HANGTENG作り
飛鳥の里にも本格的な冬が到来しました。
新築のお屋敷は快適なので多少の寒さは気になりませんが、寒くないわけではありません。
多分、今の私の身体は現代からやってきたのでは無いかと思っています。それくらいに今の私と、現代での幼少時代の私はそっくりなのです。つまり現代人である私の身体はとても弱く、原始時代さながらの生活をしたら一日も保たないでしょう。
なので、防寒と暖房が絶っ対に必要と思ってます。
この時代の暖房……囲炉裏で火をおこせばかなり暖かいと思いますが、私のお部屋には囲炉裏はありません。実は仕掛けがあるのですが、それは後ほど。
まずは防寒具。
材料さえあれば自分で作れそうな綿入れ
半纏……関東では『
【天の声】ホントにアラサーだったのか?
けほんけほん。……風邪かしら?
生地の素材ですが、一般大衆(パンピー)には
飛鳥時代にも高級素材の絹や真綿はありますが、どちらも原料が蚕の糸なのでお高いです。高貴な人しか身につける事が出来ません。
防寒のためには仕方がありません。
今日1日だけ、私は
ちなみに高貴な女性の象徴、女房装束いわゆる十二単がかぐや姫っぽいイメージですね。しかし、それは不可能なのです。何故なら飛鳥時代に十二単がまだ無いから。
この時代の貴婦人は高松塚古墳の壁画に描かれている天女の様な衣を纏っています。平安貴族が着るような十二単は二百年以上後の宮中で流行したファッションなのです。例えるなら、江戸時代にリクルートスーツを着て
しかしホカホカな防寒着となれば話は別です。どんな目で見られようと、暖かければそれでOK。真っ赤な毛糸のパンツを履く事も厭いません。半纏ならば肌触りのいい生地と
お婆さんと相談しながら作ってみましょう。
◇◇◇◇◇
「はは様、暖かい服作りたい。手伝って欲しい」
「おやまあ、今着ているのでは寒いのかい?」
「少し寒い。もっと暖かい着物を作りたい」
「どんな着物が欲しいのかい?」
「こんなの」
私は紙に書いた半纏とちゃんちゃんこの絵を見せました。
着物の絵だけだとイメージが湧かないので、子供がちゃんちゃんこを着てヌクヌクになっている様子も書き添えました。イラストはどちらかと言えば得意でしたから、伝わったと思います。
「ほぉー、絵が上手く描けているねぇ。これは面白そうな服だね。どうやって作るんだい?」
「生地と生地の間に真綿が入っている。生地は肌触りのいい布地。真綿が偏らない様に縫う。襟は擦れ易いから丈夫な布を重ねる」
「じゃあ、じい様に頼んで、布地と真綿を手配して貰おうかね」
「うん、たくさん。はは様とちち様の分も欲しい」
「おやまぁ、それは嬉しいねぇ」
お婆さんはそう言うと、私をギュッと抱きしめました。この人達に引き取られて私は本当に良かったと思います。
「はは様と一緒に作るの楽しみ」
◇◇◇◇◇
「おぉ、娘よ。ワシらに着物を
「はは様と一緒に作る。真綿が入って暖かい着物」
「それは楽しみじゃ。反はある。真綿は手配しよう。他には何が必要かの?」
「糸と針をたくさん」
この冬は綿入れ半纏を着て、三人揃って暖かく過ごしましょう♪
手袋があるともっと良いかもしれません。
最終的には毛糸のパンツ!
