第4話 一緒にどうですか?
「お話を聞かせて貰えませんか?」
自分の一言で王と王妃がゆっくりと頭を上げる。
「有難う御座います。突然っ…こんなことになったにも関わらず…我々の話を聞いてくださるとは…何と慈悲深いお方達でしょう…。」
王妃が涙ぐみながら言葉を紡ぐ。
王の顔にも幾分か緊張と不安が解けた様な気がした。
こんなに誠意ある人達が異界から人を召喚するのだから、よほどの国の一大事であったのだろう。
とにかくまだ出会って数十分と経ってないけれど、この国のトップか第一印象は良い人そうで少し安心した。
群衆も多分国の重鎮や貴族だろうが、誰一人王や王妃の行動に驚きつつも批判を口にした者は居なかった。
大体こういう異世界転移モノは王や重鎮貴族が最初から横暴な態度を取るのがテンプレ化しつつあるが(自称にわかオタク調べ)
まだ油断は出来ないし、何があるかは分からないが、何より家族!強いては子供達の安全を最優先で行動をしなければならない。
子供達を危険な目には絶対合わせたくは無い。それだけは断固拒否!
よく「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす」とか「可愛い子には旅させろ」とか言うけれど、そんな事させないよ!?
色々な体験や経験をするのはとても良いことだとは思うけど、そこに危険が付き纏うのであれば少しでも排除したいのが親心じゃないのかな?過保護過ぎかな?
まして此処は異世界だ。
気を引き締めて自分達一家がこれからどうなるのか…どういう選択が出来るのかを慎重に見極め無いといけない。
気を引き締めていかねば!…家族を守れるのは俺だけなのだ!
身体に一気に緊張が走る。
今までは何処か現実味の無い他人事の様に思っていたが、今自分達はこの場に居る。この何も知らない、今まで築き上げてきたモノが何も無くなった世界で。
…自分は本当に家族を守りきれるのだろうか…。
俯き考えていたが、急に押し寄せてきた不安で手が震えだす。
クソっ!…治まれ…治まれ…家族皆が不安がってしまう。
そう思う度に強くなる震える手をふと、温かくて柔らかい手で包み込まれた。
嗅ぎ慣れた柔らかい甘い香りに顔を上げると、優しい笑顔を浮かべた愛する妻が手を握りそっと寄り添ってくれて居た。
「大丈夫…大丈夫だから…ね?家族皆でいれば…どんな事でも乗り越えられるから…一人で抱え込むのはメっ!ですよ?」
…大変だ…誰かっ!此処に女神が居るっ!
え…好き!愛してる!
え…俺の嫁天使過ぎない!?女神過ぎないっ!?可愛すぎない!?
好き過ぎて心臓止まるかと思った…危ねぇ…。
「ふふ。床だと冷えますし、皆様一回場所を変えましょう?ささ、お話は此方でしましょう?ね?あ!椅子が足りなくなっちゃう…。
すみませ〜ん!どなたか椅子二脚こっちに下さいませんか〜?」
そう言って妻は自分を立たせ…あろう事か自分達と一緒に転移して来たダイニングテーブルへと王達を誘う。
まだ湯気が立ち込めるすき焼きを囲みながらその場にそぐわないであろう豪奢な出で立ちの王と王妃が椅子に座る姿は…ハッキリ言って場違い感が凄いです…
。
え…大丈夫かな?不敬罪でいきなり打ち首エンドとかならないかな?
「王様と王妃様はお腹は空かれてないですか?良かったらすき焼きご一緒に如何ですか?
あ!すき焼きっていうのは私達の国のお料理で!とっても美味しいんですよ〜。」
屈託の無い笑顔で国のトップに異界の食べ物を勧める妻…。
うん…確かにすき焼きは美味しいね?
皆で食べたらもっと美味しいし、ぜひこの美味しさを知って貰いたいね?
けどね、見て?王様と王妃様ちょっとっていうか結構困ってるからね?
奔放過ぎる妻の行動に冷や冷やしながらも、心強さも感じているから不思議だ…。
あぁ…この女性と結婚出来て…幸せだなぁ…なんて場違い にも結婚十八年目にして改めて思い、愛する妻にときめく俺であった。
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