第10話 塾で隣の席の清楚美人黒嶺さんは俺の事を殺そうとしてくる

「いってきます」


母さんの説教の後、軽くシャワーを浴びて昨日の疲れと、今日の疲れを半分くらい一緒に流して、制服に着替えてから家を出た。


「おはよ」

「由乃か、おはよ」


家を出てすぐ、同じく家を出てきた直後の由乃と遭遇した。


「あんた、今日はいつにも増して生気がないわね」

「あ、わかる?実はさっきから、謝罪の仕方と謝罪文を考えててな」

「なに、なんかやらかしたの?犯罪なら早く自首した方がいいわよ」

「俺、犯罪やるやつだと思われてんの?」


どっちかって言うと、犯罪を犯そうとしてたのは相手方の方だし。


「なんで言えばいいんだろ、殺してきそうな勢いでキレてる人になんて言えば許してもらえるか、かな」

「それは無理でしょ…大丈夫よ、もし死んでもお葬式には参加してあげるから」


落ち着きなとでも言いたげに、俺の肩に手を置いてサムズアップをする由乃。


「いやもうちょっと考えてくれよ、俺が死んでもいいのか?」

「別に、そう言う訳じゃないんだけど。てかあんた、昨日おばさんに何も言わずに外泊したらしいじゃない」


多分謝罪文が思いつかなかったからか、謝罪文の話から、俺の説教理由の話にすり替えられた。


「今はそんな話してる場合じゃないんだけど。てか、誰から聞いた?」

「マ…お母さんが、おばさんから聞いた話を私に話しただけ」


今回は別に広められようとギリ許せる話題だけど、俺の話を安易に他の人に話されるのは、いつかまずいことになる気がするからやめて欲しい。


「で、誰の家に泊まったのよ」

「そんな話は、どうだっていいんだよ!とりあえず、謝罪文を考えてくれ」


また刈谷さんなんて言ったら、何されるかわわかったもんじゃないし話を本筋に戻そう。


「なによ、そんなに大声で。まあ、どうせあんたがそらすってことは、刈谷さんなんでしょ」


バレてた。


「ま、まあとりあえず謝罪文を…」

「殺されそうなら、土下座するなりなんなりすれば?私はちょっと急ぐから」


そう言って由乃は、早歩きで学校方面へ歩いていった。


うん、普通に見捨てられた。



「H、He、Li…まずこれら20個の元素記号を覚えてください。まあ、さすがに今回の小テストも5回目だし、さすがに全員もう覚えたよねそれじゃ…」


由乃に見捨てられてからも、1人でずっと、授業中もどう謝るかを考え続け、俺は1つの方法を思いついた。


そして今は、今日の塾の最後の授業の理科の時間でこ

の後、隣の人を何かしらで呼んで、作戦を実行するつもりだった。


「梶谷さん、どうぞ」

「ありがとう」


採点で預けていた元素記号の小テストが俺の手元に帰ってきた、点数を見ると19点ベリリウムをべリウムと書く典型的なミスをしていた。


そして点数の下に隣の人の文字で、「授業後自習室に来てください」と一言添えてあった。


自習室か、まああそこなら殺される心配は無いし大丈夫か、まあ授業後だと30分くらいしか居れないけど、俺の謝罪には十分だ。



「はい、これで今日の授業終わり」

「先生、自習室に残っていいですか?」

「別にいいけど、長居するなよ。俺たち、残業はごめんだからな」

「わかってます、とりあえずありがとうございます」


一応先生から許可を得て、自習室に行くとそこには1人、静かに座る黒髪清楚美人しかおらず、とても静かな空間に優雅に座る美人の構図が完成していた。


「すみません今来ました、て言っても授業が終わったのがつい5分前くらいですけどね」

「…」


うちの塾の自習室は、そこそこ広いため俺の普通くらいの大きさの声も軽く反響して残る。


「あ、あのー」

「梶谷さん」

「は、はい」


全く話さないと思った矢先、急に名前を呼ばれた。


とは言いつつ昨日のせいで声を聞いただけで少し背中に冷や汗が…


「昨日の話の続きなんですが…」


そう言った彼女は、学生鞄の中に手を入れ何かを探し始めた。


「私、大事な話があると言いましたよね。その話なんですけど…あった」

「は!?」


彼女が鞄の中で何を探しているのかと思えば、取り出したのは昨日のような殺意高めのハサミではなく、普通に包丁。


わざわざ塾の中で包丁とゆうことは、普通に殺したいと思ったら俺を殺すと…


「ちょ、ちょっと待って先に俺いいかな?」

「なんですか、大丈夫ですよ。この包丁は使う予定ないので」


なんだよまだって怖すぎる。予定ってことは何かしらで使うってことだし。


「と、とりあえず、先に俺にターンをください」

「そんなに言うならわかりました。でも、手短にお願いします」


良かった時間が貰えた、俺がやりたかったことはまあ、例の如く謝罪なんだけどここに来て俺の閃いた作戦が炸裂する。


さん昨日はすみませんでした!」


