第2話 千川千夏はブロンド妹
御桜さんと会話したのは結局その一回きりで、以降の休み時間は自分の席で過ごしていた。事前に
前半を読んだ感じ、内容も同一。これは俺に対する神からのお情けなのか、どうあれ生前(?)からオタクだった俺にとって
昼休み、母さんの手作り弁当を食べようとランチバッグを用意していると、教室のドアが勢いよく開かれた。
反射的にそちらに目をやると、見事なまでの金髪を頭の左右でツインテールに結わえた碧眼美少女が立っていた。
千川
千川さんは兄の方が好きだけど素直になれずツンツンした態度をとってしまい、夜な夜な部屋で枕に向かって
「アニキ! お昼! 屋上!」
「んー? おう、行くか。美桜も、いこうぜ」
「あ、うん!」
千川さんがそう言うと、千川(ややこしい)は気怠そうに席を立ち、御桜さんもついて行くように弁当が入っているであろう可愛らしい花柄のトートを持って教室を出て行った。
出て行く間際、御桜さんが俺の方を見ていたようだったが、気のせいだろうか。千川はもう教室を出ているし。
ま、気にしても仕方ない。母さんの作ってくれたお弁当でも食べよう。ところで、母さんと言っても
*****
昼休みの終わり頃、トイレから戻ると、ちょうど千川さんが教室から出るタイミングだった。これから一年生の教室へ戻るのだろう。
と、俺は千川さんが何か落としたのに気がついた。ハンカチ、かな?
流石に見て見ぬ振りは出来ないと思い、俺はそれを拾って、小走りで千川さんを追いかける。
「千川さん!」
「はい? ……どちらさま?」
俺が呼びかけると千川さんは立ち止まったが、流石に見ず知らずの上級生に急に声を掛けられたとあっては警戒されても仕方のないもので、明らかに訝しがる視線を向けてきた。
俺は拾ったハンカチを差し出し、「これ、落としたから」と彼女に手渡した。右の手首に巻かれた黄色のシュシュが、可愛らしくてつい笑顔になった。
「あ、ありがとうございます」
千川さんは素直に受け取ると笑顔でお礼をいい、そして俺の目を見て固まった。
沈黙のまま、視線だけが交わる時間が続く。
「あの……千川さん?」
「……あっ、すみません。先輩に対して。失礼しました」
俺がたまらず沈黙を破ると、千川さんはハッとしたように小さく
「ああ、いや。気をつけてね」
「……はい」
しかし杞憂だったようで、千川さんは「それでは」と再び丁寧に頭を下げると、注意されない程度の小走りで階段の方へ歩いて行った。
俺は千川さんがまた何か落とさないか少しだけ心配になり、見えなくなるまでその場で見送っていたから気が付かなかった。
この時、扉の影から面白くなさそうに俺を睨む視線があったことを。
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