魔法(チート)幼女の小道具

 帳簿作りと徴税騒動のおかげで私の存在は世間に知れ渡ることになりました。

 幸か不幸か私は天女に間違われているので、通天閣のビリケン様のように直接的な接触を伴う事態はありません。ただ遠目に拝んでいるだけです。

 拝む対象はお姫様と言う身分に対して、というより得体の知れない力を持った何かに対して、ですね。たぶん。

 やってしまった自覚はありますので、それに文句はありません。でもやはり鬱陶しく思わなくは無いわけで、「ピッカリになれぇー」と衝動的に光の玉を発射してしまいそうで、コワイです。

 今の自分がモテ女に程遠い地味女である事が分かった途端にすっかり忘れてましたが、このままでは性格の良い悪役令姫かぐやひめを目指すのにも支障が出ます。

 将来、例え求婚者ものずきに求婚されても丁重なりふりかまわずにお断りして気持ちよく帰って貰うために、今何をすべきか考えておきたいですね。


 まずは初志貫徹。

 性格が良くて友好的フレンドリーな姫、略してフレひめを目指しましょう。味方は多い方がいいですから。

 後は……そうですね。ピッカリ以外の技を編み出したいですね。

 最後にモノ言うのはぶつりです。求婚者ストーカーがドン引きするくらいのパワーを見せつけるのも良いかも知れません。

 何かと役立ちそうですし。

 例えば……


 相手にちょんと触れたあと、「あなたはもうこの世の人ではございませぬ」と言い放つと、触れられた相手が「何をほざいてやがるん……はれ?お、俺の顔が…ぐわぁぶぁや」

 ピシュー……


 とか


 掌に光の球を握り締めて「バ◯ス」と唱えると周りがガラガラと崩れ落ちていく。


 とか


 気を溜めて「かーぐーやーめーはっ!」と掌から特大の光の玉を放つ。


 とか。


 ……何故でしょう?

 千四百年前の昔の世界であるのにも関わらず、二十一世期の著作権協会からの抗議がやって来そうな気がします。

 それに万が一、戦った求婚者ライバル強敵トモと呼ぶ間柄になったら大変です。そんなのいりません。


 見かけは幼女ですので、超絶格闘系よりも魔法少女系がいいかも知れません。

 となりますと小道具が必要ですね。日曜の朝の魔法少女系アニメは年間50億円以上の関連グッズを売り上げている、とビジネス誌に書いてありました。最盛期には100億円を突破しましたが、アイドル育成ゲーム系などの新興勢力に押されて徐々に売上を落としているとか。

 私も幼少時代、ドジっ子魔法少女に夢中になった口なのでぜひ応援したいと思っています。千四百年後のアニメを応援する方法があれば、の話ですが……。


 私が生まれる前、月をモチーフにした戦闘少女系が一大ムーブメントだったと聞きます。月をモチーフにする部分はシンパシーを感じます。月のステックがあれば、エフェクトばりばりの光が求婚者わるものを跡形もなく浄化おしおきしてしまいそうな気がします。

 ですが 、今のボッチの私に仲間の出現は望み薄ですし、助けてくれる紋付袴タキシード仮面に該当者がいません。

 お爺さんは論外。百歩譲って自警団の団長さんだとしてもノリが違うし……。

 サイトウは……いやぁぁぁぁぁ! 脳裏を掠めただけで凄まじい拒否反応です。


 プルプルプル


 えーっと小道具でした。やはり先っぽに星が付いたステッキが定番おやくそくですね。幼女は非力ですので、柄は軽くて丈夫なプラスチック製がベストですが、入手は不可能です。入手可能といえば大幣おおぬさ、つまりお祓い棒という選択肢もなくはありませんが、忌部氏いむべうじである秋田様にスカウトされそう。そのまま祭り上げられても困ります。

 この時代のニーズに合わせるとしたら笏というモノがあります。聖徳太子の絵で手に持っているアレです。

 悪くはありませんね。悪くは無いのですが……

 何故か三匹の小鬼がやって来て、「エンマ様にシャクを返せぇえぇ」と付き纏われる気がするのは何故でしょう?

 日本放送協会えぬえっちけーの番組の見過ぎでしょうか? 控えた方がいいのかしら?

 もう観る方法がありませんけど。そーいえば、私が居なくなった後の現代では、受信料の停止がキチンとされているのかしら?


 『竹取物語』に合わせてものほしざおという選択肢もありますが、絵面的にちょっと……。竹ではなく笹にしたら七夕祭りみたいですし、キラキラ光る笹を振り回す魔法少女・かぐや姫、参上!

