舞のお稽古・・・(1)
本格的な冬がやってきました。
もうすぐお正月なので御飾り、新年の炊き出し、挨拶回り、神事、などなどいろいろと準備が必要です。
お客様もたくさん呼ぶようで、その準備の一環として秋田様が姫検地の一件以来となる訪問がありました。
「姫様、久しぶりでございます」
「ご機嫌よろしゅう。秋田様」
「数ヶ月見ぬうちに姫はすっかり成長されましたね。
それと姫から頂いた扇子を有難うございました。大切に使っています。扇子を見た者からは欲しい欲しいと引く手数多です」
「役立って嬉しい」
「おぉ、秋田殿。よくぞいらっしゃいましたな。晦日が近く忙しい所を恐縮じゃな」
残念。新しい書物を期待していたのですが、お爺さんの乱入であやふやになってしまいました。
「
明くる年はこの屋敷にて宴を催すと聞きました。神をお迎えする宴ゆえ、私も助力致します」
「それなんじゃが……娘に舞を舞ってもらおうかと考えておるが、如何じゃろう?」
『ゲッ!』
いけない、いけない。乙女として在るまじき声が出そうになりました。
「それは良い考えですな。きっと来客も大盛り上がり間違いないでしょう。神様もお喜びになります」
『ゲゲッ!』
そのうち乙女の尊厳も吹き飛ぶかも知れません。久々に頭ピッカリの光の球を飛ばしたくなりました。
「娘よ。将来、宮中に入るためには舞と作法と
「舞、わからない」
(意訳:えぇー、やりたくなぁーい)
「秋田殿、良き指導者に伝手はあるかの?」
「我が
……で、申し訳ないのだが造麻呂殿。無償という訳にはいかない事を了承下さい」
「はっはっはっは。秋田殿には常日頃から世話になっておる故、遠慮されるな。
娘のためになるのなら、たとえ身上を潰したところで惜しくは無い」
(意訳:わーはっはっはっはっは。本当に最近遠慮が無いのう。
じゃが金はたんまりある。十ある蔵もまだ三しか一杯になっておらぬが、全然ヘーキじゃ。
娘には国母になるまでじゃんじゃん投資するぞい)
ゔ〜、私の関与しない所でどんどん話が進んでいきます。舞っている途中で転んで笑われたら、来客全員に頭ピッカリの光の玉をプレゼントしてやる~。
お爺さんはつるピカで、秋田様にはバーコードの光の玉
◇◇◇◇◇
秋田様が推挙する舞のお師匠様一団がいらっしゃいました。
「
「萬田殿、遠い所をよく来た。辺鄙な所なれどゆるりと寛いでくれ」
萬田様がどの様な立場の方か分かりませんが、お爺さんの言葉からは秋田様より下の立場っぽい気がします。思ったよりも歳は若くて、傘持ちのお姉さんと二、三歳くらいしか違わなさそうです。
容姿についてアレコレ指摘するのは自分も嫌ですし、
ですが、舞のお師匠様だし、元は宮中にいた方なのでお話も聞きたいので出来るだけ当たり障りなく接したいです。
「年若く道理も判らぬ未熟な者ですが、何卒よしなにお願いします」
いつもは幼女を嵩に着て楽な言葉しか使わないのに、ここ一番畏まった言い方をします。
「可愛らしい姫様ですこと。きっと舞も映える事でしょう。楽しみですわ。よろしく」
とりあえず、無難に挨拶ができました。挨拶は萬田様だけでしたが、後ろに二名、多分楽隊と思しき方々が控えています。
「それでは準備致します。暫しお待ち下さいまし。
……あ、そうでした。秋田様より文を預かって参りました。どうかお納め下さいまし」
そう言って、萬田様はお爺さんに手紙を渡して奥の間へ着替えに行きました。手紙をパラリと見たお爺さんは少し難しい顔になって、暫く考えた後、私に語りかけてきました。
「娘よ。秋田殿の文によると萬田殿の舞の指導は厳しいとの事じゃ。どうしても耐えられなかったらワシに言いなさい。
じゃが、宮中に居た事のある者はこの地には数少ない。宮中を学べる貴重な機会ゆえ、まずは頑張ってみなさい」
「……頑張る」
(意訳:ゔ〜、大変な思いをしてまで舞を習いたいとは思っていないのです。礼儀作法は習いたいけど、他はいらないです〜。)
私はこの時代の国文学を学びたいだけなのに、面倒ですね。
……あ、萬田様が戻ってきました。
????
巫女さんの衣装に見えなくはありません。両手に榊らしい枝を持っています。袴は赤ではなく、上下とも白いで、どちらかと言うと古墳時代の巫女さんってイメージに近いです。
でも何と言うか……とてもエチチな感じが、そこはかとなく、プンプンとします。思いっきり前がはだけていて、私がチェリーならばコ◯されています。
どうしよう? 私、入るお店を間違えたのかしら?
「竹取の翁様、ここから先は神事以外での男性の立ち入りが禁じられております。申し訳ありませんが、席をお外し願えませんでしょうか?」
「うむ、娘の舞は当日まで楽しみにするとしよう。萬田殿、娘を宜しくお頼み申す」
「畏まりました」
お爺さんは用事もあるので外へ出ました。
「では姫様、ご覧になって下さい。後で同じ様に舞って頂きますので、目を離さぬ様ようく見るのですよ」
「……はい」
(意訳:出来れば目を逸らしたい格好なんですけど……、古代の舞には興味があるのでキチンと見ます。
でもその格好、本当にどうにかなりませんか?)
楽隊の横笛と太鼓の演奏が始まりました。
旋律は雅楽っぽく、音色が高く、竹なのに金属製の笛みたいな感じです。
萬田先生はと言うと、旋律にお構いなしにくるくると反時計回りに回ります。
クルクルクルクル。
体をくねらせ、ダン!ダン!と足を踏み鳴らして、激しく踊ります。
クネクネクネクネ、ダン!ダン!ダダン!
あまりの激しい踊りに、元から着崩れしている襟からアレがポロリしてしまいそうです。ですが、萬田先生はそんな事お構いなしに体を動かします。これは舞というよりトランス状態に陥った呪術っぽい何かでしょうか?
約二分後、演奏が終わり、萬田先生のショ……舞が終わりました。幸か不幸か萬田先生のお
多分、私もポロリはしないと思います。
……と言うか幼女がポロリして誰得?
【天の声】世の中はムダに広いぞ!
「姫様、これが神々を呼ぶための舞にございます。それでは姫様、舞って下さいまし」
「…………はい」
(意訳:本当にやるんですか? 萬田先生は幼女に何をさせようとしているの?)
演奏が始まりました。とりあえず見様見真似なので何も持たず、クルクルします。
クルクルクルクル。
萬田先生は足を踏み鳴らしてましたね。
タン! タン! タン!
クルクルクルクル。
目が回ってきたので、回るの終わりにします。
ぺこり。
萬田先生はと言うと……顔が赤いです。
真っ赤です。
「何を見ていたんですかー!! 私の舞はそんなだったですの!?」
萬田先生は大声で怒鳴り、鬼の形相となって手に持っていた榊でバシバシと叩いてきました。これはいけません。通報案件です。
どうやら萬田先生は暴力教師の
(つづきます)
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