■077,『アラタ+過去を振り返ってみた』

 夜更け、リュウの寝顔を見つめていた。

「すやすや寝てるな」


 この子を引き取ろうと思った時のことを思い出す。

 孤児院で初めて会った時、少年は笑顔で近づいてきた。

「兄ちゃん!」

 その無邪気な笑顔に、胸が締め付けられた。


 俺には、失くしてしまったものがあった。

 家族という夢。

 元カノと結婚するはずだった未来。

 でも彼女は、俺の夢を壊して去っていった。


 その時の俺は、ただ怒りと悲しみに支配されていた。

 登録者数を増やすことだけを考えて、

 まるで逃げるように動画を作り続けた。


 だが少年に出会い、何かが変わった。

 純粋な笑顔に触れ、

 失っていた何かを取り戻せる気がした。

 それは、家族を持つという夢。


「んん……パパ?」

 リュウが目を覚ます。

「どうした? 悪い夢でも見た?」

「うん……パパがいなくなる夢」


 リュウを抱きしめる。

「大丈夫、パパはどこにも行かないよ」

「ホント?」

「ああ、約束する」


 スノーも寄り添ってくる。

「あちしもいるよ」

 この子たちが、今の俺の家族だ。


 思えば不思議な巡り合わせだった。

 異世界に繋がった扉。

 チートという力。

 スノーとの出会い。

 そしてリュウ。


 元カノに裏切られた時は、

 世界が終わったように思えた。

 でも今は違う。

 あの別れがあったから、

 この幸せに巡り会えたのかもしれない。


 そういえばヒロフミも、

 良き理解者になってくれた。

 人との出会いって、不思議だ。


 エルメスさんのことを思い出す。

 いつも支えてくれる、大切な人。

 でも、その想いの正体が掴めない。

 それとも、気づかないふりをしているのか。


「パパ、もう眠くない」

「じゃあ、お話でもする?」

「うん!」


 リュウの要望で、絵本を読み始める。

 スノーも耳を傾けている。

 こんな穏やかな時間が、

 今の俺には何より幸せだった。


 異世界での生活は、

 予想もしなかった展開の連続だ。

 でも、このかけがえのない家族と、

 大切な仲間たちと過ごす日々は、

 きっと俺が本当に望んでいた未来なのだと思う。


「パパ、明日は何するの?」

「そうだな……みんなで市場に行こうか」

「やったー!」


 リュウが喜ぶ顔を見て、

 改めて思う。

 俺は、この子の父親になれて良かった。


 これからも、この家族を守っていこう。

 そして、もしかしたら、

 この家族はまだ大きくなるかもしれない。


 そんなことを考えながら、

 俺は静かに微笑んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る