実力のテスト
ヒロトに案内されるまま、リリカは訓練場に到着した。場内の片隅では、ゴンゾウが二人を見守っている。沈黙を破るのは、ヒロトだ。
「
彼は臨戦態勢で構えている。先ずは彼を納得させなければ、新規メンバーがギルドに加入するのは難しいだろう。
「いいぜ、かかってきな。お手並み拝見といこうか」
それがリリカの答えだ。緊迫した空気の立ち込める中、ゴンゾウが合図をする。
「始め!」
戦闘開始だ。ヒロトは一気に間合いを詰め、そして眼前の挑戦者に殴りかかる。リリカは余裕綽々とした笑みを浮かべつつ、その拳を最小限の動きでかわした。
――直後、ヒロトの拳を中心に、爆炎が発生する。
「……!」
突然のことに対応できず、リリカは爆風により退いた。そんな彼女を睨みつけ、ヒロトは言う。
「俺の体は、俺自身に効かない爆弾だ。これが俺の魔術だが、対応できるか?」
一発、二発、そして三発と、爆破はリリカの身を容赦なく襲う。リリカは大剣やハンマーを生み出して応戦するが、彼女の生み出す武器はことごとく爆破によって粉砕されていく。さりとて、リリカも押されるばかりではない。
突如、ヒロトの足元が勢いよく爆発した。
彼が唖然としたのも束の間、その顔面には強烈な右ストレートが炸裂する。後方に飛ばされるヒロトを見つめ、リリカは笑う。
「爆弾はアンタの専売特許じゃねぇ。それに、アンタの魔術には致命的な弱点がある」
何やら彼女は、相手の弱点を見抜いている様子だ。一方で、ヒロトはそれがどんな弱点なのかを理解していない。彼は構えを取りつつ、怪訝な顔をする。
「弱点だと?」
「アンタが魔術を乱発すると、アンタの視界は煙に塞がれるんだ」
「……なるほどな。それで煙に紛れながら、お前は地雷を設置していたというわけか」
そう――ヒロトの魔術は強力である一方、自らの視界を曇らせるという短所も有しているのだ。無論、リリカの反撃はこれだけでは終わらない。
「まあつまり、オレはスゲェってこと!」
強気な笑みを浮かべつつ、彼女はその手元に大剣を生み出した。そして彼女は、その剣を勢いよく振り降ろす。当然、ヒロトは爆発を起こすことで身を守る。しかしそれもまた、リリカの戦略の一つである。爆破された大剣は勢いよく砕け散り、ヒロトはその破片を全身に浴びてしまう。その破片は魔術で生み出されたものであるため、リリカ本人には突き刺さらない。満身創痍の二人は互いを睨み合い、次の攻撃を仕掛ける隙をうかがっている。
その時である。
「そこまでだ」
二人の間に、ゴンゾウが割り込んだ。リリカたちには、もう争い合う理由などない。されど、ヒロトは納得していない様子だ。
「なんで止めるんすか。俺はまだ戦えますよ」
そう言い張ったものの、彼はすでに肩で息をしている有り様だ。一方で、リリカもまた酷く負傷しているが、依然として戦意を失っていない。
「オレの名シーンを見たくねぇのか? マスター」
その身を削っていながらも、彼女は戦いを楽しんでいた。ゴンゾウは深いため息をつき、二人を落ち着かせる。
「もう十分だろう。これで、リリカの強さは伝わったと思うぞ」
元より、二人が戦っていた理由は、リリカの強さを知るためだ。つまるところ、ここでゴンゾウが彼女たちを止めたのは当然のことである。
ようやく、ヒロトはリリカの参入を認める。
「曲乃リリカ……お前の腕は確からしいな。だが、霊媒師ギルドに所属するからには、妙な騒ぎだけは起こすんじゃないぞ」
依然として、彼は少し不服そうだった。そんな彼に対し、リリカはこう切り返す。
「騒がれるくらいじゃねぇと、カッコよくねぇだろ」
その返答に、ヒロトはただただ呆れるばかりであった。
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