■080,『アラタ+新しい命を授かってみた』

「アラタ、大切なお話があるの」

 エルメスの表情が、いつもと違う。

「どうしたの?」


 エルメスは深い息を吸って、

「私たちに、赤ちゃんが……」

「えっ!?」

 アラタは思わず立ち上がる。


「本当に!?」

「ええ」

 エルメスの頬が赤く染まる。

 アラタは妻を優しく抱きしめた。


「パパ、ママ、どうしたの?」

 リュウが不思議そうに覗き込む。

「リュウ、お話があるの」

 エルメスが優しく微笑む。

「もうすぐ、弟か妹ができるのよ」


「ホント!?」

 リュウの目が輝く。

「あちしにも!?」

 スノーまで尾を振り出す。


「そうだよ。みんなの家族が、

 また一人増えるんだ」

 アラタが嬉しそうに説明する。


 その日から、家族の生活は

 新しい命を待つ準備で忙しくなる。


「パパ、赤ちゃんの部屋作るの?」

「ああ。お前も手伝ってくれるか?」

「うん!」


 アラタは土魔法で新しい部屋を作り、

 家具を整えていく。

 リュウとスノーも、

 できることを手伝う。


「ママ、赤ちゃんは元気?」

「ええ、とても元気よ」

 エルメスのお腹が、少しずつ大きくなっていく。


「あちし、赤ちゃんの見張り役する!」

「ありがとう、スノー」

 スノーは毎日、エルメスの側で

 優しく尾を振っている。


 街の人々も、この吉報を喜んでくれた。

「おめでとうございます!」

「エルフと人間の子供は珍しいですね」

 商業ギルドもお祝いムード一色だ。


「アラタ様、エルメス様、これを」

 シスターから、手編みの靴下をもらう。

「子供たちと一緒に作ったのよ」

 孤児院の子供たちからの贈り物だ。


 ハドソンさんたちは、

 赤ちゃん用の家具を作ってくれた。

「最高の木材を使ったぞ!」

 ドワーフの職人技が光る。


 エドガーさんからは、

 赤ちゃん用の高級な布をもらった。

「商売は二の次じゃ。

 祝いが先じゃよ」


 そして、待ちに待った日。

「アラタ……きたわ」

 エルメスの陣痛が始まった。


 アラタは妻の手を握り、

 リュウとスノーは外で待機。

「ママ、がんばって!」

「あちし、応援してる!」


 長い時間が過ぎ、

 ついに赤ちゃんの産声が響く。

「おめでとうございます。女の子です」


 小さな命が、この世に誕生した。

 エルフと人間の血を引く、

 銀髪の可愛らしい女の子。


「見て、私たちの娘よ」

 エルメスが疲れた表情で、でも幸せそうに微笑む。

「ああ、本当に可愛い子だ」

 アラタの目に、涙が浮かぶ。


「パパ、ママ、赤ちゃん見ていい?」

「おいで、リュウ」

 リュウが、そっと妹を覗き込む。

「わぁ、小さい」


「あちしの妹!」

 スノーも尾を振りながら近づく。

「うん、みんなの大切な妹だよ」


「名前は、ユナにしましょう」

 エルメスが提案する。

「月の光という意味ね」

「素敵な名前だ」


 ユナは、家族みんなに見守られながら、

 すやすやと眠りについた。

 新しい命の誕生。

 それは、家族の新しい物語の始まり。


 これからも、みんなで一緒に

 成長していこう。

 そう誓いあった、特別な一日だった。


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