 ……って、ないですわね。


 頭をリセットしましょう。姫らしいアイテムといえば

 ……(ポクポクポク)……

 チーン。

 おうぎ

 諸葛孔明の様に常に手にするのもいいかも知れませんね。だけど、嵩張りそうですし、少しキャラが違うような気がします。イメージ的には……扇子が婦人っぽくていい様な気がします。扇子ならば平安時代の貴族にとって定番のアイテムですものね。

 しかし、この時代に扇子があるかどうか分かりません。少なくともこの地方には無いらしく、暑い時はうちわの様な薄い木の板や鳥の羽根を使ったもので扇いでました。

 もし無ければ作りましょう。いえ、作らせましょう。

 幼女には無理です。大人だった現代の私でも多分無理です。

 しかし金(きん)ならあります。


 そして……あれ、なんでしたっけ?

 あ、そうそう! 扇子を使った新しい必殺技を開発しましょう。


 かーぐーやーめーはっ!!


【天の声】手段が目的になっとる……。


 ◇◇◇◇◇


「ちち様、欲しい物ある」


「おぉ、娘よ。欲しい物とはなんじゃ。いつも必要な物しか言わんからもう少し自分のワガママを言ってくれると父は嬉しいぞ」


 うーん、理解がありながら親バカな言葉です。

 でもお爺さんありがとう。遠慮なく言わせて貰うね。


「笏の様な木の板」


「笏? ……笏とな?

 娘は官位が欲しいのか?」


「違う。笏のような物。薄くて、小さくて、たくさん」


「うーむ、面白そうな物を作ろうとしているようじゃな。可愛い我が娘の考える事じゃ。きっと有益な物であろう。全面的に協力しよう。

 木の細工がしたいのじゃな? 伝手を頼ってみよう。」

(意訳:うーむ、何やら奇っ怪な物を欲しているようじゃ。だがワシも学習した。娘は美しいだけではなく卓越した頭脳の持ち主じゃ。その娘が必要とするもの、これはきっと儲けになる!)


「ちち様、寛大。さすが、ちち様。さすちち」

 (訳:えっ、いいのですか?  自分でも曖昧な説明だって思うくらいなのに。

 成金になって気が大きくなってません? それに加えて最近は親バカに拍車が掛かっているような気がします。

 でもありがとう。そんなに信用してくれて。

 勤めていた会社の課長に、お爺さんの爪の垢煎じて飲ませてあげたいくらいです)


【天の声による解説】

 飛鳥時代に扇子どころかシャクすらも無かった。お札の絵で有名な笏を持った聖徳太子像も百年以上後に描かれたモノで、空想画か別人の絵の可能性が高いというのが現在の通説。


◇◇◇◇◇


 ……という事で魔法幼女の小道具アイテム、もとい扇子作りが始まりました。

 まずは扇子の素材。

 帳簿作りの時、お爺さんにお願いして百枚の紙を用意して貰いましたが、すごくお高い買い物だったみたいです。この時代の団扇うちわに紙が使われていない理由も紙が貴重品だからです。

 扇子に紙が使えないとなりますと材質は木か竹になります。地方創生の考え方に基づきますと、讃岐ここは竹の産地でありますので竹ということになります。しかし竹は材質が湾曲しているため、平らにするのが面倒なのです。今回は面倒ごとと地方創生は後回しして木にしました。


 ……という事で、木細工が得意な方に来てもらいました。お屋敷の建築でもお世話になった猪名部いなべさんです。また私に無理難題をふっかけられて何をさせられるのか不安そうな猪名部さんでしたが、私は御得意様ふとっぱらなので文句はありません。現金ゴールドの力ってすごいですね。

 しかしイメージすら沸かないものを教える事がとても大変なのは、屋鋪の内風呂バスルーム台所キッチンを作る時に散々思い知らされました。なので、まずは完成品イメージを伝えることから始めます。

 勿体ないですが、紙を一枚犠牲にして扇子の一枚の形紙を作りました。それを20枚から25枚くらい同じものを作らせて、要の場所に5ミリくらいの穴を開けさせます。一枚一枚をミリ単位で薄くしないと十五枚重ねると幼女の手に余る太さになってしまいます。逆に薄すぎると強度が足りなくて、ぽっきりと折れてしまいます。長さは幼女の手の大きさに合わせて20センチくらいにしました。

 扇子を作るの真の目的は、魔法少女かぐやひめの必殺技を放つときのアイテムにするため。扇ぐためでは無いのです。初心忘れるるべからず、ですわ。


【天の声】初心は必殺技とやらで求婚者を追い返すためじゃ無いのか?


 ……と言うことで、三日後。バラバラの扇子が出来ました。

 要の部分は穴が開いているだけです。この部分にぴったりと嵌るピンを通したいのですが、材質は何にしましょう?

 現代ならプラスチック製のピンが通販で簡単に買えそうですが、ここは飛鳥時代です。鉄製の釘ですら入手するのに一苦労なのです。

 とりあえず猪名部いなべさんは木の細工が得意な職人さんなので、太い爪楊枝みたいな木のピンを作ってもらいました。

 出来たピンを全部の要穴に通して、扇形にしたら猪名部いなべさんに私がどんなものを作ろうとしていたのかが、ようやく製品イメージが伝わったみたいです。


 そして試作第一号の欠点を改良してもらって、本格的な扇子つくりに取り掛かって貰いました。

 きちんと厚さを整える事。そしてササクレが無いようしっかりとバリをとって貰う事。これを徹底してもらいました。

 それと、要の部分のピンは真鍮にしました。将来的にはピンに糸を通す穴をあけて、飾り付けができるようにしたいと思っています。魔法少女かぐやひめのアイテムに相応しい装飾にするつもりですので。


 ◇◇◇◇◇


 更に数日後。大きい扇子が3個、小さい扇子が2個完成しました。大きい扇子はお爺さんとお婆さんに差し上げます。


「ちち様、はは様、これ受け取って」


「おぉ、娘よ。これは前に言っていたものか?」


「そう。広げて扇ぐ。閉じて仕舞う」


 ぱたぱたぱた……


「おぉぉぉぉ、これはなんて涼しげな。しかも優雅じゃ。」

「うーん、なんて素敵なものなのだねぇ。すごく使いやすいよ。かまどで火を仰ぐのにも良さそうだね」


 お爺さんもお婆さんも大喜びです。そしてもう一つ差し出しました。


「これ、秋田様に」


「秋田殿にはいつも世話になっておるが、そのお礼か?」


「そう。でも理由もう一つある」


「それはなんじゃ?」


「秋田様の忌部、竹の細工が得意。同じものを竹で作れば領民の仕事増える」


「おぉ、そなたは自分やワシ等だけじゃなく、領民の事も考えて提案しておったのか?」


「そう」

(訳:いえ、嘘です。魔法少女かぐやひめのアイテムが欲しかっただけです。秋田様は時々真面目な書物と難しい書物の間に楽しい薄い書物を差し入れてくれるので、そのお礼を兼ねての事でもあります)


「それでは早速秋田殿にお渡しして同じものをじゃんじゃん作るとしよう」


「ちち様、それダメ」


「ん、なぜじゃ?」


「これは試作品。次は装飾した高級品作る。高級品、利益高い」


「娘よ。秋田殿はその様なことも教えておったのか?」


「考えれば解る事」

(訳:いえ、嘘です。ビジネス誌に書いてあった事の受け売りです)


「娘の慧眼は止まる事を知らぬようじゃな。娘の言うとおりにしよう」


「ちち様も聡明」

(訳:人の話を聞入れるだけでも凄い事なんです。現代の課長にお爺さんの爪の垢を……以下省略)


「娘にその様な事を言われるのは何とも光栄なことじゃ。思い付いた事があれば何でも言うが良い。娘のためならどんな苦労も厭わぬぞ。わーはっはっはっは」

 (訳:娘は賢いだけでなく、物の道理も分かっておる。娘の言うことならば失敗はすまい。いよいよワシにも運が向いてきたぞい。この好機チャンスを逃してなるものか。わーはっはっはっは。笑いが止まらぬわ)


【天の声】……


【追伸】

 魔法少女のアイテムとして扇子を作りましょう……と元々は考えていたのですが、扇子と光の玉をどうやって組み合わせましょうか?

 扇子を武器にするなら鉄扇という武器があるらしいですけど、非力な幼女にはムリです。

「この田舎侍め!」と松の廊下で求婚者を扇子でペシペシしたら、四十七士に囲まれそう。

 扇子に羽根をつけてお立ち台で踊ったら……千四百年後の未来なのに懐古的レトロに思えるはなぜ?


 うーん、ピッカリの光の玉で攻撃する時に扇子で顔を隠せば誰がやったかバレないかな?

 そのためには扇子を広げても向こうが見える様に装飾彫りをしてもらいましょう。長い飾り紐つけてみるのも良いかも知れません。


 当面は魔法のステッキ代わりにブンブンと振り回しましょう♪


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