舞のお稽古・・・(2)
舞のお師匠、こと萬田先生がヒステリックな暴力教師である事が発覚。
正直申しまして、萬田先生の舞は習いたい舞ではありませんでした。幼女にはエチチ過ぎると思うのです。 そんなモノを踊って、私は作者を
とは言え、宮中を知ることができる貴重な機会なので、お爺さんに
ダメだったら
◇◇◇◇◇
昨日のことなんてなかったかの様にお稽古が行われました。
今日のところはお婆さんに見学に来てもらったので暴力を振る舞われません。学校でも、普段の授業と授業参観日(※)での通常の授業とでは先生の態度も、言葉使いも、声のハリも微妙に違いましたからね。
(※作者注:最近は保護者が学校内を自由に見て回れる期間を設ける『学校公開』がトレンドですが、主人公が小学生の時は授業参観が一般的でした……という設定)
萬田先生もお婆さんの前では襟を正しています。お爺さんの前ではアレだったのに……。
「はい、回って、回って、回って、回って、回って、回って、回って、回って、そこで足!」
タン!
「もっと強く」
ダン!
「もっと体全体で! 神様をお迎えするのです!」
クネクネクネ。
「はい、回って、回って、回って、回って、回って、回って、回って、回って!」
クルクルクルクルクルクルクルクル…
「足!足!足!」
タン!タン!タタン!
「はい、そこまで!
姫様、筋が大変宜しいです。神様がお越しになられる為にはもう少し大きく激しく動いて下さい」
「はい……」
(意訳:あまり嬉しい才能ではありませんので、辞退します。)
お婆さんが特に何も言わないという事は、このクネクネの舞が飛鳥時代の
私の持つ日本舞踊のイメージとはだいぶ違うみたいです。
◇◇◇◇◇
午後は座学。私の部屋のおコタで萬田先生の授業です。
「萬田様、舞は他に種類ある?」
「はい、御座います。ですが、幼子に舞える舞は他に御座いません」
「何故?」
「大変難しいからです」
うーん、あのエチチな踊りこそ幼子にはムリっぽい気がします。
「神様をお迎えするとはどうゆう事?」
「昔、神様が
洞穴……、天の岩戸の事かな?
とするとあの踊りは、
その踊りの様子が気になった天照大御神様がそーっと岩戸を開けたところを
秋田様の薄くて楽しい資料によると、天鈿女命様の踊りはベリーダンスやポールダンスを彷彿させる様な激しいダンスで、お椀が丸見えのプルプルウッフーンな踊りだと書かれていましたが、この事だったのですね。
「お迎えする神様は天照大御神様?」
「よ……よくご存知ですね。秋田様に教わったの?」
「……はい」
否定するのは面倒そうなので肯定しておきます。
「
「月読命様?何ですか、それ? そんな名も知らぬ小さき(マイナーな)神など知りませぬ」
「月読命様、とても偉い神様。
三貴神の一柱。天照大御神様の弟神。
「何を生意気な事を言ってるの!? ちょっと知識があるからって偉そうにするんじゃ無いよ」
うーん、沸点の低い方ですね。これでは宮中生活はキツかったのではないでしょうか?
「宮中、知識と詠が大切と聞いた」
「宮中なんてねぇ、見掛けが全てなんだよ。
言葉使いが崩れてます。相当に辛い思いをしたみたいです。
「萬田様、醜女じゃない」
「アンタみたいに恵まれている子に言われたくないよ!
アンタだって時々私の欠けた歯に目が行くじゃないか!
女は見掛けが全てなんだよ」
うーん、欠けた前歯がコンプレックスみたいです。でもこの時代の人で虫歯にならず歯並びが完全な人って少ないんじゃないのかな?
「じゃあ、治す」
「な、な、な……何言ってんの!この子は!
そんなことが出来るんだった……ら?」
私は萬田先生の言葉を無視して立ち上がり、光の玉を出します。光の玉を見て、萬田先生はポカンとしています。
光の玉にイメージを乗せます。ただし、欠けた歯を新しく
虫歯が多そうなので、虫歯部分と手遅れの歯の除去。
そして除去した歯の組織をつかって、欠けた前歯の再生と軽度の虫歯の穴の修復。
除去して足らなくなった歯と歯並びの矯正。
しっかりと噛み合った上下の歯並びを自分の口の中で確認しながら正しいイメージを構築します。
1分くらい掛けてイメージが出来上がりました。そして、そのイメージを乗せて萬田先生に光の玉を顔に思いっっきりぶつけました。
昨日叩かれた腹いせじゃないですよ。
「きゃああああ!
ぅああああ〜〜〜、ぐわぁぁぁ〜〜〜」
萬田先生が口の中から光を放ちながら、顔を押さえて悶えて苦しんでいます。口の中で大工事が行われているので無理もありません。よくよく考えれば麻酔をするイメージは全くしていませんでした。
もしかしたら昨日叩かれた時の痛みのイメージが上乗せされてしまったのかも知れませんが、それはそれ、これはこれです。
二、三分して萬田先生の口が光らなくなり、大人しくなりました。
私の体調もこの前みたいにブラックアウトする様な兆候はみられません。
「はぁ、はぁ、はぁ……一体何したんだよ!
お前は鬼か、鬼畜か、もののけか?」
萬田先生はおコタに足を突っ込んでいるので、掴み掛かって来る様なマネはできませんが、すごい形相で私を睨みます。それにしても、二人称が、姫様、アンタ、お前、とコロコロ変わりますね。キサマとかテメエと言われるのも近そうです。
私はお部屋に設えてある鏡を手に取って、萬田先生へと近づき、それを差し出しました。
「自分の顔、見て」
「何見さそうとしてんだ。テメェは!」
あっさり『テメェ』に格下げです。こちらの言うことに聞く耳を満たなそうなので、鏡の蓋を開けて自分の顔の前に持ってきました。萬田先生からは自分の顔が写って見えているはずです。
「嫌味はやめろって言ってるんだろ!
見たくもないモノ見せて何が楽し……い……何コレ?」
やっと気付いたみたいです。先ほどから私に罵詈雑言を浴びせる萬田先生の歯並びが矯正歯科で治したみたいにキレイな歯並びになり、ついでにホワイトニングされています。
すると廊下をドタドタと走る足音がしました。
「娘よ、入るぞ。大声がするが何事じゃ!?」
慌てたお爺さんとお婆さんがお部屋に入ってきました。
「大した事じゃない。萬田様の歯、治療した。
萬田様、驚いただけ」
「おぉ、そうか」
何事もなくホッとした様子のお爺さんとお婆さん。
一方、萬田先生はと言うと……、鏡の中の自分を見てフリーズしています。口の形が『イ』なのはご愛嬌ですね。
「これは一体……」
萬田先生、まだ理解が追いついていない様子です。
「萬田様、醜女じゃない。でも怒りいぽいの良くない」
その言葉を聞いた萬田先生はガバっとこたつを出て土下座ポーズになりました。
「姫様、いえ天女様。此度は大変失礼致しました。私の様な下賤の者にお慈悲をお与え下さり感謝の言葉も御座いません。天女様への失礼の数々、髪を丸めてお詫び致します」
「髪は丸めちゃダメ。
舞を教えて。ゆっくりな舞。ポロリしない舞」
「ははぁ〜」
突然改心した萬田様と私とのやり取りについてイケないお爺さんとお婆さんは、呆然とその場に立っていました。
(つづきます)
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