これに勝る防寒具はありません。切実的にスースーするんです(泣)。
◇◇◇◇◇
三日後、頼んでいた真綿が届きました。
真綿と一緒に布を織る部民と呼ばれる方もきました。
この時代の技能者に対する考え方は、『餅は餅屋』を徹底した様な感じで、技能集団である部民という人達がいいます。特定の技術製品を貢納して暮らしている部民さん達の仕事を侵すのは何かと
まずはお爺さんの半纏を作りましょう。一番欲しがっていましたし、私とお婆さんが作業している時にウロウロされるくらいならとっとと作ってしまった方が害は少ないからです。そして一番の理由が、失敗しても構わない実験台として最適だからというのは内緒。
この時代の紙は布より貴重ですから型紙はありません。
幅1尺の反物をお爺さんの背中に合わせて採寸し、裏地と表面が必要なので二枚ワンセットになるよう刃物で切って繋ぎ合わせていきます。表生地は紺色の丈夫な布、裏地は肌触り重視で縫部さんに生地を選んで頂きました。
次は前。
お婆さんに説明する時に描いたスケッチのおかげでどうすれば良いか分かって貰えたので、作業はサクサク進みます。
そして真綿。色は
【天の声】ホントのホントにアラサーだったのか?
けほんけほん……インフルエンザかしら?
疲れを知らない子供なのに……。
真綿はよく伸びるので、厚さ2センチくらいの座布団の様に平らに均一に伸ばしていきます。
スリーピースの布袋が出来たら、裏返した状態で、綿の布団を合わせてはみ出した部分を千切って行きます。背中が冷えるといけないので、ここは余った真綿を重ねておきましょう。ぴったりあったところで布袋を裏返して、縫って完全に綴じます。
そして3つを縫い合わせたら完成。現代の私だったらミシンでガーっと縫い合わせてしまいますが、その辺は縫部さんが持っている技能が大いに役立って頂きました。
襟のところは擦れやすく、汚れやすいので黒くて厚い端切れでカバーしました。前を留める紐もつけました。出来上がる頃は外がだいぶ暗くなっていましたが、我が家はロウソクも電灯も必要ありませんので、光の玉を出して最後までやってしまいました。縫部さんが驚いてましたが、気にしたら負けです。
指をチクッとやっても、いつもの様に光の玉で完治。縫部さん自慢の縫い針はすごく気合が入った尖り方をしているので刺さるととても痛いのです。
尖った14歳がイタいのといい勝負です。
◇◇◇◇◇
さて出来上がった半纏の試着タイム。
「ちち様、出来た。羽織って」
「おぉ、娘よ。ワシは嬉しいぞ。
どれどれ………なんじゃこりゃー!
ものすっごく暖かい。これならば冬の山奥の寒さにも耐えられそうじゃ」
お爺さん、大袈裟。半纏を着て山へ遭難しに行くのは止めて。
思いの外、良いものが出来たと思いますが、三つの四角いピースを縫い合わせただけなので、何だか段ボールロボットみたいな出来です。もう少し立体的にしたいですし、襟の形ももう少し工夫を凝らしたいところです。
縫部さんも色々試してみたいことがあるとの事なので、次に作るお婆さん用の半纏作りで改善するつもりです。縫部さん的には前合わせにすればもっと暖かそうだし、もっと裾の長い着物にもチャレンジして見たいと言ってました。
半纏が長ければ丹前でしょうか?
ひょっとしたら私は和服誕生の瞬間に立ち会ってしまったのかも知れません。
縫部さん、明日の日本のファッション業界を宜しくお願いします。
あと、毛糸のパンツも宜しく。
◇◇◇◇◇
そんなこんなで、お婆さんと裁部さんと私の二人と半人前が頑張った甲斐あって、半纏三着と私用のちゃんちゃんこ一着、そして外に出る機会の多いお爺さんには帯で留める丹前が完成しました。お爺さんはいつも格好の上に丹前を羽織ってウキウキと外出します。この時代のファッションは袴の上にシャツ出しが当たり前なので、半纏が袴に仕舞われなくても違和感がありません。
校則の厳しい学校でシャツ出しをしたら先生に叱られるところもありましたが、この時代ではそうゆう事はなさそうです。
それでもまだ真綿が半分くらい余っていますので、余った真綿を使ってアレを作ることにしました。
まず反物を繋ぎ合わせて、2メートル四方の布袋を作り、その中に真綿を入れて閉じます。綿が偏らないよう、お雑巾みたいに布袋に糸を通します。
こうして作ったもの、それはこたつ布団です。しかも、シルクで出来た最高級品です。しかし、こたつのないこたつ布団は単なる高級布団です。
こたつ作り。
幼女がDIYをやって、やぐらこたつを作るなんて事はしません。というか出来ません。力もなければ道具もありません。材料もありません。手に入れようにもホームセンターすら見当たりません。
もしあったらDIYしないで出来合いを買いますけど……。
でも安心して下さい。こんなこともあろうかと、家を新築する際に私の部屋に掘りごたつの
さて、試運転。
幼女の力ではこたつの準備するのは無理なので家人のお姉さん達にお願いしました。
炭火の準備もお願いしました。
照明代わりに光の玉を出します。
秋田様からお借りした薄い
残念ながらミカンはありません。
レッツ、こたつでゴロゴロ!
