささか不服そうだ。

「なんでまたコイツと組まないといけないんすか?」

 そう訊ねたヒロトは、眉をひそめていた。その言い草が気に食わなかったリリカも、少し苛立ちを見せる。

「ま、新入りのクセに優秀なオレと手を組んだら、アンタは自分がみじめになるだろうからな。やっぱり、天才は嫉妬されるんだよな!」

「自惚れるな。前にも言ったが、これは遊びじゃない。お前のような調子に乗る奴が、真っ先に命を落とすぞ」

「そうだな。なんでも手本を見せてくれる先輩は、さぞオレより先に命を落とす見本も見せちまうんだろうな」

 その皮肉のこもった言葉選びに、ヒロトの神経はますます逆撫でされる。

「口の利き方に気をつけろ。俺はお前の先輩だぞ」

「あぁ、出た出た。頭の悪い奴が立場にだけ恵まれると、自分が負けそうな時に上下関係を持ち出すんだよな」

「ふん、職場で目上の者を敬わないとは、大層な育ちをしているんだろうな」

 両者ともに、一歩も退かない舌戦だ。しかしこうしている間にも、時間は依然として流れ続けている。そこで二人を制止するのは、霊媒師ギルドのマスターであるゴンゾウだ。

「二人とも、不毛な言い争いをやめなさい」

 その言葉に、リリカたちは我に返る。彼女たちは舌打ちし、そして互いに目を逸らす。その光景に、ゴンゾウは呆れるばかりだ。彼は深いため息をつき、二人に苦言を呈する。

「このままでは先が思いやられるぞ。無理に仲良くしろとまでは言わないが、せめて仕事に支障を出さないよう、大人になりなさい。君たちはまだ若いかも知れないが、ギルドの正式なメンバーなのだからな」

 確かに、金を貰って仕事をしているのであれば、人付き合いの仕方も大人びたものでなければならないだろう。リリカは再びヒロトに目を遣り、先に謝る。

「悪かったよ。口の利き方には気を付ける」

「……まあ、俺もムキにはなったが、俺への口の利き方は最優先事項じゃない。お前が最初に直すべきなのは、勝手に無茶な行動をする悪癖だな」

「そいつは悪癖なんかじゃねぇ、オレのチャームポイントだ。命を張ってる時のオレが一番イケてるからな」

 このままでは、彼女が自らの行動を改めるかは絶望的だろう。彼女の返答に絶句したヒロトとゴンゾウは、頭を抱えるばかりであった。



 それからリリカとヒロトは、目的地に向かって歩みを進め始めた。茂みの陰には、そんな彼女たちを双眼鏡で見つめている三人組がいる。そのうちの一人――イヤリングをした耳の大きな女が、高笑いをする。

「オーッホッホッホ! あの指輪があれば、お金になりますわ!」

 そんな彼女に注意をするのは、モノクルを着けた目の大きな男である。

「しっ! 静かにするのであぁる。見つかったらまずいのであぁる」

 その後に続き、金歯を着けた口の大きな男は問う。

「でも、アイツら強いよ。オイラたちに倒せるの?」

 それはもっともな意見である。しかしモノクルの男には、考えがある。

「戦闘中、あの二人は連携が取れていないのであぁる。そこが連中の弱点であぁる」

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