その場に土下座して、地面に頭を擦り付けてめいいっぱい謝る。俺の思いついた作戦はこれだけだった。


「…いまなんと?」

黒嶺くろねさんって…もしかして名前間違えてましたか?」

「あってるんですけど…」


そう、俺が思いついた作戦はとりあえず誠心誠意謝る!これ一択だった。こすいことしても殺されそうだし。


「昨日は、何か大事なことを言いそうなタイミングで、あのようなことを言ってしまいすみませんでした。黒嶺様が言うのであれば、靴でも舐めるので、どうか」

「いやそこまでは…」


俺の謝罪に気圧されたのか、それとも若干引いてるのか1歩後ろにたじろぐ黒嶺さん。


「とりあえず梶谷さん、頭をあげてください」

「はい」


頭をあげるとしゃがんで俺と同じ目線にいる黒嶺さんの顔が、そこそこよ距離に。そして全く表情は微動打にしてないけど、やはり美人だ。


「おーい梶谷、そろそろ帰ってくれ。先生達大事な話して帰りたいから…なんだ黒嶺もいたのか、包丁持ってうちの塾、家庭科はやってないから家庭科の自習なら家でやれよ」


この講師は、今の俺が地面に正座して黒嶺さんが包丁持ってる状況は、何に見えてるんだよ。


「とりあえず、帰りましょうか梶谷さん」

「そ、そうですね帰りましょうか」

「そうか、早く帰ってくれ。先生も帰ってゲームがしたいんだよ」


こいつ本当適当だな、とは思いつつ、持ってきた荷物をまとめて黒嶺さんと一緒に塾を後にした。


「黒嶺さんさっきの話なんですけど…」

「待ってください、次は私の番です。昨日から言ってますよね、大事な話があるって」


そういえば黒嶺さんの大事な話ってなんなんだろ、遮ったら殺そうとしてくるくらい大事なのはわかってるんだけど。


「実は私、あなたのことがなんです」

「へーまた………は!?」


暗い町中ただ1個の街灯の光に照らされて見える、黒嶺さんの顔は、全く笑ってもいない、けれどもそれでいて真剣な眼差しだった。


「ですが、これを昨日言おうとしたら、あなたが変なことを言い出したので」

「申し訳ない」

「とゆうか、さっき「また」と言いましたけどもしかして、過去にそういう経験がおありなので?」

「別にそう言う訳では…」


実際ある、なんなら結構直近で1回あった。めっちゃ刈谷さんの事だけど。


「あ、答え返さないとか」


答えを返すとなると、大事なのは黒嶺さんと俺との関係値か。でも、関係値で考えると、10〜20ぐらいってとこか、今まではただの勉強教えてもうだけの関係だったのだから。


それ以外で考えると、顔だとか身体になるのか。最低だけど。


黒嶺さんの顔は100人中99人が、綺麗だとか美人といった、プラスな感想を出すくらいには顔がいい。体はと言うと、とても綺麗に整えられたスリムな体と言える。


となると、答えは…


「別にいいですよ、答えなんて。実際、ただの思いの消化程度のものだったので」

「思いの消化…」


消化程度とはいえ、結構大事なものを俺は遮ってしまったのかとても申し訳ない。


「でも、これを言ってしまったので、もう1つ梶谷さんに言っておきましょうか、昨日のこともありますし」


告白に何かを付け足すときって、あんまりいい事じゃない気がするけど…


「私…もし梶谷さんが私以外の子とお付き合い始めたり、仲良くしてるとこ見たら、梶谷さん諸共その子も一緒に殺しちゃうかもしれないです」


おっと、予想的中してしまった。てか、かもしれないって、本人もそこは未知数なのか。


とりあえず、この不穏な話を逸らすような話題を出さないと。


「と、ところで1個聞きたいことあるんですけど」

「梶谷さんの聞きたいことは、勉強以外嫌な予感しますけどどうぞ」


どうやら俺の質問は全くもって黒嶺さんには受け入れ難いものらしい。


「気になったことってのは、俺と黒嶺さん塾で会う以外接点ないのに、なんで好きになったんだろうなって。俺、名前も知らなかったくらいなのに」

「は?」


あ、まずいまたノンデリ発言だったかもしれない。黒嶺さんの力が抜けて地面に顔向けてるし。


「へー、梶谷さんはそんなに」

「危な!」


今回はハサミを突き出すのではなく、包丁を上から振りかぶって攻撃してきた。真面目に街灯で照らされてなかったら、脳天直撃で死んでた。


「ちょ、ちょっと黒嶺さん?」

「安心してください梶谷さん、私梶谷さんがもしこれで死んじゃっても、ちゃんと後をおうので」

「そう言うことじゃないって!」


ここで1つ説明を入れ直そう。


塾で隣の全身黒1色と言ってもいい美人黒嶺さんは、塾の模試では合計点で毎回全国3位以内に入っていて、しかもここら辺では1番頭のいい黒女に通っているらしい。そして1つ項目を追加しよう、彼女は俺をとしてくる。

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