第5話 呼ばれた意味
「…〜っ!?………何と!何と美味な食べ物なのかしら!?こんな味初めてですわっ!」
頬を紅潮させ、うっとりとした顔ですき焼きを上品に頬張る王妃様。
「うむ。何とも味わい深い…この茶色の汁の甘く、それでいて癖になる味わい。この世界には無い味だが大変美味だ。この『ぎゅうにく』?とやらも柔らかく旨味が凄いな…それにこの『なまたまご』?と絡めると何とも言えぬ極上の味わいになる。」
王様も奇麗にカトラリーを扱いながら次々にお肉を口に放り込んでいく。
お二人にお気に召して頂けたみたいで何よりです…打ち首は回避かな…?
それにしても毒見も無く異界の食べ物を口にするとは…中々のチャレンジ精神だし…この人達大丈夫なのかな?とちょっと思ってしまった。
気を効かせた側近達が必要最低限の人達だけを残して他は下がらせたので、幾分無礼講なのかもしれない。
我が子達もお腹を満たして満足そうだ。良かった良かった。
「ふぅ…真に美味で御座いました。我々にもご賞味させて頂き感謝致します。」
上品に口を拭いながら王と王妃は一息つく。
「さて…食後すぐで申し訳ありませんが、そろそろ本題に入らせて頂きたく存じます。」
そう言って王が手を挙げると、素早く側近達がテーブルの上を片付け、あっという間にテーブルには高級そうな茶器と色とりどりのこれまた高級そうなお菓子を並べ出した。
「わぁ〜!きらきら!かわいい!すごぉい!」
杏がはしゃいだ声を出す。
「ふふ。『すきやき』のお礼ですわ。我が国自慢のお茶と菓子類をご用意させて頂きましたの。お口に合うと宜しいのですが…どうぞ遠慮なく召し上がってくださいね?お代わりもありますから。」
「ほんとにっ!?やったぁ!」
杏と一緒にはしゃぐ陽。
二人を見ながら王妃はとても優しい笑顔を浮かべている。子供が嫌いじゃなさそうで良かった。
「むぅ…食後のデザート…太るけどこれは食べとかねば…」
「大丈夫よ!椿ちゃん!私達の消化機能を信じましょ!これは食べないと逆に後悔するわ…!」
お年頃(?)女子達は体型を気にしつつも奇麗なお菓子を前にテンション爆上がりのご様子。
「ふっ…此れこそが我が魂の餌食。彼のものに酔いしれ、甘美なる楽園へ誘われる。この味わいに溺れ、永遠の幻想に身を委ねよう。(訳:甘いもの大好き!ありがとうございます)」
隠れスイーツ男子蓮くんも大層喜んでおられるみたいだ。
「騒がしくて申し訳ありません。」
「何、構いませぬ。子供とはこうで無くては。」
王が朗らかに笑う。うん、やっぱり良い王様なんだろうなぁ。
「さて、改めて異界より参られし勇者様方。先にも申し上げましたが我々の勝手でこの様な状況になってしまった事を改めてお詫び申し上げます。
藁にも縋る思いでした事とはいえ、貴方様方の人生を目茶苦茶にしてしまいました。此方で出来る限りの対応はさせて頂く事をお約束致します。
そしてまずは何故我々が『勇者召喚の儀』をするまでに至ったかをお聞き頂ければ幸いです。」
「まずは改めて自己紹介を。
我はこの人間の国『アバンダイド』を治める王。ハルバート・グリニュクス・アバンダイドと申します。」
「
「我々が住まうこの世界は我々人間が住む『人間領』すなわち我が治めるこの国と、遙か遠くの地にある魔族と呼ばれる者達が住まう『魔族領』と呼ばれる場所に分けられております。」
「魔族…」
思わずその単語を呟いてしまう。
本当に此処は異世界なのだと実感してしまった。
「魔族…我の邪眼と邪手が疼くな…(訳:魔族居るの!?マジ異世界じゃん!俺のチート来ちゃうっ!?)」
こら!蓮くん!ちょっとわくわくしないの!
ファンタジーじゃなくてリアルな世界なんだからね!?
「伝承の話ではこの世界を神が創られた時から人族と魔族は存在していたらしいのです。遥か昔、魔族と人族は争っており、それを見兼ねた神が異界から勇者を召喚したと…。
勇者は争いを見事に治め、今の魔族領と人間領の境目に強大な結界を張りました。
それは今も存在しつづけ、長い年月が過ぎ、それぞれが独自に種族を発展させていったと言われております。
我々が国を造った様に、魔族も国を造り其処を我々人族は『魔族領』と呼んで居ました。
『魔族領』は『魔王』と呼ばれる王が統治しており、我々人族とは別段交流せずともそれぞれが干渉する事無く争いを治めた日から
王は深く溜息を吐き、続きを話始めた。
「その均衡が崩れ始めたのは…今から約1年前くらいになりますか…。
魔界領と一番近い辺境領に魔族が現れ始めたのです。
こんな事は今まであり得なかった事態で我々も困惑しております。
何故ならずっと結界があり、魔族が
辺境領の作物や物資に影響が出始め、今の所兵士や国民本人達には一切実害が無いのが救いです…。」
ここで苦虫を噛んだ様に顔をしかめる。
「お恥ずかしながら我々も何度も結界の突破もとい魔族領に行ける方法を模索する為に騎士団、魔術師団共に派遣しているのですが…我々の力ではどうしても通り抜ける方法すら分からず仕舞いで…。
そこで我々が『勇者召喚の儀』をとある文献で見つけたのは運命かもしれません。
『異界から召喚されし勇者一行はその強大な力を持ってこの世界の安寧を保つ存在なり。』こう記してありました。
更に『勇者なる者は結界を通る事が可能である』とも…。」
「正直この1年試行錯誤を繰り返して来ましたが…
何故魔族だけが
今はまだ人的被害はありませんが…いつ…もしかしたら明日かもしれない…。
尊い我が国民から死者が出る前にこの事態を何とかせねばならぬのが我々の使命!
そこで藁にも縋る思いで行った儀式で勇者様方一行が我らの召喚に応じてくれた次第であります。」
…何ともまぁ平和な世界に召喚されたものだ。
種族の違う者達が同じ地でそれぞれに干渉無く今まで過ごして来たとは。
地球でも戦争紛争等は未だに行われているというのに。
けれどそれは人間同士の争い。種族が違えば見た目から力だって能力だって違うだろう。
そんな者達とずっと何も無く共存関係だったのはある意味奇跡的な事だろう。
「此方の勝手なのは重々承知です。ですがっ!どうか…どうか…勇者様方のお力を我々に貸してはくださいませんか?
どうか…どうか…」
そう言って椅子から立ち上がり、またしても地に膝を付き頭を深々と下げる王様と王妃様。
やれ、どうしたものかと思っていると…裾クイされた。
そちらを見やると杏がにっこり笑った。
「ぱぱ!こまってるひとがいたらたすけてあげなきゃだよね?いつもいってるでしょ?」
…はい、確かにみんなにいつもそう言ってますね…。
仕方ないよね。
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