第11話 黒嶺さんが好きになったのは

黒嶺はとにかく勉強一筋な人生を送っている。

小学生の頃から、テストはだいたい満点、とは言っても彼女の親がすごい教育熱心な訳ではなく、ただ黒嶺自信が勉強をしっかりやっているだけだった。



「黒嶺さん、さっきの授業ここわかんなかったんだけど、教えて貰ってもいいかな?」


黒嶺の高校のクラスメイトの1人が、数学の教科書をもって黒嶺の席へやってきた。


「ごめんなさい、これから塾があるので」

「あ、そうなの私こそごめんね」


比較的冷ややかな声で断った黒嶺は、1人静かに教室を後にした。


「どうだった?」

「無理だって、にしても冷たすぎやじゃない?一応クラスメイトなのに」

「まあ、天才は勉強にしか興味無いんだよ。だってクラスの親睦会にも不参加だし」

「それもそうか」


黒嶺が教室を後にする中、後ろで笑う2人の女子。


黒嶺の通う学校は、黒嶺の住むところ周辺では1番頭のいい黒沢女学院に通っている。そのため一応さっきの2人も頭はいいが、学年1位の黒嶺ほどでは無い。


そんな彼女の生活は基本的に、学校へ行って塾に行く、または家で勉強、国語力増加のために読書といった、頭のおかしい生活をしていた。


まあ、そんな勉強が恋人みたいな彼女は告白をしようとして失敗した。


梶谷優、彼女の優に対する第一印象は不真面目と言うのが第一印象だった。


「おい優、起きろ授業中」

「あ、ごめんなさい」


塾に入ってから最初の1ヶ月ぐらいの間優は、ずっと先生に授業中に寝て怒られていた。


「あの、すみません。俺、ここの問題がわかんないんですけど、教えて貰ってもいいですか?」


優が眠っていた授業後、直ぐに黒嶺の方を向いて、さっきの問題のやり方を聞こうとする。


いつもなら、拒否して立ち去るとこだが、優に対しては少し違った。


「それ、そんなに難しくないはずですが。まあ、わからないのなら教えましょう」


いつも他人には興味のない黒嶺は、珍しく優には簡単に勉強を教えていた。


それは何より、この頃の黒嶺は優を軽く見下していて、あまりに不出来な優に対して、哀れで勉強を教えるといった感じだった。


まあ、実際の話をするとこの時の優は受験勉強の時の生活リズムが治らず、ずっと夜遅くまで起きていたとゆうのが理由なのだが。



まあそんな勉強鉄人な黒嶺が優に惚れたのは、優への告白からだいたい1ヶ月前くらい前、黒嶺が居残り自習をして帰っている途中だった。


「そこの黒い美人さん」


1人真っ暗な夜道を歩いていると、大学生くらいの男に肩を叩かれ呼び止められた


「やめてください、私急いでるので」

「もう、そんな怖い声で言わなくても。俺はそんなヤバいやつじゃないのに」


男は酔っているのか、気の抜けたような声で喋っていてなんともうざい。


「君、こんな時間に1人で歩いてたら危ないよ。お兄さんが、お家まで連れてってあげようか?」

「いらないです、私の家ここからすぐですし、自己防衛くらい自分でできます」


鋭い目で男を睨むも、周囲が暗くて男には黒嶺の表情が見えていないからか、全く動じない。


「いやーダメだよ、その短い距離でも、犯罪は起こり得るんだから」

「あなたが、その一端を担って居そうですね。それでは」

「ちょっと待ちなって」


そのまま足早に逃げようとした、黒嶺の腕を男が思いっきり掴んだ。


「離してください」

「君が人の善意を無下にしようとするから」


男の力は強く黒嶺が引き剥がそうとしても、全く離れずなんなら引き寄せられている。


「ほら、だがらね俺と一緒に帰ろうか」


言葉と共に男と黒嶺との距離が近くなっていく。


冷徹な黒嶺にしては、珍しく焦ったのか身体中に軽い悪寒が走る。


「あ、あのー…」


黒嶺が力なく男にされるがままになりかけていた時、後ろからとてつもなく哀れな男の、聞き覚えある声が聞こえた。


「ほら、早く行こうか、ところで君名前は…」

「あのー!」

「うるさいな、なんだよ俺がこの子と楽しく帰ろうとしてたってのに!」


1回無視したけれど、食い下がらなかった男の子にキレるナンパ男。


「いやー暗くて良く分からいんですけど、その子怯えてないですか?」


指摘されて黒嶺自身も自覚したけれど、黒嶺の体は恐怖で震えていた。


「いや違うね、この子はこれから起こることに対する期待で震えてるだけだから」

「そうですかね、顔が良く見えないからわかんないな。ちょっと照らして見ましょうか」


助けに来てくれた男の子がバックからスマホを取り出して、カメラをこっちに向ける。


「喰らえフラッシュ!」

「痛ぇ!目が!」


男の子はその場で写真をフラッシュ付きで、撮りナンパ男の目を潰した。


黒嶺も多少なり目に光が入ったものの、半分くらいの光は男に隠れてたおかげで、そこまで目にダメージはなかった。


「逃げますよ」


ナンパ男の目が死んだことを確認してから、黒嶺の手を引っ張って暗い夜道をかけていく男の子。



「多分ここら辺まで来れば大丈夫かな。大丈夫ですか?何となく震えてた気がしたんですけど」


男から逃げて、さっきの場所から少し離れた位置にある公園へ2人は逃げてきた。


「はい大丈夫です」


公園の中は月の光以外で照らすものがなく、お互いに顔がほとんど見えない状況だった。


「大丈夫なんですね、それじゃあ俺はこれで」

「ちょ、ちょっと待ってください。ありがとうございます、梶谷さん」

「あれ?俺名前言ったっけ?まあいいか、それじゃあ美人のお姉さんも、これから気をつけくださいね」


笑顔で手を振りながら、公園を後にしていく優。黒嶺は、まだ少し痛む手首を擦りながら、その場に固まっている。


(梶谷さん…


恐らく黒嶺の恋心は、軽い吊り橋効果と、いつものだらしない授業態度との、ギャップによるものなのだろう。


しかし黒嶺も恋愛初心者、中学の時に何回か告白はされたものの、恋愛の意味がわからなすぎて振るし。

黒嶺の読む本もジャンル的にも、恋愛というものは全くない。

そのため黒嶺は、優に告白しようとしてあの結果に陥ってしまっていた。


あれは、八割優が悪いと思うけれど…

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