担当者、決定!
「先程は部下が失礼しました」
僕が今いる場所は、【編集長室】。
僕の目の前にはエリートサラリーマンって印象の男性が頭を下げていた。
この人が、この出版社の編集長らしい。
「いやいや、頭を上げてください!別に僕は何もされてませんから」
「そう言って頂けて幸いです。素晴らしいお方だ」
「賞賛し過ぎですよ。僕はまだまだです」
「いいえ。我々はあなたに契約を持ちかけようとしていました」
「けけ、契約??」
「はい、担当の編集者が付きます。ですが、先程のようなことがあれば、契約をしていただけない方もいらっしゃると思います。もちろん、先生も断ってもらっても結構です」
「ええ、えっと……僕で良ければ契約したいんですけど、問題ないですか?」
僕としては、大手の出版社だし、それに天上院先生もいるから、気持ちとしては落ち着けると思う。
でも、編集長が言ったように、僕みたいな初めて訪れた人に、初対面からあんな態度をされると契約なんて結びたくはなくなるだろうな。
でも、この編集長さんも改善しようと動くと思うし、さっきの編集さんも流石にこういうことはしないと思う。
だったら、この先のことを考えても、契約していて損はないと思う。
「それはありがたい。感謝します。担当編集は天野をつけます。入ってこい」
「はい。失礼します」
うわ、すごい美人さんだ。
黒髪を短く揃え、キリッとした顔立ちから、その性格が伺える。
なんて、頼りになりそうな人だ。
「あいてっ」
前言撤回。大丈夫かなこの人。
何もないところでこけたんだけど…。
「こほん。彼女は
「ええ!?このお方が【ハル】先生?わ、私なんかが神の担当でよろしいのでしょうか⁉︎」
「と言っているが、先生はどう思いますか?」
「別に僕は天野さんでいいですよ?」
正直にいうと、厳しそうな男の人とか女の人とかが来たらどうしようかと思っていたから、天野さんだったら話しやすそうだから、相談とかもできると思う。
陰キャは威圧が怖いんだ。
「それはよかった。ほら、天野も挨拶しろ」
「はひっ!今日からよろしくお願いします。先生」
「よろしくお願いします」
ーーーーーーーーーーーー
「それでは、書籍化の件での来社でしたね」
「そうです」
「ああ、敬語ではなくて大丈夫ですよ」
「僕は年上の方にはできるだけ敬語で接したいのでこのままで大丈夫です。天野さんこそ敬語じゃなくても大丈夫ですよ」
「いえいえ、神にタメ口なんて恐れ多い。むしろ先生こそ私を呼び捨てでもよろしいくらいなのに」
「呼び捨てはさすがに……それに僕は神じゃないですよ」
「いえいえ何をおっしゃいますか!もしかしてネットニュースをご覧になっていないのですか」
「見てないけど…」
「Twitterを開設されていたんですよね」
「はい」
「それがネットニュースになってるんですよ」
「うん?」
「これを見てください」
そう言って、天野さんが見せてくれたネットニュースの記事には、『ついに【ハル】がTwitterを始める!?』と書かれていた。
「なんですかこれ?」
「深夜12時に最新話を投稿されていますよね」
「はい」
確かに予約投稿していた気がする。
「その後書きに、『Twitter始めました』とリンク先を書かれていたと思います」
「書いてましたね」
「そもそもTwitter上では【ハル】先生の偽アカウントが大量にあったんですよ。しかも先生のアカウントは初期アイコン。初見で先生だと分かる人はいないかもしれませんね」
あ…確かにそうだ。
『Twitter始めました』しか呟いてないからわからないか。
だからアンチみたいなコメントが来てたんだ。
「ですが、リンク先が初期アイコンのアカウントに飛んだことで、本物だと皆さんも確信することができたため、このようにニュースにもなったのでは」
「そんな大袈裟な…僕はそこまで人気じゃないと思うんですけど。現に2年ほど音沙汰もなかったですし」
というと、目を見開いた天野さん。
「何をおっしゃいっますか!先生の作品は完結後に爆発的に閲覧者が増えていました。そして、ネット上でも作品について語られていて、当時もすごく人気だったんですよ?先生は感想にも丁寧に返していましたよね?」
