舞のお稽古・・・(3)
「はい、姫様。
そこでくるーんと回って、ピタ!
扇子を前に……とても宜しいですよ。
そこで扇子を奉納差し上げる様に、深々とお辞儀です。
じっとして。……はい!
扇子をパラパラと開きながらゆっくり回って……」
スッカリと人が変わってしまった萬田先生はものすごく協力的になり、舞の振り付けと指導をしてくれる様になりました。幼女の体力でもついていけるクネクネ無しゆっくりな舞です。でもクルクルは相変わらずです。『舞う』と『回る』は同義なので、その基本を外す事は出来ない様です。
そして、萬田先生に提案して、榊でなく扇子を使っての舞のアレンジをお願いしました。神様へ奉納する舞を変更させるという事は不敬になりかねない事案ですが、私を天女と信じて止まない萬田先生は積極的に協力してくれます。日本舞踊でも舞と扇子の組み合わせは定番ですので、すんなりとサマになりました。
現代での神社巡りで見た巫女舞いを思い出しながら、これならば月読命様に奉納するのに差し障りなく、安心して習っています。
「はい、右に回りながら皆さんの方へ向いて、ゆーっくりと。
座って……扇子を前において、ゆーっくりと。
はい、お辞儀ですーーー。
(パチパチパチ)
大変よく出来ました」
◇◇◇◇◇
午後は主に宮中の常識を学びます。宮中のシステムとか、宮中の序列とか、宮中での生活の様子とか、歩き方とか、服装とか、宮中でしか通用しない
これを知らないと、
周りから礼儀を知らない地方出身のイタい女として見られたり……。
異世界転生した無自覚系主人公となって
頑固がウリのコッテリ系ラーメン店で店主や常連客に怒られたり……。
予期せぬトラブルを引き起こさないために必要な
「飛鳥の地に
「萬田様は後宮にいたの?」
「そうです。後宮は男子禁制となっておりますが、今の帝は女性なのであまり厳しくは守られておらず、制限はありますが皇子やその親族の方などが出入りしておりました」
「後宮は帝のお世継ぎを産むところ?」
「皇后様や妃様は後宮にはお住まいにならず、通常は内裏の外にお住まいになられます。先の帝の皇后様は皇后宮をお持ちでしたし、妃様も氏上様の宮に住まわれたと聞きます。
もちろん、帝の寵愛を受けられて
(※ 天皇の妻のランキングは、皇后>妃> 夫人>
(※※ この当時の官吏の呼び名です。)
「男性の宮人はいないの?」
「後宮は役職者を含めて、全て女性で営まれています。
唐の国の後宮では
「意外とジェンダーフリーが進んでいた?」
「じぇ……じえんだふり?」
「あ、こっちの話。気にしないで。もう少し詳しく」
「はい。後宮には
私がおりましたのは膳司で、宮内での食膳を司ります。
それぞれの宮司は
「
「姫様の様な
誰でも良いわけではなく、年齢は13歳から30歳で、容姿端麗である事が望まれます。
帝や後宮に住まう高貴な方々の食事など身の回りの庶事を行うのは采女の仕事です。
氏女は
「采女と氏女、どう違うの?」
「出自と後ろ盾が違いますので、同じ女孺でも後ろ盾の強い氏女が何事においても優先されます。また同じ氏女でも派閥によって集団を形作っておりますので、どちらと親しくするかにつきましては慎重にならなければなりません」
「………面倒 (ボソッ)」
「確かに嫌な事はたくさんありました。でも今思えば、後宮に居た時のお仕事はやり甲斐がありました。今の自分ならもっと一生懸命に職掌を果たせたと少し後悔しております。短い期間でしたが得難い思い出でもあるのですよ」
「やり甲斐?」
「そうですね……。
「ん〜〜、考えてみる」
こうして後宮がどの様な場所である事を萬田先生に教えて頂きました。現代人から見た後宮の印象は、後の大奥の様な女の戦場みたいなおどろおどろしい場所かと思っていたのですが、飛鳥時代の後宮は思ったよりも現代の
でもやはり、派閥争いは面倒そうです。萬田先生は歯こそアレでしたが、舞を生業とするだけに姿勢が良く、凛とした雰囲気の女性です。だからこそ、欠点を貶され、周りから寄って集ってイジメられて、嫌な思いをしていたのかも知れません。
現代での私も女性社員の中ではどちらかと言えば浮いた存在でしたので、共感するところは多々あります。ただそれを気にするかしないかの違いだけで……。
◇◇◇◇◇
元々、萬田先生のお稽古は3日間のお約束でしたが、新しく舞をアレンジして習い直す方になったので、2日延長して5日間屋敷に滞在して頂きました。その間、萬田先生用の半纏を繕ったり、おコタで橘の実を一緒に食べたり、一緒にお風呂に入ったりして、仲良く過ごすことができました。
お別れの時には、萬田先生は号泣してお別れを惜しんでくれました。萬田先生は萬田先生で、年末年始はお忙しいので仕方がありません。
私はというと、宴の席で舞うのは年末年始ではなく小正月(1月15日)の夜に催される宴の席の予定なので、少し余裕があります。小正月の夜は満月なので、月詠様に捧ぐ舞に相応しいだろうとの配慮……ではなく、小正月の宴の方が盛り上がるからだそうです。
お屋敷の一番広いお部屋で自主練です。誰も見ていないので光の玉を出したりして、舞にアレンジや新技を加えたりして楽しんでいます。
私の舞を失笑したお客様に光の玉をお見舞いする場面を想像しながら……。
チューン!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます