非人道的必殺技!
調査は無事(?)終わりました。
次は帳簿作りです。
この時代の人には”
この時代の紙はコピー用紙と違ってかなり分厚いので両面を墨で書き込めます。全頁の両面に表の罫線を引いて、家長の名前、年齢、所有する田畑の広さ、家族構成、税負担額、をそれぞれのページの頭に書いていきます。
そして表の最初に年号を書きます。西暦はもちろん、昭和、平成、令和といった年号もまだありません。日本で一番最初の年号が西暦645年の大化元年ですが、大宝律令が制定された西暦701年まで定着しませんでした。つまり八世紀になるまで年号が使われていなかったのです。
それ以前の年号の数え方は
ちなみに六十干支は六十年で一巡するのでこれを還暦と呼びます。千四百年経った現代でも使われている言葉ですね。
表の一番上に昨年の納税状況を書き入れます。百三十件を手書き入力です。
……あれ? 記録が百二十五件しかありません。
税金未納の家があるのか記載漏れなのか分かりませんね。後でチェックしましょう。この分だと一昨年、その前の年の分も調査しなければなりませんし、場合によっては追徴課税です。
マルサさん出番です!
♪ たーらら らーらららーらっ ♪
地税の納税額の計算は合っている方が少数派で、土地の広さとの整合性が全然取れていませんでした。これはこちらのミスの可能性があるので、不足分を出せとは言えません。払い過ぎの人は二十五年間ずっと多く払ってきた可能性があります。逆に払い戻ししなければなりませんね。
人頭税は成人の人数×布2反ですが、前回調査の二十五年前とではだいぶ様変わりしておりました。これも修正の必要がありそうです。
労役について記録がありません。労役に従事した日数についてもキチンと記載する必要がありそうです。今年は屋敷を建てたりしたから、相当に負担になっていたはずです。既定の労役を超えた分についてはお米か何かで払い戻すようにしましょう。
ふー疲れました。
現代でこんなに仕事に対して充足感を感じた事はありませんでした。やはりやらされる仕事と自ら進んで行う仕事とでは全然違うものなんですね。現代に戻ったらぜひこの体験を活かしたいものです。
戻れれば……ですけど。
◇◇◇◇◇
「ちち様、調査終わった。これ帳簿。確認して」
「おぉ、娘よ。どれどれ、見せてごらん」
糸で閉じた帳簿をパラパラと捲り、全部見終わった後で……
「娘よ。なんじゃこりゃー! すっごく分かり易いぞ!
一目で全部わかる。今までの
「違う。自分でやった。税率ははは様に教わった」
「うーむ、これならば取りっぱぐれも無くキッチリ納税させることも可能じゃ。
ウハウハじゃのう。わーはっはっはっ」
「ちち様、それ違う。ちち様の取り分二割。八割は領民のため」
「は、八割とな? 何に使うんじゃ?そんなに」
「むしろ足りない。治水、開墾、治安、道路、中央への貢物、不作への備え、教育福祉、医療、老後の備え、やる事いっぱい」
どうやらお爺さん、領地経営のビジョンというものを持っていないみたいです。
例えば介護保険制度を導入したとしても、要介護認定を受けられる老人は数人しかおりません。現地調査でお年寄りが驚くほど少なかった事が思い出されます。
しかし必要なものもたくさんあります。治水はシミュレーションゲームでも定番です。歴史的にみましても治水に大変な苦労をしてきたと、
医療は私が
そして学校では私が教育ママならぬ教育幼女となって領民の子供たちをビシバシ鍛えて、言う事聞かない子には光の玉をぶつけてハゲ散らかしてしまいましょう。
あぁ、何だかゾクゾクしてきました。これでは姫様ではなく女王様になってしまいそう。
オーホッホッホ。
いけない、いけない。空想も程々にしておきましょう。
「教育大事。国造のお仕事、人材中央に送り出すこと」
「うーむ、娘には驚かされる事ばかりじゃ。じゃが申しておることは正孔を射ておる。ワシも考えを改めねばならぬな」
「さすが、ちち様。さすちち」
「わーはっはっはっは。娘の仕事ぶりは中央の官吏にも引けを取らぬ手際の良さじゃな。いずれは官仕えとして帝の宮へ行くかの?」
……あ。すっかり忘れてました。竹取物語にはラスボスがいたのです。
それは帝。
帝のアタックは5人の求婚者とは比べ物にならない程強力なものです。何せ国で一番偉い人ですから。
だけど今の私はどう見たって伝説の美女には程遠い地味顔です。帝どころか求婚者にも振り向いてもらえない可能性が大です。今はただ単に地元のお姫様で幼女だからチヤホヤされているに過ぎません。自分の実力を見誤ると痛いしっぺ返しを受けるのは昔話の常ですからね。
しかし宮仕えには興味があります。片田舎に居るよりもたくさんの書物に触れる機会がありそうです。喪女生活を満喫するなら官吏を目指すのもありかも知れません。何よりも国造の役目の一つが子弟を中央へ送り出すことなのです。人質的な意味もありますが、現実的な目標と試してみたくなりました。
「うん。宮仕えする」
「おぉぉ、娘よ。そなたならば引く手も数多であろう。娘の仕事ぶりは見事じゃった。きっと優秀な女官となるであろう。
父も楽しみじゃわい。わーはっはっは。」
【天の声】
……という爺さんの本音はこうだった。
『美しい我が娘ならば貴公子共が放っておくまい。しかも賢さは予想以上じゃ。高位の貴族に仕えても恥ずかしくない。その上、帝ですら欲しがる能力を秘めておる。わしは帝の義理の父の座を射止めるやもしれぬ。末が楽しみじゃわい。わーはっはっはっはっはっは。笑いが止まらぬわ』
「ちち、ウザイ」と言われる日もそう遠くなさそうな
◇◇◇◇◇
ついにやって来ました。年貢の納め時……でなくて納税の日。
予め納税額の通達をしておけば混乱は少ないのですが、日にちも少なくアバウトな納税なので、納税後修正勧告する方法が取られました。元・事務職としては推奨出来ませんが、幼女が出しゃばるのも考えものなので大人しく従う事にしました。
ちなみに本日の私は記帳係です。傘持ちのお姉さんもセットです。お姉さんに大変じゃないかと聞いたら、傘を持つだけなのですごく楽です、と感謝されてしまいました。屋敷で働くよりも傘の方が軽いって事なのね。
でもね、フラグって言葉を知ってる?
