第3話 いざ王都
王都グランシャリア、まさに繁栄という言葉を形にしたかのような都市だった。
朝早くから大通りには人々の喧騒が絶えない。
貴族の馬車が石畳を滑るように進む一方で、荷馬車を引く商人や、大きな籠を背負った行商人が行き交い、活気に満ちている。
広場には様々な露店が軒を連ねており、果物や香辛料、手工芸品などの品々が目を引く。
客を呼び込む威勢のいい声、値引きを求める客の交渉、笑い声があちこちで響いていた。
特に新鮮な魚介類が並ぶ一角は、朝市の賑わいが一層際立っており、商人たちが声を張り上げて競りをしている。
通りを進むと、冒険者たちが集まるギルド前には、鎧や武器を身にまとった屈強な男女が談笑しているのが見えた。
中には、子どもたちに自分の冒険談を語り聞かせている者もいる。
その様子に子どもたちは目を輝かせながら聞き入り、夢中で質問を投げかけている。
王都の中心部に向かえば、壮麗な大聖堂の鐘の音が響き渡る。白い大理石で作られた建物は、陽光を受けて眩しいほどに輝き、その荘厳な姿が見る者を圧倒する。
参拝者が階段を行き交い、祈りを捧げる姿が静かな敬虔さを感じさせた。
王都といえば忘れてはならないのが王城ラグナ。
王都のどこにいても目に入るその白亜の城は、まさに王国の威光を象徴する存在だ。
高くそびえる尖塔は空に向かって伸び、その姿はどこか神々しさすら感じさせ人々の目を引く。
巨大な正門には美しい彫刻が施され、門を守る衛兵たちが堂々とした態度で警備に当たっている。
城の前を通る馬車や人々は、みな少しだけ足を止め、その圧倒的な存在感に目を奪われているようだった。
そして王城ラグナと同じく王都といえば、俺がきた目的でもあるアルカナム・アカデミア。
王国はもちろん大陸中でもトップクラスの教育機関といわれている。
大賢者キリア・ルク・セレスタを校長に教師陣も名だたる魔法使いで構成されている。
アルカナムの寮に入れるのは入学の一週間前、それまで後三週間はある。
王都観光してもお釣りがきてしまう。
賊やらモンスターの襲撃を想定して余裕を持って出発したが、予定よりも襲撃が緩かった。
「リュカ、大図書館に行くぞ」
「承知しました」
俺と同い年の女騎士見習いは護衛としてアルカナムに共に入学する。
アルカナムは貴族だろうが王族だろうが関係者以外立入ができない。
護衛であろうと関係者として認められるず、家族であってもそれは変わらない。
護衛が欲しければ同年代を入学させるのが一般的だ。
まさかリュカ一人しか合格できなかったとは思わなかったが、アルカナムの倍率を考えるに当然なのかもしれない。
というか、護衛が枠を取るせいで倍率が上がってる気がしないでもないが俺の知るところではない。
むしろぞろぞろと護衛に付きまとわれても鬱陶しいから逆に良かった。
「ヴァルディアには行かなくてもよかったのか?」
道すがらリュカに話しかける。
ヴァルディア騎士学園はアルカナムと双璧をなす王国の教育機関だ。
騎士を目指すなら誰もが憧れるはず。
俺の護衛として五年間を棒に振るとまではいかないが、やはり遠回りになってしまうだろう。
「ご当主様の意向を受け、我が父が決めたことですから私はその命に従うだけです」
リュカの父というとグレイヴンロック騎士団長のドラン・グレイストン、俺の父の盟友ともいえる存在だ。
上司やら父親のせいで自分の夢を諦める。
騎士を目指しながらも、アルカナムに入学できるリュカは優秀なんだろう。
何かもったいない気がするけど、本人の意思は硬そうだしこれ以上は踏み込みすぎか。
「若様、大図書館はこの道を抜けた先にございます」
大図書館へ向かう途中、広場を抜け、賑わう市場通りに足を踏み入れた。
路上には色とりどりの品が並び、行き交う人々の声で溢れている。
新鮮な果物の香りや、焼き立てのパンの香ばしい匂いが漂う中、俺とリュカは人波を避けるように歩いていると、ふと通行人と薄汚れた服の少年がぶつかるのが目に入った。
少年はふらついて籠を落として中から果物が転がる。
「何をしているっ!! 手が遅い上にしょうもないミスをしやがって」
果物屋の店主らしき中年の男が、細い体つきの少年に大声で怒鳴る。
少年は膝をついて道に散らばった傷ついた果物を拾っていた。
「すみません、すみません……」
少年が消え入りそうな声で謝るが、店主はさらに声を荒げる。
「すみませんじゃ済まないだろっ!! これじゃ売り物にならない、今日の分の賃金は無しだ」
周囲の人々は一瞬、店主と少年に視線を向けるが、すぐに興味を失ったように歩き去る。
「ちょっと待ってくれ」
「何だね、あんた?」
思わず声を上げ、店主の前に立つ。
店主は怪訝そうな顔で俺を見下げる。
「その少年は通行人とぶつかっただけだ、それで賃金を無しにするのはおかしいんじゃないか?」
俺の問いに、店主は眉をひそめる。
「このガキが不器用なのが悪いんだ。そもそも、雇ってやってるだけありがたいと思ってほしいくらいだ、教会の願いでなければこんなガキを雇うわけないだろ」
「はぁ……これでその果物は俺が買うよ」
俺は銀貨を一枚差し出し、少年が持っていた籠を奪い取った。
少年は驚いた顔をしてから、震える声で答えた。
「……ありがとう、ございます……」
少年は終始俯きこちらを見ようともしない。
そんな生き方しかしてこなかったからか、すべて自分が悪いと思っているようだ。
あまりにも理不尽だ。
しかし、それがここでは普通で通行人と少年がぶつかるのを見ても誰も何も気にしない。
「若様、このようなことをしては……」
リュカが口を開きかけたが、俺はそれを軽く手で制した。
「この程度で大騒ぎになるような話でもないだろ」
果物の籠をリュカに渡してその場を去り、大図書館への道を再び歩き始める。
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