パチスロ中毒が進行するロリババア

クズの本領を発揮するロリババア

 某日。

 馴染みのパチ屋『アンラッキー』にて儂は意識を失いそうになっておった。


『GOAT』から『シャコラ―』

『シャコラー』から『GOAT』

『GOAT』から『異世界五郎』

『異世界五郎』から『シャコラー』

『シャコラ―』から『GOAT』


 投資は10万から先は数えとらんが、その間一度も当たりをひけておらん。

『乱れ打ち』『未練打ち』呼び方は色々あるじゃろうが、とにかく散々じゃった。歴史的大敗といってもよい。

 無論まだ負けと決まったわけではないが、望みは限りなく薄いじゃろう。


 長らくスロットを打っておると、何をやっても駄目な時というのはあるものじゃ。

 そういう時は早々に見切りをつけて出直すのが得策なのじゃが、せめて一度くらいは当たりを拝みたいというのも人心というものじゃ。……儂は狐じゃがな。


 儂が離席するそばから他の者に当たりを引かれるのは実に気に食わん。

 台に遊ばれておるような気さえしてくる。

 いいかげん我慢の限界じゃった。


 最後に打っておった『GOAT』で隣の人間が座るなり当たりを引いた瞬間、とうとう儂は叫んだ。


「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!」


 儂は台に拳を叩きつけた。


「猿が機械のボタンを押すのはのぅ! ボタンを押せば稀に餌が出てくるからじゃ! 最初から全く餌の出ぬ機械じゃったら猿もボタンを押さぬわバカタレがぁ!」


 そして拳だけでは腹の虫が収まらず、三連続で頭突きも見舞ってやった。

 たちまち周囲の客から緊張感が伝わってきた

 電車で危ない人間が乗ってきおった時に漂う空気に近い。


 儂が見物しておる側じゃったらニヤニヤ笑うのじゃが、自分が当事者になると何とも言えぬ気持ちになるものじゃな。


 台が当たらぬのなら……せめて人や物に当たらねば気が済まぬ。


 儂は遊技を中断して血走った目で店内をうろつき始めた。

 目が合えば因縁をつけて襲いかかってやるつもりじゃった。

 じゃが、他の客は皆こぞって気まずそうに目を逸しよる。


 儂は気弱そうな小僧が打っておる台を思いっきり覗き込むと、そのまま身体をくるりと反転させて下から小僧を見上げてやった。じゃが、それでも小僧は身体をのけ反らせて迷惑そうに目を逸しよる。


 ええい、軟弱なチンカス共が……。


 人が駄目なら物じゃ物。


 どうする。厠の紙を大量に詰まらせてやるか?

 それとも吐き捨てたガムをメダルの投入口に詰まらせてやるか?

 ジュースを筐体に流し込んでやるという手もあるの。


 無論、店の者に見つかれば出禁は必至。

 儂は過去に厳重注意を受けておるので、おそらく次は一発れっどかーどじゃ。

 果たして出禁の危険性を背負ってまでやる価値はあるのじゃろうか。


 諦めるしかないのか……儂はなんて可哀想な狐なのじゃ。


 がっくりと項垂れた儂は仕方なく元の席に座り直した。

 財布の中は残り1万円。

 これだけはどんなに負けても使うまいと思っておった。

 勝っても負けても帰りに旨い物を食べたかったからじゃ。


 じゃが、ここまでボロボロにされたからにはとことんいってやろうではないか。


 そう思って遊技を再開した途端、奇跡は起きた。

 きっと日頃の行いが良いからじゃろう。

 儂が怒りに任せてレバーを強打した刹那……。


――ぷちゅん――


「ふほ?」


 今……確かに画面が暗転しおった。


 ま、待つのじゃ。

 儂はまだ心の準備ができとらん。


 今GOAT揃いが成立したら儂は……儂は……。


「メェぇぇえええええええええええええええええええええええ!」


「いっっッっぎぃぃいいいいいいいいいいいいいいーーーッッ!?」


 儂は踏ん張って堪えようとしたが無駄じゃった。

 GOAT揃いのふぁんふぁーれという天上の調べの前では重力など無に等しい。


 じゃからほれ。

 儂はこの通り宇宙さえ……。


「お、おぉぉ……」


 ゆにこぉんの毛皮で作りし至高の衣を纏った儂の身体は椅子から離れて浮遊した。

 快楽に酔いしれる儂の耳元で動物たちが笛や太鼓を鳴らしておる。生きとし生けるもの全てが儂を祝福しておるのじゃ。

 

 極めて限定的な数瞬の宇宙遊泳を楽しんだ後、儂は頭から店の床に落下した。


「ギ……ギギギ」


 とても乙女の口から出たとは思えぬ呻き声と共に儂は泡を吹いた。

 周りの野次馬たちが儂の痴態を携帯のカメラで撮影しておる。

 ええい、チンカス共が。見せ物ではないのじゃぞ。


「お客様!? 大丈夫ですか!」


 いつぞやの店員がすっ飛んできおった。


 いかん。このまま救急車を呼ばれては困る。

 せっかくのGOAT揃いが無駄になってしまうではないか。


 何かせねば……。


「ぎひひひ、らぶあんどぴーすじゃ」


 儂はそれぞれの手でVサインを作って無事を示し、恒久の世界平和を祈るのじゃった。

 後日、心ない者たちによって儂の無防備な姿が拡散されたのはまた別の話じゃ。



 1時間半後。

 儂は店外にいた。


 (ふむ、結局3000枚と少しか)


 これでも1日とーたるでは相当負けておるのに、最後にまとまった枚数が出れば勝った気になるのはなぜじゃろうか。

 逆にとーたるで勝っておっても最後にメダルを呑まれてしまえば負けた気分になる。これはよくない感情じゃ。


 じゃが、あの場で儂が芋を引いておれば今手元にある6万円はなかった。

 つまりは実質6万勝ちじゃ。


 よし、主に内緒で回らぬ寿司と洒落込もうではないか。

 頑張った自分へのご褒美じゃ。

 儂はご機嫌で寿司屋へと向かうのじゃった。

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