そして納税。
フラグなんて何吹く風。滞りなく進んでいきました。
普通は「足りないぞ! もっと納めろ!」となる筈なのに、領民の皆さんはこぞって多めに納めようとするのです。どうやら私が天女だと言う風評が消えていなかったみたいで、私にお供え物をしようとするのです。ちょっと光の玉を出して病気のお爺さんを回復させただけで天女様扱いは大袈裟だと思います。
ちゃんと否定したのに……
あっ、
こうして滞りなく納税が終わったかと思ったのですが、5件の未納者がいました。昨年納税しなかった人達です。帳簿を見て気になったのは、この5件には共通点がある事です。それは家族以外の同居人がいた事。
奴隷に農作業や家事全般を押し付けて、自分達は税金も払わずにのうのうと暮らしているのだとしたら、許せません。私は
◇◇◇◇◇
翌日、未納者の家へと向かいました。お爺さんは私が付いてくる事を嫌がりましたが、いつもの様に目をURUURUさせて、「斬り合いになったら、ちち様に光の玉飛ばす」と言ったら、許可してくれました。
今回は自警団の人達に加えて、普段は屋敷の番をしている警備兵を増員して総勢七人、クロサワ映画みたいです。
荒事になる事を想定して、武器も万全です。私の横には丸腰の家人のオジサンと傘を持ったお姉さん、プラス自警団の団長さん。こちらも万全です。
領民の人達とはほぼ全員会っているので、慣れたモノ……と言いたいのですが、土下座こそしていないものの大名様が通る時みたいな物々しい感じです。
そのうち「したぁ~にぃ~ したに」と掛け声が掛かりそうでコワイです。
まず1件目。
やはり心に疚しい気持ちを持つ人というのは自分の罪を認めたがらないものです。警備兵の隊長さんが恫喝しても、言い訳ばかりして、逆ギレして、まただんだんときな臭くなってきました。
前回の反省を生かして先手必勝です。
何それ、美味しいの?
斬り合いになる前に頭ピッカリになる光の玉の玉を二十メートル離れた場所から狙い打ちました。
チューン!
見事命中。みるみるうちに髪の毛も、戦意も抜け落ちていきました。
男は縄でぐるぐる巻きにされて連れて行かれました。多分納税分の蓄えは無さそうなので、脱税の罪で奴婢に落ちるだろうとの事です。
一方、こき使われていた奴婢の人達には、新たに田畑を与えて正口として、帳簿に載せる事になりました。聞けば親の代が三男だったと言うだけで、奴婢としてこき使われていたそうです。
2軒目。
チューン!
見事命中。戦意喪失しました。
3件目と4件目は私達の様子を見ていたらしく、戦わずに降伏しました。
……チェッ!
最後の5件目。
ここは強敵です。まだ二十代なのに既にピッカリさんなのです。
調査の時、「オレに名前なんてねぇよ」って言ったので帳簿には『サイトウ』と書いておきました。
「オラァ! 税だかなんだか知らねぇが、テメェの稼ぎを何で持ってかれなきゃならねぇんだよ! オレにはもう失うものがねえ。何も怖ぇものなんてねぇんだ。すっこんでろっ!」
青銅で出来た武器をブンブン振り回します。銅鉾ってものでしょうか?
この時代にそぐわないものです。鹵獲したら後で調べてみましょう。
ではいきます!
チューン!
見事命中。
周りの手が止まりました。
「へんっ! オレにはもう抜こうにも抜けるものがねえんだ。ムダムダムダムダムダムダァー」
「頭触って」
「姫さんよぉ。オレにはもう抜けるモンがねえって言ってんだろ!」
「頭触って」
「? 何言って……なんじゃこりゃー!!」
驚いたサイトウは銅鉾に写った自分を覗き見ます。そこには年相応に髪の毛が生えたサイトウの顔が写っています。ちょっとだけイケメン風です。
「あんた、噂とおり天女だったのか? すげぇ、十年ぶりの感触だぁ」
サイトウさんは鉾を放り投げて喜びのダンスを踊ってます。
そこへ「天女、違う!」
チューン!
再び命中。生え揃った髪がはらりはらりと禿げちらかっていきます。
上げてから落とす。これぞ落差2倍、効果10倍の
名付けて、『諦めていたアナタに朗報!お試し期間につき無料で増毛!長年忘れかけていたあの感触を今一度アナタに。からのピッカリ光線〜!』
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ! せっかく生えた髪の毛がぁぁぁ!
あんたは鬼か!?畜生か!?」
サイトウさんの魂の叫びが響き渡ります。
「悪いのはサイトウ。容赦しない」
武器を手放し、戦意を手放し、生きる気力すらも手放したかのようなサイトウは、警備兵さん達に引き攣られていきました。
めでたしめでたし。
【天の声】めでたい……のか?
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