宵宮夕子(宇宙人)との出会い




そんな痛々しい厨二病を演じることになった原因を語ろう。


その事件は、高校に入った初日を振り返らねばならない。


めでたく第一志望の高校に入れた僕は、とりあえず学校内を歩いていた。


部活動が盛んな学校故か、いろんな部活から勧誘がきてたけど、部活に入る気はなかったから断りをいれた。


そんな勧誘があちこちから来てた時、とあるイケメンな先輩が例の彼女を誘おうとしていた瞬間を目にした。


彼女がまさに絵に描いたような美少女だったから、木陰でその様子を興味本位で見ていた。


これが青春ラブコメものなら、ここでOPでも始まるかもね。


いいねぇラブコメ的青春。


僕には程遠い世界だなぁ。


でも悲しんではいけない。


僕には僕の青春を送ればいいだけの話だからね。


のんびり楽しもう。


なんて呑気に考えながら見ていたら、先輩が青ざめた顔で彼女から離れようとしてたのよ。


あれ……何か様子おかしいなぁ。


思わず声をかけようとした瞬間、彼女の後方から謎の触手が先輩を串刺しにしたのだ。


しかも悲鳴をあげれないように、口から入れやがった。


あまりにも非現実的な光景を目の当たりにし、当然ながら僕は生きた心地がしなかった。


思い切り頬を引っ張っても夢から覚めることはないから、残念ながら現実であることは確実だ。


何だよ。


何なんだよアレは。


確実にやったよなあの美少女……いや宇宙人だあれは。


とにかく離れようと思って動いたら、神のいたずらか足元にあった小石を蹴り飛ばしてしまった。


馬鹿野郎。


その刹那、僕は彼女の触手によって校舎の壁へと追いやられていた。


謎の美少女もとい宇宙人に、ホラーゲームよろしくな恐ろしい表情で迫られている。


触手がうにょうにょ動いていて、今にも僕を貫きそうだ。


何あの反射神経。


バトル漫画出身のお方?


いやそんな冗談を言ってる場合ではない。


死ぬ。


「-td- --f-w -t o-pt ?」


目の前にいる女子高生の服を着込んだ化け物は、モールス信号のような音をだしている。


何て言ってるん?


でもなんとなく尋問されていることは理解できた。


しかし僕は答えられなかった。


というか答えられる余裕がねぇ。


「-ac- -o pt -t-w -fgp m-op t-tv m-t-- w- t-t p- wy-o- -r y- --i- 」


分からん分からん。


何か確認されてるっていう認識でいいんだよね?


何か僕の顔をジロジロ見たり、身体を触手で触れてるし。


「-n- -c --i-c fe-- q- uv- ---- no-uv -l-o -v- ff-lk-f q-o-o v--- -ou-q o--o v-v 」


かと思ったら、今度はぐるぐるとした真っ黒な瞳で僕を見つめてきた。


こっっっわ。


催眠術にかかったようなそんな瞳。


いやというかこれ、僕にかけようとしてるよなぁ。


すっごい圧力感じるもん。


「-o- l-ok -o ?」


首を傾げて、僕を見つめる美少女。


仕草は可愛いんだけどなぁ。


「-u-gl l- m-g-- t-o q- f-sy t-- -oou --v -k-- ---s- l-uv」


なんて呑気に考えてたら触手を刃のように尖らせてきやがった。


やべぇ何か答えないと殺されるぞこれ。


でもなんて言ってるか分かんないし。


だったらもう勢いで誤魔化すしかない。


「まさか……君が選ばれし一族とはな……。少々驚いたよ……ふっ」


意味の分からん言語なら、こっちも意味の分からん言葉で対抗する。


自分で言ってて意味分からんな。


何だよ選ばれし一族って。


何のだよ。


「……?」


目の前にいる美少女も困惑した表情浮かべちゃったよ。


ちょっと可愛いなって思っちゃった。


えっ何この馬鹿みたいな状況。


「いや言わなくてもいい……僕には分かっているさ……少女よ」


僕もなんだ気持ち悪いな。


なんでペラペラと喋れるんだよ。


……多分中学時代の名残だなこれ。


嫌だわぁ。


「--sh --ok」


とうとう吹き出しちゃったよ目の前の美少女。 


へへ。


助かるかな。


「i-onj -kl-q --u - onj-o- x- -q- --t- --w-- y-y -」


笑いながら何か言ってるわ。


分からんって。


でも助かりそうだぞこれ。


何か適当なこと言って立ち去ろう。


「おっと……風が僕を呼んでいるようだ……君も自分の使命を全うするといい……」


「……!?」


そして僕はその場をそそくさと去ることにした。


何か美少女が驚いてたり、モールス信号の音で僕を呼び止めようとしてたけど無視。


よかったー。


生き残ったー。


ていうかあの時の僕、よく無視できたな。


あれで消されてもおかしくないよねあれ。


とりあえず入学式は波乱の幕開けだったのだ。


まさかまだ知らぬ先輩が肉塊になるとはね。


もしかしたら、先輩も彼女の言葉が分からなかったのかもしれない。


そのせいで肉塊にされたんだろうね。


マジのマジでギリギリでした。


まぁ終わりよければすべてよしってことで。


ははっ。


というわけで今の状況を言おう。


僕は今、いわゆる主人公席に居座っている。


窓際族ってやつだね。


……それだと意味変わっちゃうか。


まぁいいや。


とりあえずクラスメイトとは、なんとなくやっていけてる。


ただ一人を、のぞいて。


その一人は当然決まっている──。


「……あっ! 宵宮さん! おはよ!」


クラスの中心的人物が声を上げる。


「夕子ちゃん! おっはー!」


宵宮の女友達らしき人物も続く。


「宵宮さまぁ!! 今日も大変お美しい……!」


宵宮のファン的な何某も黄色い声をあげる。


そして、その本人が言葉を紡ぐ。


「r-klq -nur -- kl- qr-o- t-g-o r-y」


うん。


分からん。


相変わらず分からん。


でもクラスメイトは分かっている。


なんでそんな事が分かるのかは、彼らの瞳を見れば一目瞭然である。


みな、あの時の彼女の真っ黒な瞳のように、ぐるぐるとしているからだ。


こっっっっわい。


下手なホラゲーより怖い。


帰りたい。


めちゃくちゃお家帰りたい。


強制的にクラスのマドンナと化した化け物は、僕の隣の席に座ってきた。


「-o-k- -m-uv --yu on --t」


おそらく僕にも挨拶してる。


だから分からんって。


「……今日も風が泣いている……」


とりあえず意味深なこと言お。


気持ち悪いね僕。


「相変わらず何言ってるかわかんねぇなコイツ」


クラスの陽キャラ的な何某がそう言う。


こっちのセリフだわクソ野郎ども。


隣の宇宙人が何言ってるのか教えろや。


当の本人は何か笑ってるし。


何わろてんねん。


ちくしょうこんなことになるなら、通信制の高校にでも入学すればよかった。


とにかく、僕の目標は隣の化け物から離れること。


平穏を掴み取らねばならないのだ。


つまり、無事に卒業することだ。


……というか誰か僕を助けてください、お願いします。

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