■078,『エルメス+想いを伝えてみた』

「エルメス様、もう伝えたらいかがですか?」

 同僚の言葉に、私は顔を赤らめた。

「そ、そんな……」


 でも本当は、伝えたかった。

 アラタ様への想いを。


 毎日のように新しい発明を持ってきては、

 街の人々のために尽くすアラタ様。

 いつの間にか、私の心は虜になっていた。


 リュウ君を引き取り、立派な父親になった姿。

 スノーちゃんとの仲睦まじい様子。

 そんな家族を見るたびに、私は切なくなる。


「エルメス様、商業ギルドに呼ばれています」

「はい、今参ります」


 いつものように受付に向かう。

 すると、アラタ様が慌てた様子で駆け込んでくる。

「エルメスさん、大変です!」

「ど、どうされました?」


「実は、王都から使者が来るんです。新商品の視察に」

「まあ! それは大変ですね」

 私たちは急いで準備を始める。


 商品の陳列、資料の作成。

 アラタ様と二人、夜遅くまで作業を続けた。


「エルメスさん、いつもすみません」

「いいえ、私も商業ギルドの仕事ですから」

 互いに疲れた表情を見せながらも、笑顔で励まし合う。


 ふと気づくと、二人きりだった。

 静寂が流れる中、私の心臓が高鳴る。

「あの、アラタ様」

「はい?」


 その時、外で物音がした。

「スノーちゃん?」

 スノーちゃんが尾を振りながら入ってくる。

「エルメス、アラタ、まだ終わらないの?」


 スノーちゃんの登場で、緊張が解ける。

 でも、こんな雰囲気はもう二度と。

「エルメスさん?」


 覚悟を決めた。

「アラタ様、私……私……」

 言葉が詰まる。

 でも、もう戻れない。


「私、アラタ様のことが……」

「エルメスさん」

 アラタ様の表情が、驚きに染まる。


「好きです!」

 言ってしまった。

 顔が熱くなる。

 もう、どうにでもなれ。


 静寂が流れる。

 長い、長い沈黙。

 私の心臓が、破裂しそうなほど高鳴る。


「エルメスさん」

 アラタ様が、ゆっくりと口を開く。

「実は、俺も……」


 その時、スノーちゃんが飛び上がって喜んだ。

「やったー! やっと言えた!」

 スノーちゃんの無邪気な喜びに、

 二人とも思わず笑顔になる。


「俺も、エルメスさんのことが好きです」

 目と目が合う。

 互いの頬が赤くなる。


 翌日。

「パパ、エルメスおばちゃんと結婚するの?」

 リュウ君の質問に、アラタ様は照れ笑いを浮かべた。

「まあ、その……」


 街の噂は早かった。

 商業ギルドのエルフの受付嬢と、

 異世界からの商人の恋。

 まるで物語のような噂が、街中を駆け巡る。


 でも、それは本当の物語。

 私たちの、新しい物語の始まり。


「エルメス、おめでとう!」

 スノーちゃんが私に飛びつく。

「ありがとう、スノーちゃん」

 家族が、また一人増える。

 これから始まる新しい生活に、

 私の心は期待で膨らんでいた。


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