うーん、し・あ・わ・せ。
秋の夜長の少し肌寒い夜、掘りごたつで趣味全開だなんて飛鳥時代とは思えない贅沢です。何よりも、掘りごたつはテーブル椅子に座るような姿勢なのでとっても楽です。ついでに猪名部さんにお願いして、座椅子も用意しましょう。その前にお
ひとまず、試運転は成功。このままドロドロと泥沼に嵌っていたい気持ちもありますが、お爺さんとお婆さんにお披露目しましょう。
……とその前に、書物は仕舞っておきます。
難しい書物と真面目な書物の間に挟んで……と、可動式本棚の奥の棚に仕舞います。この本棚も猪名部さんにお願いして作った
【天の声】変なところで師匠に似てきていないか?
◇◇◇◇◇◇
「ちち様、はは様。私のお部屋きて。お見せしたいものある」
「おぉ、娘の部屋に招待されるのは何とも嬉しいものじゃな」
「何か面白いものが見れそうだねぇ」
綿入れ半纏を着たお爺さんとお婆さんが私の部屋に来ました。部屋の真ん中にあるこたつをみて、
「娘よ、これは一体何じゃ?」
「こうする」
私はこたつ布団の中に足を入れて、こたつに座りました。それを見てお爺さんとお婆さんが私の真似をしてこたつに足を入れます。
堀りになっているのは予想していなかったみたいで少しおっかなびっくりでしたが、炭火で温まった掘りごたつの中に足を入れて、もっとびっくりしています。
「娘よ……なんじゃこりゃー!」
やはり、いつもの
「これは凄く快適じゃ。娘がくれた着物とこの暖かい机があれば、真冬の雪の中でも耐えられそうじゃ!」
いえ、普通に遭難しますって。
「ほぉぉ~、これは温いねぇ。このまま寝てしまいそうだよ」
お婆さんも満足げです。
「これはこたつ。作り方、
お尻の下に敷くものあればもっと快適」
「ほぉ、これは猪名部の発案なのか?」
「発案は私。猪名部さんにお願いして作った」
「ふーむ、娘はこの『こたつ』とやらをどこで知ったのじゃ?」
「考えた。そしたら出来た」
見え見えのウソですね。
「何とも聡明な娘じゃ。幼子とは思えぬ利発さじゃ」
あ、信じた。
「お尻に敷くもの、お願い。ちち様とはは様のお部屋にこたつ作るの手伝う」
「うんうん、楽しみじゃな」
【天の声】
……と言いながらも爺さんはこう考えていた。
『さすがにこれは幼子が考えてできるものではないな。
習わずとも文字を知っておったし、おそらく娘はここに来る前、既に高度な知識を得ておったのであろう。この子のためにもワシは中央に渡りをつけて、女としての幸せになる道を探さねばなるまい。娘の能力ならば帝に迎え入れられ國母となるのも夢ではないじゃろう。
……じゃが何故じゃろう?
とても親思いの娘にずっと家にいて欲しいと願う気持ちもある。これが娘を持った親の気持ちなのかのう?』
親子三人でコタツに入りながら、俗物的な爺さんの考え方にも少しだけ変化が訪れていた。
作者注:租庸調の納税項目に『木綿』がありますが、実はこの当時の
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