第2話 吸血女王・メアリ・ブラッドブルム

 俺は廃村に【商人】として転生した。

 魔物に襲われて人がいなくなった村なので、名前はない。知っている人が遠くへ行ってしまったためだ。

 だから、この廃村は復興した暁には名前が「商人の名前+ブルク」という形になる。「ブルク」はヨーロッパによくある地名で「城」を意味する。廃村から復興して一大勢力になるこの【商人】の街は城を築いて周囲を威圧するボスになる。貴族の位もこの地方の王からもらう。とんだ悪役貴族だ。


 パチパチパチ……。


 たきぎの音が響く。


「最終的にはここに城ができるんだ。凄いね、俺」


 今はただの壊れた木製の家しかない。

 その【商人】———ユキトに転生した俺は、夜の廃村で孤独にウサギを焼いている。

 その辺で捕まえた———一応魔物の【灰色ウサギ】を頑張って捕まえて毛皮を頑張ってはいで、肉を火にかけている。

 この焚火たきびも頑張って火打石を使って付けた。

廃村の中を頑張って探った。


「マジでここは剣と魔法の世界なんですか? 普通に俺、無人島に遭難した人みたいになってますけど……」


 普通にサバイバル。

 自然と戦っている。


「なんで【商人】は魔法使えないんだよ……商人差別だろ。多少は使えろよ。こんなんただの一般ピーポーじゃん……全然チート転生じゃない……」


 だけど、


「まぁ、ここからなんですけどね」


 と、すこし遠くに見える火山を見つめる。

 俺は焼けたウサギの肉を、食べずに布の袋に包んで立ち上がった。


 ◆


 『ファイナルクエスト7』のストーリーの話。

廃村があるアリア地方では『【商人】、悪役貴族化、ボス化からのフルボッコ』イベントの他にもう一つイベントがある。

 廃村の近くにはソア火山という活火山があり、そこには火を吐く大怪鳥が住んでいるダンジョンがあるのだが、その入り口のすぐそばに小さな洞穴がある。

 そこは最初に来た時には何もないのだが、あるイベントをこなしてフラグを立たせると、その洞穴である別のイベントが起きる。


「お、いた。良かったぁ~、勇者一行ちゃんとお前を〝倒して〟くれていたかぁ~」

 そこまで奴らがイベントを進めてくれていなかったら、詰んでいるところだった。俺が。


 ———洞穴そこそこにいたのは、隻腕せきわんの女だった。


「何ヨ。あんた、この私を……殺しに来たの……?」


 マントの下にはコルセットと、中央部をなくした、パンツを見せつけるようなスカート。

 彼女の元々の巨乳もあり、煽情的せんじょうてきなファッションだ。

 まぁ、ファンタジー世界の敵キャラ・・・・のデザイン何てこんなもんだろう。


「よお。多分初めましてだな。魔王軍幹部、六天将軍の一人、吸血女王ヴァンパイアクイーン———メアリ・ブラッドブルムさん」


 名を告げると彼女は吸血鬼らしい鋭い犬歯を見せつけてきた。

 頬を汗が伝っている。


 吸血女王ヴァンパイアクイーン———メアリ・ブラッドブルム。


 それは『ファイナルクエスト7』のボスキャラの一人で中盤で戦う強敵、魔王軍幹部だ。吸血鬼らしく従者を引き連れ、体力がなくなると従者の血を吸いつくして回復する。厄介なボスだ。


「まさか、勇者一行がこんなところにまで私を殺しに来るなんてね……」


 メアリはアリア地方の西の端にある港街、ポルトポルトを支配していた。そんな彼女を倒したら勇者一行は船を手に入れ、地続きを歩くたびから大航海の旅へと世界が広がる。

 そんな一つの区切りのボスの彼女だが、現在はアリア地方の東の端の廃村近くに身を潜めているという哀れな状態だ。


「あんたの仲間の勇者に敗れて腕をもがれて力は半分に落ちたけれども、それでも私は魔王軍六天将軍の一人、吸血女王ヴァンパイアクイーン! ただでは死なないわよ……!」


 包帯で応急処置をしただけの、腕の失われた左肩を押さえるメアリ。

 そして牙を見せつけ、


「あんた如きブ男……魔力回復の助けには雀の涙程度でしょうけど……! その全身に流れる魔力を伴ったマズい血! それでも吸いつくしてやる!」


 全身に殺気をまとわせる。

 が———、


「待て。俺はお前を殺しに来たわけじゃない———仲間にしに来たんだ」

「え……?」

「勘違いをしているぞ、メアリ・ブラッドブルム。俺は勇者一行じゃない。どちらかと言うと勇者の敵だ。最終的にボスとして倒されるからな。お前と同様」

「どういうこと……何を言っているの?」

「要は一緒に協力して時期に来る勇者に備えるために協力しようという話だ。そのためにお前は俺の仲間になってもらう。そのために———ほら!」


 俺は、ポイッと布袋から取り出した、焼けた【ウサギ肉】を彼女に向かって投げつけた。

 なぜそういう行動をしたのかと言えば、これが『ファイナルクエスト7』の敵を仲間にするときの、必ずるプロセスだからだ。

 王道で、古さが漂うRPGなので昔のちょっと雑なRPGのテンプレが採用されている。


 アイテム【肉】は必ず〝投げ〟られ、どんな魔物もそれに〝食らい〟つき、その味がお気に召したら「仲間になりたそうにこちらを見る」。


 それがお決まりのテンプレートで、ここはその『ファイナルクエスト7』のゲーム世界なのでお決まり通りにやったら————、


「ガァ‼」


 怒ったメアリが———俺の喉元向かって噛みついてきた———。

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