第6話 これだけは

「顔をあげてください」



なるべく笑顔で話し掛ける。



「困ってる人が居たら助ける。これが柏木一家の掟ですから。」



そう言って王と王妃に手を差し伸べる。




「おぉ…おぉ…有難う御座います。有難う御座います。」



王と王妃は嗚咽を漏らし、涙を流しながら感謝の言葉を述べる。



「ただし幾つかお願い事もあります。

席にもう一度着いて、改めてお話致しましょう。」




席に着いて気持ちを落ち着かせたのであろう両名を見て、ゆっくりと口を開く。




「まずは改めまして。私達の自己紹介を。

私は柏木大樹と申します。地球という惑星ほしの日本という所に住んでいました。

そして…こちらが私の家族になります。

まずは妻の桜です。」



「王様、王妃様、宜しくお願い致します。」



さっきまでの奔放ぶりはどこへ行ったのか…お淑やかに一礼する妻。

やる時はちゃんとやる…そんな所も大好きっ!



「次に長女の椿です。」



「どうも。」



クールにペコリとお辞儀する椿ちゃん。

うん。ウチのコ可愛い!



「そして長男の蓮です。」



「フッ…我が姿が在りし限り、汝らは安寧を得よ。(訳:僕が居るから安心してくださいね)」




おいおい…王様と王妃様にもその口調なの?

自分を貫き通す所…凄くいいと思うよ!流石我が息子!

君は父より大物になる予感しかしないよ!



「え〜…最後に双子の兄妹、陽と杏になります。」



「「よろしくおねがいします!おーさま!おーひさま!」」



あらまぁ。2人でハモっちゃって…え?天使なの?やっぱり君達天使だよね???

可愛い過ぎるでしょ!?




「とまぁ、こんな感じで幸か不幸か家族全員で異世界転移という訳ですね。」




はははと笑いながらの自己紹介を終える。

どうだ!自慢の最愛の家族だぞ!




「改めてまして柏木一家、大樹様、桜様、椿様、蓮様、陽様、杏様。我々の都合に巻き込んだ事を深くお詫びすると共に、我々に助力頂けると言う事で全国民を代表して感謝の言葉を。

有難う御座います。

貴方様方の安全、安寧の為に私達が責任を持って全力で出来る限りの事をさせて頂きます事をお約束致します。

マルルクリア。此方に誓約の魔術紙を。」




「はっ!ただいま。」



マルルクリアと呼ばれたローブを被ったマダムと呼ぶに相応しい恰幅良い女性が1枚の紙を広げ、此方に見せる。




「お初にお目に掛かりますわ勇者様方。

私はこの国アバンダイドで魔術師団長を務めさせて頂いております。

『マルルクリア・バーリング』と申します。

この国の魔術の発展の為に日々魔術の研究、開発等をしていますの。


此方の紙は我が国に置ける誓約の魔術の紙になります。

此方に書かれている誓約を破る事は死より重い意味を持ちます。

王と王妃様が貴方様方勇者様のこの国に置ける待遇等を示して御座います。

言語が通じてる所を見ますと、『祝福』で言語自動変換が行われている様に思いますわ。

ですから此方の文字も読めると思うのですが…ご確認お願い致します。」




差し出された紙を見る。

…どれどれ…うん。ちゃんと読める。


確かに驚き過ぎて忘れて居たし、自分としては当たり前に思っていたが、最初から言葉が通じたのはとても幸運な事だ。

よくある異世界転移や転生ものでは言語が通じないなんてザラにある事だ。

本当…言語チートが無い主人公達は凄いよ…立派だよ…尊敬だよ。

だって考えてみてよ?異国の地にいきなり行くのも自分は無理!コトバツウジナイコワイ…。

なのに彼らもしくは彼女らは異界の地に身一つで投げ出されるんだ…考えただけでも恐ろしい…。

異界の地で現地の人と意思疎通が出来るのは本当有難い。


おっと、思考が逸れてしまったが、誓約書の内容を確認して行く。



勇者として召喚された者達のこの国での身分の保証、生活の保証。



魔王領に趣く際の道中の安全を国が総力を上げて出来る限りをする事。



魔王領への訪問が終了した後の報酬、生活の保証に関する事


望むなら地位も名誉も望むままに与える事。



元の世界への帰還方法を国をあげて見つかるまで全力で模索する事。




ふむふむ…やはりか…。元の世界への帰還方法は無いのか…。

王道来たな!?



自分はもうおっさんだから良いけど…。


けど…やはり子供達だけでも…とモヤモヤ考えていると



「あなた。」



桜さんがにっこりと微笑む。



「…本当…家族全員一緒で良かったね!」




…その笑顔を見て、あぁ。本当にそうだなって素直に思えた。


あぁ…妻が愛おしい。

家族が…愛おしい。


この掛け替えの無い最愛の人達を…何が何でも守ってみせる。




「誓約確認致しました。王様、王妃様のお心遣いが伝わって来ます。寛大な待遇有難う御座います。」



王様は頭を振る。




「礼を言われる立場では御座いません。我々は自分達の問題を自分達では解決出来ずに…自分達の都合で貴方様方達の人生を目茶苦茶にしてしまったのです。

これでも償いたりないくらいです。」



「いえいえ。我々の国ではこういう事態は物語ファンタジーとして良く書かれている事柄なのです。勿論空想の物語としてなので、こうして実際に体験しているのはとても不思議な事ですけど。

その物語の異世界の王様達は横暴な事が多いのです!なのでこうやってお心を砕いて誠心誠意我々に向き合おうとしてくださっているハルバート王とエリアス王妃様のお気持ち…感謝の念しかありません。」




蓮くん…めっちゃ頷いてるなぁ。

だよね!?だよね!?分かりみが深いよね!?君なら分かってくれると思ってたよぉ!



「しかしながら先程も述べた様にいくつかお願いが御座います。」



「それは勿論です。何なりと申されてください。」




愛する妻、子供達よ…すまない!がこれは譲りたくない!




「魔王領に出向くのは私一人だけでお願いしたいのです。」



俺はハッキリとそう告げた。

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