宵宮夕子の声を聴け──宇宙人な彼女の催眠が効かない僕、バレたら消されそうだから厨二病のふざけたノリで誤魔化す日常。怖い。

夜缶

厨二病で乗り切る馬鹿(主人公)

「a-@tm -gwa -- tm- !」


僕が通学路を怠そうに歩いていた時、後方から女の子が、いつも通り意味の分からん言葉で声を掛けてきた。


やべぇ今日もわかんねぇや。


彼女の名は宵宮夕子。


いわゆる宇宙人である。


いやいや何を非現実的なことを言ってるんだ己はとか、そんなツッコミをされても文句は言えない。


というか冗談であってほしい。


何がって?


そんなの決まっている。


学校にいる先輩や同級生が彼女の謎の催眠術にかかって、言いなりになってしまうことだ。


明らかに不自然に、催眠術にかかってしまった者は例外なく目がすわっているのだ。


ただ、もしかしたら僕の見間違いとか、僕が何らかの病気に罹っているのかもしれない。


そう思って一応病院にも行ってみた。


結論を言えば、健康体そのものだった。


高校生になっても皆勤だしね。


なんて優等生なんだろう僕。


健康って素晴らしいね。


元気が一番!


はははっ。


クソがっ。


なんで健康体なんだよ。


いっそ仮病使って、学校休んじゃおっかなとか思ったりしたけど、皆勤が途切れちゃうのがもったいなくて休めない。


無駄なプライドだなとか言わないでください。


僕の取り柄、これぐらいしかないんです。


……あぁいや、もう一つあるな。


現在進行形で、彼女の謎の催眠術にかかっていないことか。


ただそのせいなのか、彼女の言葉が理解できないのだ。


モールス信号みたいな音しか聞こえない。


んじゃ実質取り柄一つじゃん。


つれぇ。


催眠術にかかる体質であれば、こんなふうに苦労はしないのだ。


「n@-@t yl yp- p-ot --t-y -d yp-- ?」


僕が返答の仕方を考えている最中、おそらく挨拶をしたのであろう宵宮夕子が、僕の顔を覗き込む。


ん?


挨拶に考えるも何もないだろって?


そうだね。


普通は同じように『おはよう!』とか返せばいいよね。


でも僕の場合は考えなくてはならないのだ。


だって──。


「……悠久の果てに意識が持っていかれていた……だが安心しろ。今覚醒したぞ選ばれし者よ」


厨二病キャラで押し通してるんだもん僕。


ふざけてんのかって?


半分当たってるが半分間違ってる。


命懸けでふざけてんのよ。


だってそうでもしないと僕、肉塊にされるかもしれないからね。


怖いね。


おいおい話すね。


「-a- oga ---m- wu y- --f- 」


僕が意味の分からん厨二病もどきなセリフで返答すると、これまた意味の分からんモールス信号もどきで彼女は返答した。


くすくすと笑ってるから、多分馬鹿にされてる。


泣きたい。


アンタのせいで厨二病もどきを演じてるんだぞこの野郎。


早く帰りたい。


というかなんで、よりにもよって僕に構うんだこの人。


分かりやすく痛々しいセリフ吐いてるから、いじりたいのかなぁ。


いじめっ子みたいでなんか嫌だわぁ……。

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