飛鳥時代のマイホーム新築
ここはやはりアレですね。お爺さんに新しいお屋敷をお
まさか自分が「パパぁー マンション買ってぇ~」を地でやる日が来ようとは、人生分からないものですね。もっとも
◇◇◇◇◇
「ちち様、この家危ない。危険」
「娘よ、この家は50年もの間、嵐にも地震にも耐えた家じゃぞ。安心するがええ」
「ちち様、違う。危ないのは人。
ちち様、成金。成金、狙われる」
「ふむ……。
ワシは兎も角、娘に何かあったらワシは耐えられぬ。この家は貧しき時を過ごした思い出深き家なれど、娘を護る砦としては確かに心許ないな。
中央では大きな戦乱があったばかりじゃ。中央が荒れる時は国も荒れる。国が荒れる時は人も荒れる。 この地も安全とは言い難い。
ここは一つ、娘の忠告に従い我ら三人が心安らかに過ごせる屋敷を建てるとしよう。心の安寧となる造りをな」
(意訳:ふむ……。
ワシが狙われるのは兎も角、娘はまさに金の卵を産む鶏。国造(くにのみやっこ)とは名ばかりで、ろくに家人も雇えぬ中流階級。竹を取って婆さんと二人、慎ましく暮らす家ならば不足は無いが、金の卵を産む鶏を護る砦としては、確かに心許ない。
中央では相も変わらず争いごとが耐えん。おかげで国も荒れるわ、田畑は荒れるわ、人も荒れるわで大変じゃ。この地にも賊が出没したって聞き及んでおる。
ここは一つ、娘と財産を護るためにもドーンと城を造るつもりで万全の備えを実現しようじゃないか! 特に倉を丈夫にな。)
「ちち様、賢明」
(意訳:お爺さん、意外!)
「わーはっはっはっは、娘のためならば何を惜しむものか。
何なりとこの父に頼むが良い」
【天の声】
尊厳を得るにしては、
ちなみに『成金』とは将棋で歩が相手陣地で進むと『と金』になり金将の駒と同じ動きが出来る様になる事から転じて、「歩が成って金」、「成金」と言われるようになった。つまり将棋が普及していなかったこの時代には「成金」という言葉に馴染みは無く、爺さんはかぐや(仮)になんて言われているのか、どう思われているか、全然分かっていなかった。
◇◇◇◇◇
……という訳で出来ました。マイスィートホーム。(早っ!)
本格的な冬の到来に間に合いました。建築前、「何なりとこの父に頼むが良い」というお爺さんの言葉に甘えて、たくさんリクエストしました。
一番のおねだりポイントは内風呂です。この時代でも女性の長い髪は必須アイテムです。後世の人もショートヘアのかぐや姫を想像する人はいないはず。もしいたら、学校を出直すか、病院へ行くか、小説投稿サイトに思いの丈を書いた方が宜しいでしょう。そしてその長い髪を川でジャブジャブと洗うのです。夏場は気持ちが宜しいですが、冬場にその様な修行僧みたいな事をしたくはありません。
……修行僧に髪があるかないかは別にして。
とはいえ、冬の間、髪の毛と頭皮を洗わない生活は考えたくありません。それくらいなら髪の毛を切ります。……と聞いたお爺さんが全面協力してくれた訳です。
しかしながら、内風呂が何たるかを知らない人ばかりですので、当然快適なお風呂というモノを存じ上げません。一つ一つ丁寧に絵をそえて説明しました。
ゆったりと身体を伸ばしてお湯に浸かれる湯船。
水はけの良い広々とした洗い場。
長い髪の毛を濯ぐための専用の桶。
これら全てが総檜造りで、良い香りがします。
すぐ近くに井戸を掘り、お湯を沸かす大鍋は浴槽のすぐ隣です。
窓を開ければ風通しが良く、窓を閉めれば気密が保たれ、湯気の温かさが逃げない快適なお風呂空間。
現代での私は一日何回もシャワーを浴びるアニメキャラの様な風呂好きではありませんでしたし、温泉マニアという程、硫黄と癒しに飢えてはおりませんでした。しかし、毛じらみ、南京虫などの不快害虫がウヨウヨしていて、皮膚病が蔓延しているこの世界で清潔を保つことはQOL(quality of life)の上でとても重要な事なのです。神の湯を経営するお婆さんになった気分で、お風呂造りを指揮しました。
お爺さんはボイラー室をお願いします。
内風呂だけではありません。新しい屋敷のこだわりポイントはまだまだあります。
それは屋根。
これまでのお家は茅葺き屋根でしたが、瓦屋根にしました。飛鳥時代の代表的な建築物である法隆寺を見ても分かりますように、この時代でも瓦は入手可能です。
私は重い瓦の上に人を乗せてもビクともしない丈夫な屋根をお爺さんに
何故かと言いますと、『
『かぐや姫が月の都に帰るのを阻止しようと二千人の兵士が待ち構えて、そのうちの千人が屋根に登った』と。
待ち伏せが成功するか失敗するかは私としましては大した問題ではありませんが、屋根が抜け落ちてしまっては大変です。なんてったって千人です。現代の技術の粋を集めた物置が十台も必要です。
「やっぱりイ○バ、百人乗っても大丈~夫」×10
それに負けない屋根を実現しようと
ホントに御免なさい。おかげで砦のような屋敷が出来たのでは無いかと思います。
本当は待ち伏せなどせず、月の使者さんがいらっしゃったら気分良く歓待したいですが、『竹取物語』の原作通りだとしたら、使者さんの性格は
……はぁ。
◇◇◇◇◇
新築のお屋敷が住みやすくなったのは勿論ですが、屋敷の場所も変えました。これはお爺さんの
私に負担にならない様にとお爺さんが配慮して頂けた感が満載です。お休みの配慮は1日も貰っていませんが……。
ちなみに新しいお屋敷が完成した今でも以前の屋敷は残っています。
この時代に賃貸契約の概念ってあるのかしら?