それはもちろん。感想は僕にとっても次の話を投稿しようってモチベーションに繋がるし、何より読んでくれたことがわかるから、できるだけ全部返してきたつもりだ。
「完結してからは、【なっちゃお】から離れていたから気づかなかったんです。通知も消していましたし」
「いきなり感想が返されなくなったことで、『死亡説』が囁かれました」
「んん???」
「完結後に感想すら返信がなかったことから、『息絶えた』のかと」
なにそのあし○のジョ○。
「ですがこうして新しい作品を投稿し、2年前とも変わらず神作品でしたので、人気にふたたび火が着いたということです」
Twitterのアカウントを確認したら、ものすごい数のコメントと、つぶやきのいいね数。
10万超えてるんだけど。
「アカウントもいつのまにか15万人まで増えてる…」
「それだけ先生のことが好きな人が多いんでしょうね」
「それは、、嬉しいですね」
「さて、今回の書籍化については、まず先生の前作『ミッション』の書籍化について進めていきます」
「書籍化してもらえるんですか?2年前で時効になったと思いました」
「時効はありませんよ。それに今出しても人気になりますよ」
そうかな。正直ネットで読めるから、本を買わないって人も増えてると思うんだけど。
「書籍化するにあたって、先生には後書きと書き下ろしをお願いしたいのです」
「それは良いですが、売れると思いますか?」
「…」
「どうしました?」
「謙遜なさってますか?先ほども申し上げた通り、先生の人気は凄まじいです。そんな先生の単行本は大ヒット間違いないと思いますよ?すみません、上から目線で」
そこまで天野さんが太鼓判を押してくれるなら、心配いらないかな。
「わかりました。後書きと書き下ろしですね。数日でそちらに提出します」
「でしたら、連絡先を交換しませんか?」
「それもそうですね。お願いします」
僕は天野さんとLIMEを交換する。
「やった!神との連絡先ゲット!!!」
「そこまで大袈裟にしなくても…」
「いえ、大切にします!」
お、おう。
「書籍の誤字脱字、加筆修正は先生の方で行ってもらいます。今回はライトノベルとしての単行本となりますので、イラストがつきます」
おお!!イラスト!
僕の作品にイラストがつくのか…嬉しいな!!
「候補者として、【アマツアツメ】先生が上がっているんですよ」
【アマツアツメ】先生は知っている。
Vtuberのイラストの親だ。VTuberは、と動画配信を行う際に、CGキャラクターの「アバター」を使って出演する配信者のことだ。
アマツ先生自身も、VTuberとして活躍している。
なんと、登録者数は300万人。
可愛い声と、画力、そしてトークの面白さから人気だ。
大体は、お絵描き配信をやっているが、時には自分がキャラクターデザインしたVTuberとコラボなんかもやってる凄い人だ。
「マジですか?」
「はい。むしろ立候補されてきました」
「ええ!!」
「どうされます?」
「もちろん、僕が断る理由はありません。ぜひお願いしたいです!」
天野さんはニコッと笑うと、「承諾されたと伝えておきます」と言った。
「では、今日はここまでです」
「ありがとうございました!」
「こちらこそありがとうございます。分からないことがあれば、いつでも連絡されて構いません」
「わかりました。失礼します」
僕は出版社を後にした。
途中で天上院先生に絡まれりしたけど、夕方までには家に着くことができた。
「予約投稿は済んだし、ちょっとずつ修正もできた」
ほぅ……とカフェオレを飲みながら一息つく。
角砂糖9個入りの、極甘カフェオレだ。
天雷くんに影響された。
「まさか【アマツアツメ】先生がイラストを担当されるなんて……嬉しいな」
まさか、先生が僕の作品を読んでくれてたなんて。
直接お礼が言いたいけど、忙しいよね……。
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