セキュリティ一もこの時代には不釣り合いなほど堅牢にできております。この家は外から覗くことが出来ない造りになっていて、全ての戸を閉め切ると昼でも中は真っ暗です。つまり夜中、屋敷で光の玉を放っても外からは全く見えないと言うことでもあります。この時代、夜這いは
ちなみに秋田様は時々真面目な本と難しい本の間に薄い本を差し入れてくれます。この時代の民俗学を知りたい私のために色々と骨を折って下さる秋田様は本当に良い方です。
【天の声】『違う!』
言うまでもなく、たくさんの部屋があります。
有難い事に私専用のお部屋も用意してくれました。私は地方の行政を預かる豪族の一人娘、言わばお姫様の
お爺さんありがとう♪
後々のことを考えて、私のお部屋にはいくつかのギミックを
お爺さんの拘りポイントは
お爺さんが言うには、『賊の襲撃から私達を護るためには倉が最適じゃ』との事です。
私の薄らぼんやりした記憶によりますと、使者が来た時にお爺さんとお婆さんと私は蔵の中に隠れたと『
お婆さんの拘りポイントは台所、同じ女性として共感します。
しかしながらお婆さんの持つ台所のイメージが従来のイメージから脱しきれないので、私がお手伝いしました。釜戸は4基、炭火焼用も完備、シンクは特大サイズ、キッチンの広さは二十四畳ほどで、中央に大きな作業台を添えてアイランドキッチン風にしました。
食品の貯蔵庫も同じくらいの広さ確保しました。漬け物をするのでどうしても手狭になってしまうからです。食器棚は壁一面に備え、普段は扉で隠して生活感が出ないよう配慮しました。炭火を使うので換気もバッチリ。排煙設備も抜かりはございません。
台所は危険な場所でもありますので採光にも気を使い、夜でも明かりが取れる様にしました。一般的な台所というのは屋敷の北側に面した暗い場所を宛てがわられますが、新しい屋敷ではお料理のために別棟を建てました。
倉を十棟建てるのに比べれば可愛いものです。
これだけの設備を切り盛りするため、『家人』と呼ばれる住み込みの使用人も増やしました。現代の感覚で住み込みの使用人というと、ミニスカのメイド服を着たメイドさんとか、スラリとしたダンデーな執事さんといった“とあるカフェ”に居そうな職種を思い浮かべるかもしれませんが、違います。
どちらかと言えば国の施政の外にある人、奴婢ではありませんが貧しい家の方です。この時代の感覚からしますと、
「穢らわしい賤民どもが私の視界に入る事は許し難き事ですのよ! (ビシバシッ)」
と悪役令嬢らしい非道い台詞を言い放っても許されてしまう程、虐げられている人達です。
しかし私は時代に逆らい、家人さん達への給与と雇用形態に配慮して頂ける様お爺さんにお願いをしました。固定給米一俵+反物3巻、月4日のお休み、有給休暇年5日、定期昇給有り、制服支給、社員寮整備といった現代では当たり前で、この時代には不相応な雇用契約です。その上で守秘義務の徹底と、不正が発覚した時の罰則を厳しくしました。やはりこの家には秘すべき部分が多く、突如成金になった理由も極秘事項です。
内通者や裏切り者を出さないためにも、甘い飴とお姫様のムチは必要ですわ。
ビシバシッ!
ただ一つ、予想外の事がありました。
……いえ、敢えて考えたくなかった事実に気付いてしまったのです。
新築のお祝いとしてたくさんの品物が贈られてきましたが、その中に鏡がありました。この時代の鏡はガラスではなく、金属をツルピカに磨いたモノで「銅鏡」と言われるものす。その銅鏡の一つが私のお部屋に
無論、薄々は気付いていました。水辺に写る自分の姿に見覚えがある気がしてましたから。
でも、それは有り得ないとも思っていたのです。かぐや姫といえば、千四百年後の現代でも語り継がれる美人の代名詞、伝説のモテ女子です。現代の平凡なOLだった私がかぐや姫に成り代わるというのはどう考えても無理があると思っていたのです。
しかし、鏡の中の自分を見て、これでかぐや姫としての重荷から開放されると思うとホッとする気持ちがあったのも事実です。月詠様(仮)にとっても盛り上がりに欠けるでしょうけど、
あ、でも、
なむなむなむなむ……
いつしか私はこれで心置きなく飛鳥時代で喪女ライフを満喫できるのだと、心秘かに胸踊らせているのでした。
【天の声】『そんなに甘くないぞ!』
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